3-28
巨大な神殿
神が身近なこの世界では珍しくはない
そこではたくさんの信者が祈りをささげている
「最上部へ行くには本来様々な手続きが必要なのですが、私が話を通しておきました。 すぐに向かってもらって大丈夫です」
アリアテはどうやらすでに神官たちにお告げを出していたようだ
すんなりと通してくれる神官たち
なかには女神アリアテをたたえるポーズをとる者もいた
神殿の最上部
そこには大神官が待ち構えており、女神アリアテの御使いとして迎えられた
「お待ちしておりました。 確かに今宝玉が黒く染まり、危険な気配が漂っております。 御使い様、どうかお助け下さい」
「そのつもりです。 大神官さんは危ないので外に出ていてください」
「は、はい」
神官を外に出し、扉を閉じた
それに呼応するかのように宝玉が闇に染まる
真っ黒に染め上げられた宝玉は先ほどと同じように周りの闇を集約すると、割れた
なかからは褐色の少年
恐らく彼がマリルリナの弟、マルゼルラだろう
マルゼルラはルーナを見ると姉と同じように襲い掛かって来た
しかしその動きは姉と違って洗練されている
無作為に攻撃を仕掛けてくるのではなく、巧妙にフェイントまで織り交ぜてきている
「ヨク…も、姉さん…ヲ」
「喋った!?」
彼は恨みが相当に強く、ほんの少しだけ自我が残っていたようだ
その自我が彼の動きを洗練させている
「さっきの人より、強い!」
サニーは果敢に攻めるが、交わされ、いたずらに傷を増やしていく
しかもその傷口はサニーの超速再生能力でもカバーしきれず、次第に出血が多くなっていった
「こうなったら僕も!」
いなみがその戦闘に参加する
二人の動きは見えている
素早い動きにも対応できた
サニーに振られた爪による一撃をいなみが防いだ
「今だよサニーちゃん!」
拳に光を溜めると、闇を払うための力をマルセルラにぶつけた
彼に巣食っていた闇が消滅する
あとに残されたのは、空になった透明の宝珠と、気絶したマルゼルラ
すぐさまルーナが彼に生命力を分ける
「ん、あ、ここ、は? 姉さんは一体!」
ガバッと起き上がるマルゼルラ
「大丈夫ですよ。 あなたのお姉さんは今この世界の女神さまに保護されています」
「なんだと!? 神族がか!? 俺たちを封印したあの神族が!」
怒りをあらわにするマルゼルラ
辺りが震えるほどに力がこもっている
「あなたのお姉さんは無事です。 他の神様に見つからないようにアリアテ様が匿ってくれているんです」
「ひとまず落ち着いてよ。 どこか体におかしいところはない?」
マルゼルラはそう言ったいなみをみて、顔を赤くした
首をかしげるいなみ
「だ、大丈夫だ。 それより姉さんに会わせてくれ」
マルゼルラを神官たちに見えないように隠匿し、女神アリアテの待つ神社へと戻った
「姉さん!」
二人の悪魔は抱き合って再開を喜んだ
これが本来の彼らの姿だ
「仲間たちは?」
「分かりません。 みんな様々な世界に封印されたり、体を失って彷徨っていたり、私ではつかみきれません」
「そう、なのか…。 でも姉さんが無事でよかった。 本当に」
「皆さん、ありがとうございます」
二人はお礼を言った
「でもこれから僕たちはどうしたらいいんだ。 神に見つかればまた封印されるか消滅させられてしまう」
「とりあえず私が匿います」
いつの間にか知らない女性がそこにいた
「アリアテ様!」
瑞美が彼女を見て叫んだ
アリアテはこの神社の神力を使って顕現したのだ
「今までは声だけでしたが、こうして姿も現したことですし、少しは信頼していただけませんか?」
マルゼルラはアリアテを見る
「ま、まぁいいだろう。 あんた自身には恨みはないからな」
「マルゼ、恨むことはやめなさい。 私達の本分は恨みではないのですよ?」
「分かってるよ姉さん。 それでも僕は、神を許せないんだ。 問答無用で姉さんをあんな目に合わせて、僕たちを封印したあいつらを」
「恨むのもわかります。 でもどうか、私を信じてください。 上位の神々には通じないかもしれませんが、もし見つかった時は私が命をとしてお守りします」
アリアテの目を見る
真剣な表情
彼女は嘘を言っていないのがよく分かった
「それにしても、なぜ神々は悪魔たちを封じたんだ?」
「悪魔じゃない! 僕らは黒、黒族だ!」
「あ、あぁ、すまない」
(シンガ様、どうしてなんですぜな?)
パリケルがシンガに尋ねてみるが、シンガは何も言わない
(なぜ黙ってるんですか?)
(いずれ話す…)
シンガが答えたのはその一言だけ
結局いくら考えてもわからず、黒族二人も何も分からない
「いずれにしても黒族の人達を救えることがわかりました。 もしまた現れたときは私たちが必ず救って見せます」
ルーナは力強く、二人を励ますように言った
二人が浄化されてからも、二人の残滓は現れ続けた
魔法少女ミズミはそのたびに黒族二人と共に残滓を倒し続ける
「いよいよ復活し始めた~みたいだよ~ん」
マキナがモニターを見ながらエイシャに教えた
「姉様、彼らを操ることはできますか?」
「大丈夫~だと思う~よ。 波長が独特だから時間はかかるけどね~ん」
「では、お願いします」
「いいよ~ん、エイシャちゃんのためだも~ん」
「マキナ、エイシャ、私が行きましょうか?」
「ん~、アズリア姉様は~、もうちょっと待ってよ~。 あいつらを~操れたら~、動いてもらうからさ~」
アズリアの愛の力では闇を操ることはできない
そこで、マキナの機械の力で物理的に操ることにしたのだ
「分かりました。 では、できましたら報告を」
「うん、了解~」
マキナはとんでもないスピードの指さばきで作業を開始した