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少女はまどろみの中目を覚ました
胸には比喩ではなくぽっかりと穴が開いている
認識したとたんその穴はふさがった
ここはどこ?
まわりには何もなく、ぼんやりと明るいが、上も下も右も左も全てがあいまいだった
どこでもいいか
もう私には何もない
自分が何だったのかももう、覚えてない
大切な人がいたはずなのに、それすらも思い出せない
わたしはだれ?
漂う少女はそのまま異質な世界へとたどり着いた
「見てフィフィ、人が流れ着いてるよ。 珍しいね」
「まぁ、可愛いわメロ。 私たちの妹にしましょう」
「フィフィが望むならその通りに。 僕たちだけじゃ寂しいからね」
二人の異質な少女が自分たちの世界に流れ着いた少女を優しく抱える
誰だろう? でも、見たことあるような
だめ、思い出せない
二人の異質な少女は自分たちの力を流れ着いた少女に注いだ
「ほら、これで動けるだろう?」
「服も着せたげる。 私が作ったの! 可愛いでしょう?」
フィフィという少女がどこからともなく真っ白なぼろきれを取り出した
それには青いリボンがところどころに縫い付けられている
「これで君は僕たちの妹だ。 一緒に暮らそう。 僕たちしかいないこの更地の世界で」
二人は愛情を持って少女と接した
「ところで君の名前は? 僕たちはメロとフィフィ。 ラヴァーズさ」
二人の名前、聞き覚えがあるが思い出せない
「私…。 私は、だれ?」
「分からないのか。 じゃぁ僕が君に付けてあげるよ」
「そうね、あなたはあの時私たちを助けてくれた子に似てるの。 だからあなたはあの子の名前をもじって、ルニア」
その名前を聞いて少女の遠い遠い過去のことがよみがえった
破壊神だ! 逃げろ!
ひぃ! お願い、子供だけは!
魔法部隊! 撃てぇええ!!
お姉ちゃん! 早く!
大丈夫かいサニア。 ほら、ルニアもおいで
サニア! ルニア! こっちに! ほら、パパとママの間に入るんだ! 絶対守ってやるからな!
器…。
破壊神め! 必ず復讐してやるからな!
場面は変わり続け、そのたびに記憶がフラッシュバックする
「そうだ。 私は、破壊するために生まれたんだ」
混在する記憶が少女を突き動かす
「壊さなきゃ。 あの子を守らなきゃ。 壊さなきゃ。 全部全部」
少女はいつの間にか消えていた
「あれ? ルニアは?」
「分からないの、いきなり消えちゃった」
「そっか、でもいつかまた会えるといいな。 だってもう僕たちは姉妹だからね」
微笑みあう二人
ここには愛と平和が溢れていた
少女は再び彷徨い世界を回った
行く先々で破壊を繰り返し、再び破壊神と呼ばれるようになった
自分が何者かもわからず、ただただ破壊を繰り返し
流れ着いた世界は神々がまだ創造する前の世界
「私は破壊神。 だから全部壊すの」
神々は彼女が何者か気づかない
それほどまでに少女は変わり果てていた
優しかった少女の姿はどこにもない
あるのは破壊衝動のみ
彼女はこの世界で一人の女神の犠牲のもとに打ち倒された
やがてその魂はその世界で魔王となり魂を移し続け、数万年の時が流れる
そして魔王となった少女は神々に力を与えられた最後の勇者アイシスによって完全に倒される
魂を本来の器ではない仮の器に移した彼女はもはや消滅を待つだけ
あがいては見たが結果勇者たちを引き寄せ、消滅を速めただけだった
最後の最後
勇者と精霊の王女に看取られながらやがて存在が薄れていく
あぁ、そうだった
私、妹を守りたかったんだ
そうだった
私はただそれだけだったんだ
薄れゆく意識の中、全てを思い出した
少女はそこで、自分の世界を終えた
これでやっと、皆の元に、行けるのかな?
大好きな、皆
ルニア、あなたに会いたいよ
魂の保存に成功
これより彼女の再起動を行います
どこからか声が聞こえた
お姉ちゃん! よかった…
懐かしい声がする
さぁ、迎えに行ってあげなさい
あの子はよく頑張った
私達からのプレゼントだ
何を言っているの?
私もこの子に救われた
今こうして私たちが兄さまや姉様とここにいられるのもこの子のおかげ
あなたは、確か
お姉ちゃん…。
誰かが私に抱き着いた
懐かしい声、感触、匂い
これからはずっとずっと一緒、だよ
涙が知らず知らずにあふれてきた
私が欲しかったもの、ようやく手に入った
抱きしめ返し、二人は再開を喜んだ
・・・・・・