3-41
数日かけ、レイロード王国へと到着した一行
その都市最大の神殿であるセレベア神殿には、多くの信者が出入りしており、中で祈りがささげられていた
神殿の前には騎士が数人立って警護をしている
ミコトはそこに見知った顔の男を見つけた
「ジャンさん!」
ジャンと呼ばれた男が振り向いた
まるで絵画のように美しい顔立ちの男で、その穏やかな表情から彼の性格が漏れ出ていた
「おや、ミコトちゃんじゃないですか。 お元気そうでよかったです。 それにお仲間まで出来たみたいで」
ジャンは微笑んだ。 その甘いマスクにルーナ達は思わず息をのむ
「僕はセレアーナ神の神殿騎士をしているんです。 若輩ながら騎士長を務めさせてもらっています」
礼儀正しく、誰にでも優しい。 そしてその美貌から、彼にはファンクラブのようなものまでついている
神殿騎士は誰も彼も容姿端麗な者が多いく、彼はその中でも群を抜いて美しかった
「ところで皆さん、お祈りですか? きっと神もお喜びになります。 さぁ、どうぞこちらへ」
ジャンに連れられて神殿の奥にある女神セレアーナをかたどった像の前へとやって来た
「では私は警護に戻りますね」
彼と別れ、ルーナは信者たちを見よう見まねで祈りをささげ、神へと呼び掛けてみる
すると、神殿に響くかのような声が聞こえてきた
「あら、私と交信できる者がいるなんて珍しいですね。 それに、そこにいるのは次期女神候補ではないですか」
その声はどうやらルーナ達にしか聞こえていないらしく、周りの信者は相変わらず普通に祈っていた
「女神候補? それって、俺のことですか?」
ミコトは素直に聞いてみた
「えぇ、あなたは私の後継者に選ばれたのです。 私の力は少し前に復活した悪魔によってかなり失われてしまいました。 ですから最後の力を使い、私の力を受け継ぐに値する適合者であるあなたを呼び寄せたのです」
そう告げられたが、ミコトはピンと来ていなかった
むしろ訳が分からずに混乱している
「混乱するのもわかりますが、どうか、お願いします。 私はもう間もなく消滅するでしょう。 この世界に神がいなくなれば、やがて世界は荒廃し、終末を迎えることになります」
「そ、そんなこと急に言われても」
「幸い、まだ一年ほど猶予はあります。 強要は致しません…。 もし帰りたいとおっしゃるなら元の体へとお返しします。 この世界と元の世界とでは時間のたち方が違います。 あなたは数時間いなくなっただけと認識されるでしょう」
ミコトは考えた
元の世界には親友と言える友達がいる。
しかし、両親は幼い頃に二人とも事故で亡くなっていた
身寄りのなくなったミコトはそれ以来施設で育った。 彼には家族はいない
唯一、親友である滝野という男だけは、心配してくれるかもと思った
「いえ、猶予はいりません。 俺に、できることがあるなら、やってみます」
今までただ生きてきただけで、特に目的などなかったミコトにとって、初めてできた目的
「そう言って下さり感謝します。 では、私の力を全て譲渡いたしますので、そのまま———」
セレアーナがそう言いかけたところで、神殿に爆発が起こった
すぐにルーナ達が動き、神殿内にいた信者や職員たちを連れて外へ避難する
落ちてくる瓦礫をルーナの結界によって防ぎ、全員を連れ出すことに成功した
「何が起こったの!?」
ルーナが神殿を振り向くと、そこには真っ黒な闇を纏った女性が、瓦礫となった神殿の上に立っている
少し前に遭遇した闇の男より力は劣っているが、それでもこの世界の女神と同程度と思われる
「この世界に闇や悪魔の力は感じなかったのに、どうして?」
少し前に現れた悪魔はセレアーナが相打って元の黒族へと戻っており、その黒族もすでに別世界へ仲間を探して旅立っている
しかし、今現れた闇はその黒族から剥がれ落ちた闇で、力の大半を失っていた
「そんな、私の闇払いでは力が足りなかったというのですか?」
セレアーナが悲しそうに声をあげる
「大丈夫です。 私に任せてください」
ルーナはその闇の前へ立つ
「く、ぐ、ああああ、ユルサナい。 コノ、世界の女神ィ。 私が、息の根を止めてやるゥウ」
怒りに満ちた表情で闇はルーナに向かってきた
しかし、完全ではない闇の攻撃はあっさりとはじかれ、ルーナの闇払いの力によって消滅した
「この前の闇本体よりはるかに弱いですね。 個体によって力が違うんでしょうか?」
「こうもあっさりと闇を…。 あなたは、上位の神なのですか?」
セレアーナの問いが聞こえてきた
その問いはルーナにもわからないもので、答えることができなかった
「とにかく、助かりました。 ありがとうございます」
思いもかけず闇を討ったが、この世界にも安寧が戻った
ミコトはこれから女神の役割を教えられるため、そのままセレアーナの元へ行くこととなる
そして、その女神の代替わりの話は神殿の巫女にお告げとして伝えられ、広まっていった
「これで、この世界でゆっくりできそうですね」
「あぁ、しかしなんだ。 別にギルドへ登録しなくてもよかったな」
リゼラスの言うように、功績が称えられた彼女たちは、神殿から報奨金をもらえた
それも数年遊んで暮らせるほどの額をだ
「まぁいいんじゃないか? 俺様、どっかで温泉にでも浸かりたいぜな」
「あ、それは僕も行きたいな」
平和そのものとなったこの世界で、ルーナ達はしっかりと休養するためお金の使い道をあれこれと意見しあった
ジャンさんの本名はスタートレックのピカード艦長の本名である、ジャンリュック・ピカードを少し変えただけです(笑)