3-22
ホワイトハウスの内部にはいかにも政治家と言った風貌の人々が歩いていた
警備もやはり厳重で、姿を隠し、気配を断っているとはいえ緊張した
しばらく内部を調べてみたが、メリルの居場所に関する手掛かりは見つからない
「ここは私が探知で」
ルーナが監視の力を発動し、内部の隅々を調べた
「これは…。 どうやら地下室があるみたいです」
監視の目を地下室に向け、さらに調べる
いくつか部屋があるうちの一つ
そこにボロボロのメリルが貼り付けの状態で捕まっていた
さらに情報を得るべく透過していくと、さらに地下があることが分かった
そこには大きな能力の反応があり、強力な能力者が控えていることが分かった
「このままぶち抜いてメリルさんを救出します]
一緒に来ていたリゼラス達はその発言に驚き、止めようとしたが一足遅い
すでに地面を拳で破壊し、すぐ下にいたメリルを磔用十字架ごと救出していた
その間役3秒ほどの出来事である
すぐに磔からメリルを開放すると、衰弱しきっていた彼女を治療した
あっという間に傷はふさがり、苦しそうな彼女の表情も和らいだ
当然のように騒ぎを聞きつけた警備や能力者が集まってくる
怒りをあらわにしたルーナはそのまま彼らを殴りつけ、壁に叩きつけていった
次から次へと襲い来る能力者の能力をものともせずただひたすらに拳を振るった
(お姉ちゃん、キレちゃってる…)
サニーも恐れるほどルーナは怒っていた
やがてホワイトハウスにいる能力者も警備も全員が倒され、気絶した彼らがうずたかく積みあがった
「終わりですか?」
ルーナは鼻息荒く怒りを抑え込んだ
その時再び依然と同じ感覚がルーナといなみを襲った
景色は変わり、ホワイトハウスは何事もなかったかのように落ち着いている
「また、ですか…。」
今しがた救ったはずのメリルも再びいなくなっている
すぐに魔力の残り香を認識し、改変の能力を持つトラヴィスを探した
近い
すぐそばに彼の気配があった
「そこです!」
ルーナが捕縛の力を使って能力者を捕らえた
しっかりとした手応え
が、何も掴まっていない
捕まえた事象を改変された
「それなら!」
まだ逃げきれていないトラヴィスに向けて力を放った
思考の力
トラヴィスから思考を奪ったのだ
「ようやく捕まえました。 リゼラスさん、メリルさんが地下に囚われています。 速く救出を!」
メリルのことはリゼラスに任せてトラヴィスを捕らえた
思考を奪われた彼は目は虚ろになり、何も考えられず、反応もしない
「この人がトラヴィス? 思ったより若いね」
いなみが彼の顔の前で手を振ってみたが、やはり反応はない
そしてルーナは彼にこれ以上能力を使わせないために、彼に流れる魔力を絶った
思考を戻し、彼は目を覚ます
「あなたがトラヴィスですね?」
彼はこちらに気づき、かなり驚いていた
「な、なぜ? 私は捕まって…」
中世的な顔立ち、声も高いために少女のように見える
「あなたの能力は封じました。 何度も何度もメリルさんを苦しめた罰です。 あなたは今後普通の人間として暮らしてください」
静かに怒っている
「ひっ」
能力を封じられ、逃げる手はずを奪われた彼は哀れなほど怖がっている
本来は臆病な性格のようだ
「なんで? 私の能力は完ぺきなのに! 誰も私の力にあらがえないのに!」
泣き始めるトラヴィス
彼、いや、彼女だった
見た目通りトラヴィスは少女だった
服装は男の恰好のため、少年だと思われていたのだろう
それに、能力ばかりが目立ち、彼女の姿をはっきり見た者がいないのも勘違いされていた理由だった
「祖国のために頑張って来たのに…。 こんなところで…。 大統領、ごめんなさい」
愛国者という情報は紛れもない事実だった
トラヴィスは、そのまま口の中にあるカプセルを噛んだ
溶けだす毒物
情報を渡すくらいなら自ら死を選んだのだ
「ダメです!」
ルーナは急いで治療の力を持って毒を浄化した
苦しんで死にかけていたトラヴィスは不思議そうにこちらを見た
「なぜ、死なせてくれないの? そんなに私を拷問したいの? 何をされても情報何て吐かない!」
「死んじゃ、だめだよ。 そんなことがあなたの愛する祖国のためになると思うの?」
ハッとするトラヴィス
「でも、能力のない私は役立たず。 大統領が許してくれるはずがない」
大統領にとってトラヴィスはその能力故お気に入りだった
しかし今後彼女が能力を使うことはない
そうなれば大統領はすぐに彼女を捨てるだろう
「それなら、私たちと一緒に行きましょう。 今のこの状況、あなたは本当に国のためになっていると思いますか?」
そう言われて考える
能力者たちは全員孤児だったり、無理やり親元から離されたり、人質を取られて従っているものも多い
アリアやアイルは家族を人質に、デルクは恋人を、バロンことセルバは使えていた屋敷の主人やお嬢様を
彼らは皆何か大切なものを奪われたり、従わざる終えない状況を作られていた
「でも、私はこれしか生き方を知らない」
トラヴィスは孤児だった
能力を買われ、大統領に可愛がられ、感謝してはいたが、今の子の現状に疑問も抱いてはいた
「私でも、この国の力になれるの?」
「なれます! きっと!」
ルーナは力強くトラヴィスにうなずいた
「ロシアよ」
「え?」
「大統領は今ロシアにいる。 多分モスクワ」
大統領の居場所に関する情報だった
「私の持ってる情報はこれくらい。 こんなことしか協力できないけど、国をお願い。 それと、ごめんなさい…」
トラヴィスのおかげで次の目的地は決まった
一般人となった彼女だが、数多くの機密情報も握っている
暗殺される危険も考慮し、ルーナ自身が彼女を守ることにした