キュレスの研究2
研究に没頭していると、オルリアが紅茶をいれてきてくれた
「キュレスちゃん、あんまり根を詰めるのはよくないですに。 ちょっと休憩するといいですに」
猫の耳をぴょこぴょこと動かし、尻尾を振りながらオルリアはコトリとカップを置き、その横に甘いお菓子を置いた
自分の分も置き、ゆっくりと覚ましながら紅茶をすする
「熱いですに!」
舌を火傷する
見ての通りの猫舌だった
舌を出してハフハフと冷ましてから再び紅茶に口をつける
「熱いですに!」
またしても火傷
「何してんのよ。 学習しなさいよ」
「でも熱々がおいしいんですに」
また口をつける
「熱いですに!」
そんな様子を微笑ましく見るキュレス
少し癒された
「あ、そうそう、後でエリヴィとカリニアに素材を取ってくるように言っておいて欲しいんだけど」
「了解ですに! 何を取ってくるんですに?」
キュレスは紙に必要な素材を書き出して手渡した
「ふむふむ、ワイバーンの目に太陽の宝珠、魔鉄にオーク(樫の木)の木の皮ですに。 ワイバーンの目は千里眼のためですかに?」
「そうよ。 テントラの目をくりぬくわけにもいかないでしょう?」
「う、怖いこと言うですに。 太陽の宝珠はこの世界にあるんですに?」
「女神達があるって言ってたわ。 それに関しては女神が持ってきてくれるらしいから受け取りだけしておいて。 確か街の北にある神殿にいるはずだから」
「了解ですに! すぐ行ってくるですに!」
「ありがとう、気を付けてね」
元気よく駆けていったオルリアを見届けてから再び研究に戻った
深淵、根源を覗き、力を引き出す方法は未だに見つからない
パリケルの研究は天才と言われたキュレスでも理解不能で、まるで悪魔の技術のように思えた
「悪魔の技術…。 そんな恐ろしいこと想像したくもないわね。 ま、でも遥かな昔に神様に滅ぼされたって言うし、大丈夫だとは思うけど」
悪魔は確かにいた
しかし今ではどの世界だろうと見ることはできない
彼らは神々との戦いで敗れ、ある者は神々の配下となり、またある者はその身を消滅させられた
配下となった悪魔は天使となって今では人々を見守る存在となっている
悪魔はもう、いないのだ
「ま、心配したって始まらないわよね」
フラスコを見つめ、自分の顔を見る
ここのところろくに寝ていないのでクマがすごかった
「少し寝よっと」
フラスコを元に戻し、机を少し片づけると備え付けてあるソファーベッドに寝転がって眠った
ふかふかのソファーが優しく体を包み込み、すぐに眠りへ落ちていった
眠りの中、夢の中
何者かの声がした
「深淵、渦、災魔、望んではだめ、記憶しないで、あなたはだめ、でもわかって、あなたを守るため」
「だれなの!? 何の話をしてるのよ!」
「選ばれたのはあの子だけ。 一人だけ。 扉は閉じた。 もう二度と開かない。 神々は私たちを…。 私たちは、悪魔」
「悪魔!? 悪魔って言ったの? ねぇ待って! どういうことなの?」
その声の主はもう答えてくれない
真っ暗な空間に一人取り残された
「悪魔が、守る? 私を? 一体どういうことなのかしら」
そこで目が覚めた
「夢?」
まわりを見るといつもの研究室
ちょうど扉が開き、オルリアが戻って来た
「寝てたんですかに?」
「う、うん、ごめん、オルリアも眠いはずなのに」
「何言ってるんですかに。 私たちはちゃんと休めてるですに。 キュレスちゃんはもっと休むですに。 ほら、寝ておくんですに!」
無理やりソファーへ戻されて布団を掛けられた
干したての良い香りだ
またしても睡魔が襲ってきて眠りについた
夢の中、悪魔のことを考える
悪魔は人に仇名し、神を殺そうとした大罪人
どの世界でもそんな認識なんだそうだ
大昔はどこにでもいて、世界中で猛威を振るい、人々を困らせて神に喧嘩を売っていた
まだこの世界の双子女神が生まれてもいないほど遥かな昔だったそうだが、女神達は他世界の神々から聞いていたらしい
しかし、本当にそうだったのか?
キュレスはあの時の声を思い出す
優しい声、慈しみにあふれた声だった
「悪魔っていったい何なのかしら」
考えは巡るが、いくら考えても分からないので深く深く眠りに落ちていった