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鬼人の国から転移し、竜人の国の前までやって来ると、空を覆いつくすほど大量の竜が空を舞っていた
そのどれもが邪悪な気配があり、闇の炎を吐いていた
国全体が燃え上がり、逃げてきた竜人たちとすれ違う
時には全身に大やけどを負った竜人を治療しつつ竜人族の国へと入国した
燃え盛る街並み、消火作業をしている者もいたが、黒い炎は消えることなく燃え続け、竜人たちを飲み込んでいく
「ルーナさんならこの炎も消せるはずです。 どうか竜人たちをすくってください!」
ディゼルアの声が響き、すぐに行動へと移した
飛んでいる竜を全員で叩き落とし、滅し、ことごとくを倒していった
竜たちはどうやら闇で出来ているらしく、倒すと死体すら残らず消え去った
そして、その竜の中心にいたのはひときわ大きな竜だった
「あれが、闇に取り込まれた魔王、いや、竜魔王だな」
デリアルは能力をフルに発動した
体を極限まで強化し、ヒーローの最終形態ような光る鎧を装着し、“星砕き”と名付けた剣と“果てなき守り”と名付けた盾で武装した
それは様々見た能力の集大成であり、彼の使う能力の最大戦力だった
「俺にはまだ経験が足りないけど、この能力のすごいとこはな、その経験すらも得れるってとこにあるんだよ」
そう息巻いて竜の元へと飛んだ
音速を超え、音を置き去りにして竜との戦いを始める
時折響くパーンと言う音は、音速の壁をデリアルが叩く音だ
圧倒的な力により、闇に染まった竜はバラバラになって地面に転がった
「すごいねデリアル君! 今の攻撃、明らかに僕たちの域に達してたよ!」
いなみがデリアルの手を握ると、デリアルは顔を真っ赤にして慌てた
この戦いでどういうわけかデリアルの力は神の高みへと昇ったのだが、その時は誰も理由が分からなかった
この時すでにルーナの力が少しずつ覚醒し始めていることに、誰も気づいていなかった
「無事に倒したようですが、ここの被害も甚大です…」
悲し気なディゼルアの声が響いた
「とにかく、最後の魔王の居場所はつかめています。 場所は聖域、私の眷属が済む場所です。 今はなんとか眷属たちが抑えていますがそれも時間の問題かと思われます。 私の…大切な…」
この聖域はディゼルアが生まれた場所でもある
この世界が生まれたと同時に彼は上位の神から生まれ落ちた
彼にとってはとても大切な場所
「任せてください! ディゼルア様の大切な場所は俺たちが必ず守ります!」
聖域は世界の中心である一つの島だ
神のおわす島とも呼ばれ、ディゼルアの眷属たる神人たちがその領域を守っていた
彼らは通常の人間種とは違い、体が大きく、巨人に近いが、性格は温厚
しかしいざとなれば勇猛で、島を守るためその命をなげうって戦う種族だ
そんな彼らが今戦っているのは、ディゼルアに似た姿をした闇そのものだった
「うろたえるな! ディゼルア様に似ているがあれは全くの別物だ! 島を守ることに心血を注げ!」
神人たちのまとめ役でもあるベイスと言う男が闇と攻防を繰り広げるが、その実力差は明らかだ
彼が倒れるとすぐに仲間たちが救出し、実力ある者が闇を抑える
そんなところにルーナ達はやって来た
「お待たせしました!」
「おお! ディゼルア様からの救援か! ありがたい」
闇、ディゼルアをかたどっているが、その邪悪な気配は偽ることなく闇そのものの気配だった
「これは…。 どうやら闇そのものはすでに動いていたみたいですね」
倒れた神人達を見てディゼルアは悲しそうに声をあげた
幾人かは既にこと切れている
「ようやく来たか。 この世界の神だっけか? いやぁまずは下位か中位くらいの世界でも滅ぼそうかと思ってたんだけどな。 この世界には俺たちの駒もいねぇし、力も大して戻ってないから一気に壊せないしよ。 まぁいいや。 そこにいる子供、俺の器にぴったりだからもらおうっと」
闇はルーナといなみを見据えた
「なに、あれ…。 あんなに力を持った敵、初めてです…」
ルーナが彼を見て驚いている
シンガと対峙したときも恐れはあったが、彼からは慈悲ややさしさも感じることができた
だが、今目の前にいる男からはただ純粋な危険性しか感じれなかった
闇はニヤリと笑う
そして気づいた時にはいなみの背後から正確にいなみの心臓を闇の刃で貫いていた
「な、に、これ」
いなみが倒れる
「いなみさん!」
ジワリと血が広がっていく
「あっちはいいや、まだ覚醒もしてないガキだし。 君は…。 あれ? 覚醒してないんだ。 それでその力か。 良いね、ますます気に入った」
既にルーナの目の前に迫っている
「この!」
神と同等の力を得たデリアルが闇を斬りつける
しかしそれは空振りに終わり、腹部に大きな衝撃が走った
自分の体を見るデリアル
下腹部から下がすべて吹き飛び、内臓が飛び出るのが見えた
「や、ヤバいぜな。 あれは、上位の神と同じ力を持っているぜな」
(おねえちゃん! 変わって!)
ルーナはサニーにシフトし、すぐに攻撃を開始した
「おっと! これはこれは、急に雰囲気が変わったね。 しかも、さっきよりはるかに強くなっている。 いや、戦闘に特化したというべきか。 どちらにせよ今の俺では分が悪い。 勝てるかどうかわからない相手に時間を割くほど俺も回復してないんでね。 ここは一旦引かせてもらうとしよう。 それじゃぁお嬢さん、またどこかの世界でお会いしよう。 君も、渡るんだろう?」
そう言い残して闇はこの世界から完全に消え去った
「ぐ、うぅうう」
いなみは再生し始め、心臓の部分に手を当てて苦しんでいるが、無事なようだ
問題はデリアルの方。 溢れ出た内臓と血液、それが彼の死が近いことを示している
「あぁ、俺はもうすぐ死ぬって、こと、かな?」
しかしそんなことすらも覆す能力がルーナにはあった
「大丈夫ですよ。 このくらいなら」
ルーナが手をかざすと、デリアルの体が再生し始めた
「これは、神のなす奇跡…。 やはりあなたは上位の…」
ディゼルアが驚愕の声をあげる中、デリアルの再生は完了した
闇を退けることは出来たが、奴の姿は消えてしまった
いずれまた出会った時、今度こそは負けないとサニーとルーナは思う
そのとき、通信機が鳴った
通信はアナサからだ
「ルーナちゃん! すぐに私のいる世界に来て! 悪魔が…。 黒族が復活し始めてる! 今この世界の神様が抑えてるけど、状況は芳しくなさそうなの!」
「行ってください。 後処理は私たちが行います」
「俺たちなら大丈夫。 傷も治してもらったしさ」
闇の去った今、この世界は大丈夫だろう
神とこの世界の勇者と別れ、アナサの待つ世界へと飛んだ