石野の異世界放浪記4‐2
ヤタガラスのヤコには足が三本ある
しなやかに伸びる彼女の足は右足、左足、そして中央臀部に一本
その臀部の足の上には尾羽が生えている
ちなみに右足左足は人間と同じで、臀部の足のみカラスの足だ
「む、うぅん、重いですわねあなた。 それとワコ、彼らが言っていた化け物はどこですの? もう、足が限界ですの。 あなたと石野さんの重さでね!」
「もうちょっとですわん。 耐えるのですわん」
「く、ふぅん、んん、もう、無理、ですの」
セクシーな声をあげ、ヤコはゆっくりと下へ降りて行った
「あ、もうちょっとでしたのにわん」
「限界ですの、ちょっと休みますの」
ゼェゼェと荒い息をあげながらヤコはたまに戻った
「すまん、ありがとうヤコ」
石野は鳥の玉をしまうと、ワコの案内で歩き出した
「レコ、出てきてくれ」
石野は狐と書かれた玉を取り出してレコを呼んだ
飛び出すレコ
「はい、何でしょうか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。 お前たちはこの玉の中にどうやって入ってるんだ?」
「入ってるわけないじゃないですか。 そんな小っちゃいところに入ると思います?」
「い、いや、そうなのか?」
「はい、私たちは別の空間にいるのですよ。 そこには生活できる全てがそろっているので私たちは呼び出されていない間はそこで神力を回復しているのです。 今ヤコも満身創痍で戻って来たので休んでるところですよ」
「なるほどな。 じゃぁ戦いになるだろうからみんなしっかり休んでくれ、もしかしたら呼び出すかもしれんしな」
「まぁその神刀があれば大概のものに負けることはないと思いますよ。 なにせわちきの主様であるアマテラス様が作り出したものですからね」
石野は腰に下げていた棒を見ると、取り出して力を込めた
神力を授かっている石野はこの刀を自在に操ることができる
どんなことでも思いのままに
「ま、なるようになるか。 とにかく行ってみて俺自身の力でその化け物とやらを倒してみようと思う」
「石野さんなら大丈夫ですわん。 お墨付きですわん!」
「ありがとな、ワコ」
撫でてやるとワコは嬉しそうに尻尾を振った
「私も! 私も石野さんを応援するのです!」
「そうか、レコもありがとな」
レコの頭も撫でてやる
二人とも非常に嬉しそうにちぎれそうなほど尻尾を振った
「よし、行くか。 この先を真っ直ぐでいいんだな?」
「はいですわん! まーーっ直ぐ一直線ですわん。 その先に気配があるですわん」
「わかった。 ワコもレコも戻って休んでてくれ」
二人を戻し、石野は道をひたすら真っ直ぐに突き進んだ
すると、その道の先に先ほど出会った冒険者たちが落としたと思われる盾や鎧の一部、武器等が散乱しているのが見えた
それらの防具は点々と道なりに続き、巨岩の転がる岩山へと続いていた
その岩山をしばらく進むと、まるで得物を待ち受ける口のようにぽっかりと洞穴が開いていた
「ここか」
確認しなくてもわかる
冒険者たちの血が洞窟内へと続いているのだ
内部へと侵入すると、まだ燃えている松明がいくつか転がっていた
「ふむ、これは使えそうだな」
まだ新しい松明を拾い上げると、炎が赤々と洞窟内を照らす
そのままゆっくりと洞窟内を進んでいった
途中に冒険者の死体がいくつかあり、彼らに落ちていた旗などをかけておく
道は脇道など一切なく一本道で、その途中途中に悲惨な死体が転がっている
「ひどいありさまだな」
死した者へ黙とうをささげつつ、どんどん遠くへ進んでいった
血の匂いが濃くなっていく
そして石野はたどり着いた
そこには山と重なった冒険者の死体と、それをゆっくりと喰らい、咀嚼している人型の化け物の姿が見えた
「ウグルルルル」
血を口から滴らせ、石野の方を向く化け物
見た目は醜悪そのもので、目はギラギラと赤く輝き、口は耳まで裂けて鋭くとがった歯をのぞかせている
耳は尖り、手足は奇妙なほど長く、その手には冒険者の臓物が握られていた
「グジュルルル、ウギギ」
化け物はニタリと笑い、持っていた臓物を手放し手立ち上がった
「ジュゾゾ、ゲルジュベ、ウジュルルル」
何かを喋っているようだが、神の加護でも解読不能なほど法則性はない
「ウジュルルル、グジュ」
口を大きく開き、石野に襲い掛かって来た
「うお!」
突然のことに驚いたが、冷静に避けた
相手はどうやら石野のことをなめきっているようだ
「ふん、それが命取りになるのが分かってないあたり、知能は低いみたいだな」
神刀を取り出し、構える
「こう見えて俺は昔剣術を習っててな。 まぁ剣道だから術ってほどでもないが」
武器を構えたことにより、敵は少し警戒したようだが、相変わらず舐めているのか本来のスピードでは動かずに普通にとびかかった
「馬鹿だな」
石野は上方向へと一閃
鋭く伸びた剣先は化け物の首を捕らえて切り落とした
転がる頭は首から上がなくなった自分の体を見つめ、悟り、驚愕に目を見開いて絶命した
「見た目だけだったな。 さて、さっきの冒険者に報告しておくか。 ワコ、彼らの元へ案内を頼めるか?」
「ニャフ、ワコは休んでるからおいらが案内するにゃ」
「ニャコか、じゃぁ頼めるか?」
「任せろにゃ」
ニャコに先導され、洞窟を抜けて外に出ると、先ほどの冒険者であるモルクと共に、1000人近い騎士や冒険者が洞窟の入り口へと集まっていた
「あ、あなたは…。 よかった、無事でしたか」
「モルクさんか、化け物なら倒しておいたからもう大丈夫だ」
「ん? え? 何を言って…」
「奥の広場に死体がある。 冒険者の死体もそこにあるから回収してやって欲しい。 これだけいれば全員運び出せるだろ?」
「あ、え、ああ、はい」
理解が追い付かず混乱するが、すぐに冷静になって言われた通り洞窟の広場や道々から死体を回収して戻って来た
例の化け物の死体も一緒にである
「これを本当にあなたが? 一体あなたは何者なんです?」
「何のことはない。 俺はただの通りすがりだよ。 それより異世界から来たような人物を知らないか? わけあって探しているんだが」
異世界から来た人物と聞いてモルクはハッとした
心当たりがあるようだ
「はい、私はあったことがないのですが、王国に戻れば会えると思いますよ。 ただ忙しい人なのでなかなか会えないと思いますが…」
「そうか、ありがとう。 じゃぁ王国に行ってみるよ」
「待ってください! この化け物退治の報酬を受け取ってください。 満場一致で報酬の全てをあなたに渡すことになりましたので」
「いやいいよ。 そうだな、少し生活できるだけはもらっておきたいが、それ以外は君たちで分けてくれ。 弔いのためにも必要だろう?」
「え!? 小さな街がしばらく運営できるほどの大金ですよ!?」
「ならなおさらいらない。 ここに長居するつもりもないからな」
モルク含め一同は感謝した
そして彼こそが第二の救世主だと口々にたたえた
ヤコの種族を鵺からヤタガラスへ変更しました
その方がしっくりくるので
申し訳ないです