石野の異世界放浪記3‐3
次の日、またしても黒い男が現れた
男はまるで何かに操られるかのようにフラフラと歩き、紫音のビルに向かってくる
「やっぱり来ましたね」
「とりあえず石野さんに報告します」
レコはアリスと別れると石野の元へ走った
「来たか。 俺で役に立てるかは分からんが、とにかくやるしかないよな」
石野は拳銃を取り出し、リボルバーにこめられた弾を見る
世界を渡る前に岸田が残した備品から盗み出したものだ
「拳銃? 何故そんなもの持ってるんだ?」
紫音は恐る恐る聞いてみた
「ん? 俺の後輩からちょっと借りたんだよ。 こう見えても俺は元警官で60過ぎのおっさんだからな」
驚いた
目の前の男はどう見ても少年で、自分より少し上くらいにしか見えない
「この体はな、神様が若返らせてくれたんだよ。 元の体のままじゃぁまともに戦えんからな」
リボルバーを元に戻し、拳銃をしまう
「とにかく、私らも行くさね。 まだ攻撃はしてきてないみたいだけどもうそこまで来てるらしいしね」
外に出ると、すでにアリス、レコ、ベルが男と対峙していた
ロスは結界の維持、マルカは先の襲撃で出た怪我人の看病をしている
「ようやく出てきたか、勇者」
「勇者?」
「ええ、紫音様は勇者です。 魔王を倒すために別世界から来てくださった」
「私はそんなたいそうなもんじゃないよ」
男は迫ってくる
まっすぐに紫音を見据えて
「一度お前に殺されたが、今度はそうはいかん。 お前を殺し、俺がこの世界を、ゴ、コワシて、フヒ、ヒヒャヒャヒャ」
様子が明らかにおかしい男に嫌悪感をあらわにする紫音
「壊す? 無理だよあんたには。 私らが止めるからね」
紫音が手を軽く振ると、影のような腕が伸びた
「忍び寄る影手」
影の腕は無数に現れ、魔王に襲い掛かった
「ふん、この程度」
魔王は闇を纏った
それは大きな牙のある口となり、影の手を喰らいつくした
「な!?」
紫音は自分の能力が通用しないことを知りたじろぐ
「紫音様!」
大口を開けた闇は紫音に襲い掛かる
一瞬反応が遅れたのをアリスがかばい、アリスの左腕を千切り飛ばした
「ああ!!」
傷口から血が吹きでる
「アリス!」
吹き出る血が紫音の体を染めあげる
「うぅ、ぐぅ」
苦しんでいるアリスを抱えて下がるが、そこに大口が迫ってくる
「ミーを出すのである!」
石野は慌ててエコを出した
すぐに結界を紫音に張り、二人を闇から守る
それと一緒に飛び出したミコもアリスの腕を拾い上げて元通り引っ付ける
「わしを出すの!」
狸と書かれた玉を取り出すと、狸少女が現れた
「わしは刑部のポコ! レコとわしの力をもってすればあんな奴たやすくひと昼寝なの!」
「ひとひねり、ね、ポコ」
「そうなの! さぁレコ! 一発でかいのかますの!」
「えぇ」
「「狐狸一体! 魑魅魑魅跋扈跋扈」」
大量の魑魅が二人の開いた空間からあふれ出した
あまりの量に周囲は驚き、口を開けて呆然としている
「その程度の雑魚などで俺を、タオセルとでも! オモッタカ!!」
大口で魑魅を飲み込むが、魑魅たちを喰らっても喰らっても出てくる
止まらない、止まらない
全く止まる気配がない
「グ、オォ」
大口が膨らんでいき、やがて破裂した
「まさか、このような馬鹿げた方法で、俺のアギトが…」
そのまま魔王は魑魅にのまれ、その身を逆に喰いつくされた
「ふ~、終わりだの。 楽勝だの」
「そう、私達が本気を出せばこんなものなのですよ」
あっけに取られていた周囲はようやく正気に戻った
「え? 何この子たち…。 強すぎないさね?」
「わしらこれでも神獣なの! とーっても強いの!」
えっへんと胸を張るポコ
「か、可愛いですね」
アリスは思わずポコを抱きあげて頭をヨシヨシと撫でまくっていた
「う、うう、何ですかのこの人~」
ちょっと困った顔をしているが、撫でられるのは嫌いじゃないポコはされるがままになっている
「これで闇は祓われたみたいですね。 どうです? わちきたちもやるものでしょう?」
レコも褒められたいのか、石野に頭を差し出してナデナデをねだっている
石野は頭を撫でてやった
「これでこの世界もまた平穏を取り戻すだろう。 紫音、それじゃぁまたな」
石野は紫音に手を振り、転移用ゲートを開いた
「ありがとう石野さん。 おかげで助かったさね」
二人は別れを告げた
ゲートをくぐると、石野の体が光る
「おお、どうやらあの子も呼び出せるようになったみたいです」
「なるほどな。 こうやって信頼を得れば召喚できるようになるわけか」
新たな味方が石野の召喚に加わり、次の転移者を探して別の世界へと移動した