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石野は世界を渡れるか?3

 赤井は目の前で起きた事象に驚きつつ、感嘆の声をあげた


「すごい、凄いぞ! まさに異世界のテクノロジー! いや、魔法というべきなのか? しかし、石野さんは一体どこに?」


 頭を抱えつつ、今起こった事象を調べるために電磁波や周囲の探知を始めた


 

 一方、不思議な石によって転移させられた石野は日本のどこか、古びた神社跡のような遺跡に来ていた

 壊れた鳥居、そこから続くほの暗い道

 警戒しながら奥へと進んだ


「一体何が起こったんだ。 俺は赤井さんの研究室にいたはずだ。 それなのに急に視界が回ったと思ったら全く見知らぬ場所。 訳が分からん」


 辺りには人の気配もなく、手入れもされていないことから長い間放置されていたようだ

 奥に進むと、石碑がある

 コケやほこりを払って文字を読む

 

「天照大御神…。 神社で間違いないようだな」


 昔はかなり大きかったようで、かなり広い

 しかし捨て置かれた神社であり、周りは森で囲まれ、うっそうと草が茂っていた

 

 本殿が見えてくる

 不思議なことに、本殿の前は清掃がいきわたっており、まるで毎日誰かが手入れしているようだった

 いや、実際に誰かが手入れしていた

 箒を掃く音が聞こえてくる


「だれか、いるのか?」


 声をかけてみると、箒の音が止まった


「なななな何故ここに人間がおるのですか!」


 少女のような高い声

 カランと音を立てて箒が転がった


「で、出ていくのです! ここは神聖な領域なので!」


 声のする方へ歩くと、震えるように巫女服の少女が蹲っていた


「君は?」


「ヒィ! に、人間なのです!」


 少女は怖がっている

 よく見ると頭から犬のようなピンとした耳が生えている

 そして臀部からはふさふさで金色の尻尾


「危害は加えるつもりはない。 ここは一体どこなんだ?」


「こ、ここは、神様と交信するための神社なのです。 人間たちが忘れさった我々神に使える神獣の楽園なのです!」


 少女は神獣、神に使える獣だった

 神力が高いために人型にもなれるようだ


「交信? なるほど、神の声を聴くための場所だったわけか」


「そんなことより人間! 速くここから出ていくのです!」


 プリプリ怒っているが、見た目のためか可愛らしくもあった


「ま、待ってくれ、俺はここ呼ばれたみたいなんだ。 よかったら案内してくれないか?」


「呼ばれた? 人間が? そんなわけないのです! 神様を忘れた人間たちを神様が呼ぶはずないのです!」


 ポカポカと石野の胸元を叩き、追い出そうとする少女

 そのとき、どこからともなく声がした


「おやめなさい、神狐、そのものはわたくしが呼んだ人間ですよ」


 声が響いているのは本殿の中からだ


「も、申し訳ありません! すぐに案内いたします!」


 ひれ伏すようにお辞儀をする狐娘


「ほら人間、ついてくるのです!」


 仕方ないと言った様子で本殿の中へと通された

 中は驚くほどきれいで、狐娘が毎日手入れしているのがよく分かった

 いや、中には狐娘だけではなく、神狸、神犬、神猫、神鳥などなど様々な神獣が人型になって働いている

 

「人間だ! 何でここに人間が?」


「神様がお呼びになったらしいにゃ」


「人間を? 何でですわん?」

 

 神獣たちは口々に疑問を投げた


「ほら、こちらで神様と交信できるのです。 粗相のないように努めるのですよ!」


 座布団を用意され、立派な神棚の前に座らされた

 しばらくすると、神棚が輝き、ホログラムのように目もくらむような美しい女性が現れた

 

「お待たせしましたね。 わたくしはツクヨミ、アマテラスが妹神です」


(月読命? 日本の三柱の一柱じゃないか)


 彼女の声は優しくあたりに響き、ともにいた狐娘もうっとりと聞き入っていた


「お呼びしたのはあなたにお願いがあるからなのです」


「お願い? 俺…。 私にですか?」


 微笑むツクヨミ

 

