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石野の異世界放浪記3‐1

 世界を渡り、次に来た世界は巨大なビルが立ち並ぶ発展した世界だった

 

「なんだ? 戻って来たのか?」


「違いますよ。 ここには魔力があるので全く別の世界です」


 石野は魔力をどう感じるのか分かっていないが、確かに元いた世界とは違った空気が流れているのは分かった

 ビルの陰から出ると、行き交う人の群れの中に入り込んだ

 

「こっちから気配がしますわん」


 ワコを先頭に、石野とレコは歩いた

 どうやらこの世界は石野のいた世界とよく似ていて、発展の仕方もほぼ同じようだった

 車も電車も走り、サラリーマンがせわしなく動き、学生たちが通学をしている


「似ているな」


「確かに似ていますが、全く別世界ですからね? あそこと同じと考えていたら痛い目を見ますよ」


「あぁ、注意しよう」


 ワコは鼻を引くつかせながら道を進み、人込みをかき分けてどんどん先を行く


「待て待て、速いぞワコ。 はぐれてしまうじゃないか」


「すいませんですわん。 ちょっと興奮してしまったですわん」


 人が多いのに興奮したようで、尻尾もちぎれんばかりに振られている

 人々は彼女の尻尾を見ても驚かない

 それもそのはずで、尻尾を持つ人間など珍しくもないからだ

 元の世界である地球と似てはいるが、この世界には獣人やエルフもいる


「まぁなんにせよ、ワコたちの耳や尻尾を隠す心配がなくて楽は楽だな」


 しばらく歩くと、大きなビルの前に来た

 特徴的なビルで、四つのビルが通路で繋がっている


「ここですわん。 ここに地球の人間がいるはずですわん」


 中に入ってみると、エルフの受付の女性が見えた


「いらっしゃいませ、ご用件をどうぞ」


 丁寧にあいさつをするエルフの女性

 

「いや、ご用件と言われてもなぁ。 なんていえばいいか…。 ここに異世界から来た者がいないか?」


「…。 そのような者はここにはいません。 あなた方は何者ですか?」


 何やら不穏な空気が流れ始めた

 彼女は何か知っているが、どうやらその人物に石野たちを会わせたくないらしい


「いるなら会わせてほしい。 もしダメなら、俺たちは同じ世界から来たとだけ伝えて欲しいんだ」

 

 睨むエルフの受付嬢

 電話を取り出すと、どこかへとかけ始めた


「シオン様、同じ世界から来たという怪しい者たちが謁見を求めております…。 はい、はい、かしこまりました。 ではお通しいたします」



 受話器を置き、石野の方を向く


「失礼いたしました。 こちらへどうぞ」


 受付嬢は案内係の方へ誘導すると、再び受付へと戻って行った


「わたくし、案内を務めさせていただきます。 ベルです」


 ベルという角の生えた女性

 オーガと言う種族らしい

 

 彼女と共にエレベーターに乗り、上の階へ

 扉が開くと、だだっ広い部屋に椅子と机、その上のPCが乗っている

 カタカタとキーボードをたたく音が聞こえた


「いらっしゃい、君たちが地球から来た人たち?」


 少女の声だ

 キーボードをたたくのをやめてひょいと顔をのぞかせる

 かなり幼い

 中学生くらいだろうか

 

「よく来たね。 私は園枝紫音(そのえしおん)、日本の中学生さね」


 少女は同じ日本出身者だった

 

「へぇ、じゃぁあなたは地球から消えた少年少女を探してるってわけ? 大変さね」


「君はどうしたい? 戻ることもできるが」


「私はいいよ。 どうせあっちに居場所なんてなかったし…」


 影を帯びる紫音、どこか寂しげな顔をしている


「そうか、無理強いはしない。 地球の神からは意思を尊重しろと言われているしな」


「それは助かるさね。 この会社、私が作ったんだけどさ。 今ではここの社員は家族みたいなもんさね。 みんな私をしたって集まってくれたんだ」


 彼女は地球からこちらに移動した後は凶悪な魔王と戦っていたらしい

 その時仲間になったこの世界の住人達と協力して魔王を倒した

 そののちにもともと発展していたこの世界で起業し、大成功を収めたそうだ


「では俺はこれで行くとするよ」


「もう行っちゃうの? お茶くらい飲んで行けばいいのに」


「他にも行かねばならない世界があるんでな」


「そっか、じゃぁ頑張るさね!」


 ニコリと微笑む紫音

 手を振って別れを告げた

 

「心はまだ通い合ってないですよ? 彼女の能力は強力です。 味方にしておいた方がいいですよ?」


「神様も言ってたろう? 意思を尊重しろと。 彼女は一度世界を救っている。 これ以上戦わせるわけにもいかまい」


「そういうものなんですか?」


「そういうもんだよ」


 ビルを出ようとしたその時だった

 突然ビルの一つが爆発した


「なんだ!?」


 空を見ると、黒ずくめの男が手に魔力を溜めているのが見えた


「何だあいつは?」


「邪悪な気配です。 アマテラス様が言ってました。 悪魔と言う危険な存在がよみがえり始めているって。 でも、あれは聞いてた特徴と違いますね。 それに、神様と同じくらい強いって聞いてましたが、あれは私達神獣と同じくらい?」


 男は溜まりきった魔力を放出し、再びビルを攻撃した

 ビルからは働いていた人々が避難を開始し始めている

 いつの間にか受付嬢やベルが避難を誘導していた

 

「皆さん急いで! ビルに残っている者たちは私たちで救出します!」


 そう言うと、二人はビルの中へと戻って行った


「俺たちも行くぞ!」


「そういうことでしたらわたくし様を出してくださいませ」


 鳥と書かれた玉から声がした


 玉を取り出し、魔力を込めると、中から鳥の翼を持つ少女が飛び出した


「わたくし様はヤタガラスのヤコ。 上空から逃げ遅れた人を助け出しましょう」


 ヤコは三人を掴むと一気に空へと飛びあがった

 大き目の胸が石野の頭に乗っかっているが、本人はお構いなしだ


「はい、じゃぁ頑張ってくださいね」


 そう言うとヤコは燃え盛るビルに石野たちを放り込んだ


「うお! 危ないじゃないか!」


 文句を言おうとしたが、すでにヤコは玉に戻っていた

 

「とりあえず火を消さないとだめですね。 それに、あの黒い男がまたいつ攻撃してくるとも限りませんし」


「火を消すならニャコと僕が協力すれば何とかなるですわん」


「んにゃ、おいらに任せにゃよ」


 猫と書かれた玉から声がする

 そこからねこみみの少女が飛び出す


「おいらとワコならできるにゃ。 いくよワコ」


「うん!」


「「犬猫一体! たゆたえ水たち!」」


 周囲から水を集め、いっきに消化した


「た、助かったさね~。 ありがとう」


 いつの間にか紫音が立っていた

 どうやら火災から人を救出していたらしい

 

「それにしてもあの男、倒したはずの魔王と同じ気配がしたさね」


「どういうことだ?」


「私にもわからんさね」


 男の姿は消えていた

 かすかな闇の気配だけを残して


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