3-15
北川の死体に布をかけ、気絶している人々を介抱するために何人かをその場に残して総理を追った
「先ほど出てきた戦闘能力者でほぼすべてのはずです。 ここは少数で進みましょう。 警戒されて逃げられても仕方ないですからね」
藤子の提案に乗り、ここからはサニーとリゼラス、いなみ、いなみの父親である秀一、それに案内の藤子というメンツだ
いなみの姿は誰もが振り返るほどに美しくなり、背も伸びている
サニーからシフトしていたルーナは自分の姿と見比べてため息をつく
いなみは高校生らしい体格に、出るところは出て引っ込むところはしっかりと引っ込んでいた
しばらく道なりに進み、藤子がある部屋の前で止まった
「ここです」
一見するとただの部屋にしか見えなかった
人一人が十分暮らせるくらい、六畳一間の部屋だ
「この奥に研究施設があるんですよ」
藤子が中にある電話の受話器を手に取り、番号を押していく
すると電話の奥にある壁が下がり、階段が現れた
「行きますよ」
階段を降りきると、少し広めの廊下を進み、研究所にたどり着いた
ここには様々な機材が置いてあり、北川が他者の能力を植え付けられたのもこの研究所だ
世界各国は能力者の人体実験を禁止してはいるが、その実裏では各国が秘密裏に人体実験をしている
この研究所もそのために作られた
あたりを見ると、人間の原型をかろうじてとどめている実験体と思われる人々が培養液のようなものに浸されていた
その中にはまだ幼い少年少女の姿もあった
「こんな小さい子供まで…。 絶対僕たちの手でこの国を変えよう!」
研究所の最奥、そこには大きな扉があった
「ここです。 この奥にはとある装置が安置されています。 この国の技術の粋を集めたもの…。 この国の総理のことを知っていますか?」
「財津総理のこと? 今までにない斬新な改革と発想で短期間で政権をまとめあげた天才って聞いてる」
「そうです。 そしてあの人は超一流のテレパスでもあります。 その力は対象の心の奥底にまで侵入し、洗脳も破壊も思いのままにしてしまう。 この国の洗脳装置などは彼の能力の体現をしたものなのですよ」
財津が総理になってからこの国の能力者に対する技術は飛躍的に高まった
彼の過去は誰も知らない
彼は突如として政界に現れ、そのカリスマ性で国を掌握してしまったのだ
「じゃぁあの人を倒せば、この国は改善されるってこと?」
「そう簡単な話ではありませんが、その一端は担えるでしょうね。 ただ、この奥にある装置、それが問題なんですよ。 今までの洗脳装置とは明らかに違うんです」
「どういうこと?」
「簡単に言えば、超強力な洗脳装置とでも言いましょうか、財津総理の脳につなぐことでこの世界全体を彼の支配下に置くことが可能になるのです。 この装置はですね。 能力者全員を発見でき、その心に直接ダイブできるようになります。 奥深くまで洗脳を施され、やがて財津総理の意のままになる兵と化すのです」
そんな危険な装置がこの中にある
中に入るには財津自身の指紋か、彼の許可がいる
通常なら能力を使おうとも入ることはできない頑健な扉だが、サニーの力ならば簡単に崩すことができる
「つまり、私がこの扉を壊しちゃえばいいってことね?」
「えぇ、お願いします」
「簡単簡単、エイッ」
サニーが消滅の力を使い、扉を消し飛ばした
全員が固まるほど驚いている
なにせ扉とその周囲の壁ごといきなり消滅したのだ
当然の反応だろう
開いた扉の奥には財津総理がすでに装置に座っていた
「ふん、来たか。 一足遅かったな」
財津がスイッチを押し、装置を起動させた
すると、装置の周りにある壁が光り、映像が投影された
その映像にはサニーたちが映っている
「まずはお前たちからだ。 私の国をかき回したお前たちにはここで死んでもらう」
財津が能力を使うと、サニーといなみ以外全員が頭を押さえて倒れ、のたうち回り始めた
「ん? お前たちには効いていないのか? ならば出力をあげ…」
言いかけて財津は目を見開いた
二人が視界から消えたのだ
「な!? どこに行った? 完全い捕捉していたはずだが」
あたりを見、再び驚いた
二人はすでに財津の後ろにいたのだ
サニーは拳を彼の腹に叩き込み、装置から引きはがした
その場に倒れ込み、ピクピクと痙攣し始める財津
「よし、死んでないわね。 私もずいぶん手加減がうまくなったものだわ」
手の埃をパンパンと払い、どや顔でいなみに言った
「これほどとは恐れ入りました。 まさか彼の能力まで効かないとはね」
他の者はまだ倒れているのに藤子は何事もなかったかのように起き上がっていた
「これで、この国は変わるのかな?」
「えぇ、変わります」
藤子はゆっくりと財津の近くまで歩み寄った
「私が変えるんです」
財津の頭をもち、首を爆破で千切り落とした
「何を…。 してるんだ」
いなみはあまりの光景に言葉を失う
「これが欲しかったんですよ私は!」
装置から操作パネルを取り外し、財津の頭をつないだ
「これで世界は私のものです!」
「お前! 僕たちに協力してくれるって言ったじゃないか! それに、僕に殺されるならいいって!」
「言いましたよ。 それは全部本音です。 そして、私もこの国を変えたかった。 こいつでは能力者たちがあまりにも不憫でしょう? 私に使われた方が彼らも幸せになれると思うんですよ。 大丈夫、戦争なんて起こらない平和な世界にしますよ。 私の手で」
「待て! それ以上動いたら僕がお前を殺す!」
「いいいでしょう、やってみなさい。 あなたの父親がどうなっても構わないというならね」
映像にいなみの父、秀一が映し出された
「父さん!」
彼は先ほどの財津による攻撃でまだ気を失っているようだ
「いなみさん、あなたは私の右腕となってもらいますよ。 これほどまでに強い力を持った能力者は初めてですからね」
ギリギリと歯を食いしばるいなみ
「大丈夫よ。 私があいつを止める」
サニーは小声でいなみを落ち着かせる
「ルーナさん、あなたも少しでも動けば仲間の命をありませんよ」
人質を取られている
しかしサニーはまったく意に介さない
先ほどよりも早く、残像を残すほどに、光に近い速さで藤子を殴りつけた
彼は目を見開く
「う、そ、でしょう」
視界から消えたとき反応すれば十分対応できると思っていた
まさかその数段速いスピードで人間が動けるなど思ってもみなかった
撃ちぬいた拳と遅れて出る破裂音
パーンという音と共に藤子の体がはじけ飛んだ
「馬鹿ね。 おとなしくいなみさんに協力してれば死ぬこともなかったのに」
手についた血をぬぐうとルーナにシフトした
「ルーナさん?」
「ごめんなさいいなみさん。 あなたの敵だったのに」
「いえ、僕じゃ動けませんでした」
二人は倒れた仲間たちを背負い、先ほどの広場へと戻って来た
既に何人かが目を覚まし始めていた
「これでこの国は変わるはずです。 ルーナさん、ありがとうございました」
「おっと、まだまだこれからデスよ。 世界を変えるんデス。 次はアメーリカ行きマースよ!」
目を覚ましたメリルが元気よくアメリカの方向へと指を刺した
「そっちは中国ですよメリルさん」
いなみとメリルは笑いあった