「今、この世界でたくさんの人々が別の世界に飛ばされているのは知っていますね?」


「はい、私はそれを調査していましたので」


「少し、昔話をします。 かつてどの世界にも悪魔と呼ばれる大きな闇がいました。 我々神と反存在である彼らは、幾度となく世界を侵食しようとしてきました。 この世界にも伝承は残っているでしょう? この国だと、鬼と呼ばれたりですね。 まぁ実際の鬼族と闇とは全く別物なのですが、それは置いておきます。 彼ら闇は神々との激闘の末にその全てが滅せられ、もしくは封印されました。 もちろん復活などできないよう厳重にです」


「話が大きすぎてよくわからないのですが?」


「つまり、世界に仇なす者達が今、復活しようとしているということです。 あなたには様々な世界に散ったこの世界の住人を集め、戦いに備えて欲しいのです」


「ま、待ってください! 私はもう65歳も過ぎ、体力も限界に近い。 とてもじゃないですがお役には立てないかと」


「それに付いては問題ありません。 あなたを若返らせ、さらに我々三柱の加護を与えます」


「それなら、確かに大丈夫だとは思いますが…。 それにしてもなぜこの世界の住人ばかりなのですか? 他の世界にも強い者がいるのでは?」


「そうですね。 疑問に思われるのも無理はないでしょう。 この世界には他の世界のようにマナがありません。 一応スポットと呼ばれる場所や神域にはほんのわずかではありますが、マナを発している場所はあります。 その、マナがないというのが重要なのです。 マナがないことで、あなた方は世界を渡るときに初めてマナに触れ、驚くべき力を手に入れることができるのです」


「つまり、通常では手に入れることのない力を俺たちの世界の住人のみが手に入れることができると?」


「はい」

 

 石野は考え込む

 理屈は分かったが、なぜ自分のような老体にそのようなことを頼むのだろう


「なぜ、オレ、私なんですか?」


「あなたが適格者だからです。 通常の人間ならば何度も世界を渡るには特殊な能力、もしくは強靭な精心、あるいはその両方が必要なのです。 あなたが保護した少女、ルーナはこれに当たります」


「なるほど、やはりあの子は…。」


「それと立木桃、あの子は同じ世界ならば幾度だろうと耐える精神があります。 そして、あなた。 あなたにはこの世界で唯一能力と精神、両方が宿っているのです」


 自覚などあるはずもない

 マナのないこの世界で能力は発現することはないし、精神に至っては確認するすべもない

 

「ふむ、いろいろと理解はできました。 ……。 俺は力になりたいと思っています。 ルーナを、立木ちゃんを救いたい。 それに、俺の後輩もどこかに飛ばされたみたいですし」


「そうですか! 協力いただけるのですね!」


 嬉しそうに手を合わせるツクヨミ

 

「では、ひとまずあなたを元の場所に戻します。 準備ができましたらまた私を呼んでください」


「どうやってですか?」


「はい、あなたには7匹の神獣を付けます。 彼女たちに言ってもらえれば、再びこの地にてあなたとお話ができますので」


「7匹の神獣?」


「わちきらのことですよ! あと、大広間にもいたでしょう? さっき見た子たちなのです!」


 正直少し不安だった

 大広間にいた人型の神獣たちはみんなルーナより少し年上くらいの見た目


「あの、子供ばかりで大丈夫なのでしょうか?」


「失礼ですねあなた! わちきたちはあなたよりずっとずっと年上なのです!」


 頬を膨らませて怒っている

 動物的な可愛さがあり、石野は少し癒された気持ちになる


「それでは、その時までお元気で。 出立の時には三柱そろってあなたに加護を与えます」


 ツクヨミの姿が輝き、視界が揺れる

 目のくらむ光がやがて納まり、目を開けると、赤井の研究室だった


 手には七つ玉の付いた紐が握られている

 玉には動物を表す漢字が書かれていた


 猫、犬、鳥、猿、狸、狐、蛇

 狐は恐らくあの狐娘だろう


「ふぅ、大変な仕事を引き受けちまったかもな」


 それから赤井がこの部屋に来るまでの数時間、疲れを癒すかのようにソファーで眠った


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