キュレスの研究3
キュレスは夢を見てから何かにとりつかれたかのように悪魔の研究を始めた
この世界にある悪魔に関する資料を読み漁り、パリケルが書いた記述も読み返して悪魔に関する情報がないかを調べた
悪魔とは何なのか、神々となぜ戦争をしたのか
(わからない。 もっともっと調べなきゃ。 悪魔って本当に何なのかしら)
調べていくうちに、一つの絵本を見つけた
パリケルが貯蔵する本の山に埋もれるようにしておいてあった
「少女と悪魔…。 絵本のタイトルにしちゃセンス無いわね。 絵は子供の落書きみたい」
表紙の絵には真っ黒に染まった笑顔の女の子と、普通の女の子が仲良く手をつないで立っている
黒い女の子の笑顔はどこか悲しそうで、普通の女の子は輝くような笑顔だった
内容は
普通の女の子が黒い女の子に出会い、仲良くなる
一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、友達として他愛のない日々を送っていたが、ある日黒い女の子が神に仇名す悪魔だと知られ、黒い女の子は処刑される
処刑されるその日に、普通の女の子は彼女を助けようと処刑台に駆け寄るが、悪魔の使いと民衆に言われて黒い女の子の目の前で首を断たれて殺されてしまった
黒い女の子は怒りに我を忘れてその場にいた民衆も何もかもを国ごと消し飛ばしてしまった
そのまま暴走し、やがて神々によって退治された
神々のおかげで世界は救われました
そう締めくくられていた絵本
あとがきには、悪魔はどこにでもいて、神は民を守るために悪魔を監視していると書かれていた
「なによ、これ。 黒い子は特に何もしてないじゃない。 悪魔は問答無用で悪ってことなのかしら」
実際、最後は黒い少女の首を掲げ、民衆が大喜びした絵で終わっている
「納得いかないわね」
絵本は相当古いものだった
ところどころ虫食いやシミ、劣化はあるが、文章や絵は手入れされており、読むのに何の支障もない
パリケルはこの本を大切にしていたようだ
「パリケルさんはなぜこの本を…」
本の表紙
その裏に何かが挟まっているのが見えた
「メモ用紙? 何かしら」
その紙を開くと、今までさんざん見たパリケルの手記だった
悪魔とは何か
かつて神々と戦争を起こした闇そのもの
伝承にはそう書かれているが、私にはそうは思えない
この絵本、どこにでもある悪魔の危険を教える本だが、なぜ誰も疑問に思わないのだろう
どこにでも潜む悪魔に耳を貸してはならない
仲良くしてはいけない
この黒い少女、なぜこうも敵視されている?
神々が言うことは本当に正しいのか?
「神を疑ってる? でも、確かに…。 いえ、疑っちゃだめよね?」
パリケルの手記を懐にしまうと、絵本を閉じてソファーベッドへと向かった
「悪魔って本当に何なのかしら」
そして眠りにつく
夢を見た
「あなたも、私達を悪だと思いますか?」
声が聞こえた
「ここは、夢の中?」
「そうです。 あなたの夢の中に入らせていただきました」
「あなたは、誰?」
「悪魔、と呼ばれる存在です」
「な! なんで悪魔が私の夢の中にいるのよ!」
「お願いです! 話を聞いてください!」
声の主の姿が見えた
体から黒い霧を出す褐色の少女だった
少女は自分について語り始めた
かつてこの世界で一人の少女と出会い、仲良くなったこと
それは本の内容とあらかた同じだったが、一つ違いがあるとすれば、仲良くなった少女の村の住人は皆彼女の味方だった
そのため村の人々も全て処刑された
悔しかった…
彼女は最後に一言そう付け加えた
友人や、よくしてくれた村の人々も守れず、成すすべなく自分も殺されてしまったことがだ
彼女は最後まで何もしなかった
少女と並んで首を断たれたその時まで人を信じて、何もしなかったのだ
(絵本の内容と違う?)
「それまで私は神々から逃げて様々な世界を渡っていました。 でも、ようやく信頼できる人が出来た。 そう思った矢先にレイラは…」
レイラ、恐らく人間の少女の名前なのだろう
キュレスは思った
彼女は、少なくとも悪魔などと呼ばれ、人々から忌み嫌われる存在ではない
「憎いのですか? 神々が」
「いえ、私たちはただ、平和に、静かに暮らしたいだけ。 この身が滅びて、魂だけになった今でも、神を恨んだりはしていません。 反存在である私たちは神とは相いれない存在です。 神は仕事をした。 ただそれだけですから」
「悔しいとは思わないの? あなたたちだけ悪者にされて」
「正直に言うと、悔しいとは思っています。 でも、もう過ぎたことですから。 私たちの本体はこの魂。 体を滅ぼされても死にはしません。 でも、レイラだけは守りたかった…。 レイラを殺したのは神ではなく人間です。 神を恨む通りにはなりません」
本当に悪魔なのだろうか?
キュレスは疑問に思った
あまりにも優しすぎるではないか
このような人々がどうして悪魔と呼ばれたのか分からない
「私はこうして封じられました。 私たちは封印されたまま長い年月を過ごしましたが、今封印は解け始めています。 私たちと違い、神を恨み、世界を滅ぼそうとしている悪魔たちもいます。 お願い、彼らを止めてください! 彼らももともとは争いが嫌いな者達なのです。 闇に飲み込まれてしまい、もはや戻す手立てがありません…。 ですから、彼らをせめて安らかに眠らせてあげたいのです」
「分かったけど、私じゃ何もできないわ。 力がないもの」
「でしたらお仲間にお伝えください。 お願いです。 どうか…」
「分かったわよ。 何とかしてみる」
「ありがとうございます!」
そこで目が覚めた
いつもは忘れている夢の内容だが、今の夢ははっきりと覚えている
思い出してみる
彼女が最後に言った言葉
「封印の解けかかった闇にのまれた者達は怨念を飛ばして世界を侵食し始めています。 もう間もなく完全に封印は解けます。 お願い、どうか、彼らを救って…」
「とにかく、パリケルさんたちに知らせなきゃ。 通信機、確か女神達がもってたわね」
起き上がって着替えると、女神のいる神殿へと走った
悪魔、好き
可愛いじゃないですか?悪魔