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温泉街ユトウ
この街でルーナ達は観光を楽しんでいた
火山が近く、常に温泉が湧きだしているため、観光客がひしめいている
薬湯や傷を癒す効果のある温泉も湧いており、傷を癒しに来る者も多い
「こんなにいっぱいあると迷っちゃいますねぇ」
「片っ端から入るぜな!」
温泉を目の前にしてすでに裸になったパリケルは早歩きで最初の温泉に浸かりに行く
「ちょ、ちょっと待ってよ。 恥ずかしいんだけど」
いなみは前をタオルで隠し、お尻を手で隠しながらしずしずと遅れてやって来た
それに付きそうようにリゼラスも入って来た
「いなみくんよ、慣れておかないとこれから大変だぜな。 まぁ鏡の前で裸になって自分の体を見てればすぐ慣れるぜな」
「嫌ですよ、そんな変態みたいなこと」
「何を言うぜな。 これはれっきとした研究だぜな。 それに自分の体なんだから誰にも迷惑かけないぜな」
パリケルは元男、いなみは覚醒前は性別はなかったが、男として育てられている
少女になって数年たっているパリケルはすでに見慣れていたが、いなみにはまだまだ照れ屋恥ずかしさがあった
「とにかく、温泉のルールはタオルを温泉に付けないことだぜな。 おっとその前に体を清めるぜな。 どれ、俺様が洗ってやろう」
「じ、自分で出来ます!」
いなみはそそくさと洗い場まで行き、石鹸とヘチマのような植物で出来たスポンジで体を洗い始めた
しかし、背中や翼に手が届かなかったため、結局パリケルに洗ってもらう羽目となった
「さて、次はルーナだぜな」
振り返ると、ルーナは力を使って自分で洗っていた
フワフワと浮くスポンジはルーナの翼や背中を丁寧に優しく磨いていく
「あ、僕もああすればよかったのか」
体を洗い終えると温泉を見渡してどれから入ろうかと吟味を始めた
様々ある中から最初は硫黄温泉に入ることにした
臭いは強烈だが、その効能は多い
「ふむ、最近肩こりがあるからちょうどいいな」
「リゼラス、なんだかお年寄りみたいだぜな」
「なんだと! 私はまだ217だぞ!」
「十分年取ってる気がするぜな」
「何を言うか! 人間の年齢なら17くらいだ。 まだまだ若いだろう!」
などと言いあいもあったが、一行は硫黄温泉を堪能した
次は天然炭酸風呂
炭酸の作用で肌が滑らかになるという
シュワシュワとした肌の感触がくすぐったさと心地よさを与えてくれる
お次は含鉄泉というその名の通り鉄分を多分に含んだ温泉
飲むこともできて、消化器の改善や貧血、痔に効果があるらしい
「痔じゃないけど、飲んでみよっかな」
いなみが飲料用の温泉をコップにすすいで飲んでみる
鉄分特有の血のような味がした
「う、美味しくないねやっぱり。 でも体には良さそう」
心なしかすっきりとした気分になる
それからいろいろと温泉を回り、人工の牛乳風呂などにも浸かって肌を潤した
てかてかつやつやの肌になった一行は、その温泉街にある宿で休むことにした
その日の夜は豪勢な食事が出た
「すごいぜな! こんなの食べたことないぜな!」
パリケルが舌鼓をうっているのはお刺身だ
どうやらパリケルの元いた世界オルファスには和食はないようだ
「これならいくらでも食べれそうだぜな!」
リゼラスは茶わん蒸しを気に入ったようで、おかわりを何度も頼んでいる
「色々和食は食べたけど、こんなに本格的なのは僕も食べたことないなぁ。 まさか異世界で食べられるとは思ってもみなかったよ」
いなみが食べているのは小さな鍋で、中には鶏肉、数種の野菜、エビ、ホタテ、魚等々、具沢山
出汁もよく出ている
「うん、魚介出汁やっぱりいいね!」
さらに鍋のしめとして雑炊にしてくれるらしい
「うん、味がご飯にしみわたってて美味しいや」
全て平らげ、満足した一行
しばらくは休暇を楽しみつくそうと明日の予定を建てるのを忘れずにその日は眠りについた
休暇は大事、ちゃんと取ろうね