石野の異世界放浪記2
初めて来た異世界で最初に降り立った場所は、地平線が伸びる大草原だった
「どこだ、ここは」
「私を出してくださいわん」
犬と書かれた玉から声を聞こえた
玉を取り出し念を込めると、そこから犬少女が飛び出した
「君は?」
「僕は犬神のワコですわん!」
元気よく挨拶し、石野の足にすり寄るようにして抱き着いた
まるで子犬のようだ
「僕が臭いをたどって石野さんと同じ世界から来た人を探し当てるわん」
「そんなことができるのか、すごいな」
スンスンと空気の臭いをかぐように鼻を引くつかせるワコ
何かに気づいたように耳をピンと立てた
「わかったですわん! ついてきてください! わん」
「…。 語尾、無理して付けてないか?」
「そそそそそんなことないですよ! わん」
明らかに動揺しているが、気にしてはいけないと思い、それ以上は問わない
「あっちですわん!」
ワコに連れられるまま、草原の道なき道を歩む
草のいい香りが鼻をつく
「見えてきましたわん!」
町だ
小さい町が見えてきた
まるで西部開拓時代のような閑散とした町で、人の気配が少ない
目で確認できるだけで3人ほどしかいなかった
「この町にいるはずですわん。 強い力を感じますわん」
町に入ると、外に出ていた数人にじろじろと見られた
歓迎されていないのは一目瞭然だ
するとそこに、年老いた老人が声をかけてきた
「このような何もない町に何か用ですかな?」
「あ、あぁ、人を探しているんだが、ここに見たことのないような服装、またはおかしな言動をしている少年か少女はいないか?」
一瞬老人の表情が変わったのを見逃さなかった
「知りませんな。 ここには町の住人以外誰もいませんので」
そう言って去ろうとした老人を呼び止める
「待ってください。 何か知っていますね? お願いします。 その人は私の世界から来た人かもしれないのです。」
まっすぐに聞いてくる石野を見て老人は重い口を開いた
「実は、数日前にこの町は魔物に襲われました」
「魔物? そんなものがいるのか?」
「そりゃぁ異世界ですからわん」
それもそうかと妙に納得した
「その魔物から彼女は私たちをすくってくださったのですが、その時出来た傷が元で今生死の境をさまよっているのです。 助けたいのですが、我らでは手の施しようがなく、何分田舎なもので、治療師も大した治療魔法を使えません」
「…。 会わせていただけませんか?」
「こっちです」
老人が案内したのは町長の家。 この老人の家だ
老人はこの町の町長だった
「彼女がこの町をすくってくださったレイラ・マイセニアです」
その少女は、胸に大きな傷を負いながらもその魔物を倒したのだそうだ
相当に強い魔物だったため、相打ちとなってしまった
「苦しそうだな。 何とかして助ける方法はないものか…」
初めて見つけた同じ世界の住人
彼女は無理やり連れてこられたようなものなのに、この世界の住人を助けたのだ
「わたしゅに任しぇるでしゅ」
蛇と書かれた玉から声がした
玉をかざすと、蛇の尻尾を持った少女が現れた
「こ、これは、召喚魔法ですかな?」
町長は驚いた
「わたしゅは蛟のミコでしゅ」
細い舌をチロチロと出し、鋭い目をぎょろぎょろと動かす蛇少女
「わたしゅは神力で傷を癒せるでしゅ。 任せるといいでしゅ」
蛇少女はレイラに近づくと、手を傷口に当てた
「ぐっ」
傷口を触られたからか、レイラは苦しみだした
「ちょっと痛いから我慢するでしゅよ」
てから粘液が出て、それが傷口を負おうと、見る見るうちに傷が塞がっていった
「よしゅ、これで大丈夫でしゅ」
傷の塞がったレイラは目を覚ました
「あ、れ? 私は一体…」
起き上がると、周りを見渡した
「町長さん、と、あなた方は?」
石野は事情を説明した
「ではあなたは日本から? 私はロスからです」
「ロスと言うと、ロスアンゼルスか?」
「はい。 たまたま友人と遊びに来ていたところ、私だけこの世界に飛ばされたようなのです」
レイラはこの世界に来てから数ヵ月、様々な魔物と戦い力を付けて行ったのだが、この町を襲おうとした魔物と相打ったそうだ
「帰りたい…」
レイラはそうつぶやいて泣いた
「安心してくれ、俺はそのために世界を旅している。 君を地球まで送り届けよう」
「本当ですか!?」
「神には意思を尊重してやれと言われているからな。 君がそう望むなら」
「お願いします」
当然のことながらそう答えた
突然異世界にやってきてよほど心細かったのだろう
安堵から再び涙をこぼした
「では、ありがとうございました石野さん。 この御恩は忘れません。 私が力になれることがあれば言ってくださいね」
そう言って彼女は自分の居場所へと帰っていった
「これでよかったのか?」
「いいのですよ」
いつの間にか白狐のレコが出てきていた
「彼女とつながりができたです。 呼びかければその声は彼女に飛び、彼女を召ぶことができるようになったはずですよ。 それがあなたの力です」
石野の力、この世界を渡るときに得た力は、心を通わせた者をどこだろうと召喚できる力だった
「ちなみに、彼女の力は円です。 円を思い描き、その範囲に入ったものを自由に破壊できる力を持っています。 元の世界では使えませんが、あなたが召喚すれば使えるですよ」
一人目を救出し、新たな力も得た石野は再び世界を渡った