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3-2

 ここは地球に似た世界だというのは分かった

 街や都市の名称も地球の、以前自分がいたところとほとんど同じだ

 ここは東京で、その街街も区で分けられたりと一致している

 ただ一つ違うところがあるとすれば、それは魔力があること

 魔法を使える者ならだれでも認識できるこの魔力、もちろんルーナもリゼラスもパリケルも感じることができる

 これだけの魔力がありながら、誰も魔法を使っていない

 不思議に思っていたが、その理由はすぐに判明した

 大きなビジョンに映し出されるニュース、そこには新たに数名の超能力者が生まれたことを伝えるニュースが流れていた

 それぞれ名前は羽崎恵(はねさきめぐみ)北川陽(きたかわよう)加藤林司(かとうりんじ)、そして明神(みょうじん)いなみだ


 このうちの明神いなみだけは現在両親と共に行方不明となっているらしい

 母親は国家反逆罪のためその場で射殺され、父親はいなみと共に行方をくらましたそうだ


(射殺? なんだか物騒ね)


 ルーナはそう思った 


 この世界では超能力者は国が管理するため、行方を捜しているとのこと

 ビジョンにはいなみの顔写真がでかでかと映し出されている

 ふとっており、いかにもないじめられっ子オーラを醸し出している

 両親の方も顔写真が出ているが、いなみとは似ても似つかない顔立ちで、美男美女と言っていいだろう

 

 ルーナは一応そのニュースを念頭に置くことにした

 魔素も十分漂っているこの世界ならばすぐに転移できるだけの魔力もたまるだろう

 何の問題もなければ溜まり次第次の世界へ転移する予定だ


「まずは食料ですね。 幸い干し肉なら少し残ってますけど、これだけでは魔力が溜まるまでの一週間、もちそうにありません」


「ふむ、どこかで調達せねばならんな」


「でも、この世界、私がいた世界と同じようならなかなか食料調達は厳しそうです」


「それなら、俺様に任せるぜな。 これを見るぜな」


 パリケルがポケットから取り出したもの、それはスマホのような装置だった


「これは?」


「うむ、説明しよう! これは空気中や水中から有機物を取り込んで化合し、食料を作り出す画期的装置だぜな! 作れるのはお肉のようなもの一択だけど、ないよりはましだぜな。 しかも! 塩味付き!」


「ほぉ、便利なものだな」


 早速起動してみると、みるみる有機化合物が集まって、ハンバーグのようなものが現れた

 早速口に含んで味を確かめてみる

 

「むぐ、おいし、くはないですけど、普通に食べれる味です」


「うむ、うまくはないがまぁ大丈夫か」


「ふ~む、味は改善すべき点だぜな」


 食糧問題は解決したが、次は住処だ

 街の中で野宿するわけにもいかず、この世界のお金もないので宿に泊まることもできない

 もうすぐ日がくれそうだ

 

 仕方なく野宿できそうなところを探して山に分け入っていると、不思議な魔力の気配がした

 ルーナはそれをたどって歩くことにした




 ――数日前

 

 いなみは両親とこれからどうするかを話し合っていた

 一番は田舎の人が少ないところで暮らすこと

 ひっそりと、誰にも気づかれないようにだ

 この世界では超能力者はみな管理されなければならない

 さらに能力に目覚めた者は戦闘訓練を受け、他国との戦争に駆り出されることもある

 当然他国にもお抱えの能力者はおり、彼らとの戦いで命を落とす者もいる

 そんなことをいなみにさせたくないと、誰にもばれないように暮らすのだ


 それに、いなみは今までの能力者とは明らかに異質だ

 どんな能力者でも、変身能力を持つ者以外にここまで変化した者はいない

 それも、繭を作り、羽が生えているとなると、これまでの能力者では皆無だ

 

「逃げるって、一体どこに?」


「そうだな、おやじを頼ってみようと思う。 あそこは周囲に人も少ない。 偏屈なオヤジだが、イナミのことは可愛がってるし、何とかしてくれるだろう」


「おじいちゃんのとこに行くの?」


「あぁ、ただ、交通網は使えないな。 いなみ、お前は目立ちすぎるからな。 歩いて行くしかないだろう」


 いなみの見た目はひとえに言うなら真っ白

 さらにはかなりの美少女であること、そして何より羽だ

 羽は一応くるんで収納できそうだが、無理に曲げると痛みが走る

 歩いて祖父の元へ行くのには時間がかかるため、長時間収納すれば支障が出るだろう

 空を飛んでいこうにも、飛行機やヘリが飛んでいるのでそれもできない

 となると、徒歩しか移動手段がない


 そんなことを話しあっていると、突如として誰かの訪問を告げるチャイムが鳴り響いた

 時刻はまもなく夜中の12時

 こんな時間に誰が尋ねたのだろう?

 と、いなみの母が玄関へと向かい、扉を開けた

 そこにいたのは、きっちりとした高級そうなスーツを身に着け、夜だというのにサングラスをかけた男たちだ


「明神いなみさんはいらっしゃいますか?」

 

「あの、どちら様でしょうか?」


「申し遅れました。 我々は政府組織、超能力課の者です。 息子さんのことでお話があります」


 すぐに分かった

 ばれたのだ

 何故ばれたのかは全く分からない

 目覚めたのはつい6時間前のことで、いなみの能力は両親、そして加藤とその取り巻きくらいしか知らないはずだった

 いや、加藤に至っては、いなみがこうなったという認識はなかったはずだ

 それなのにすでに政府に知られている


「何故分かったのか、という顔をしていますね。 いいでしょう、お答えしますよ」


 政府の男は笑顔でそう言ったが、サングラスの奥の目は笑っていない

 

「我々は能力に目覚める可能性のある力の強い子供達を監視しているのですよ。 常にね」


 出生した病院からすでに目をつけられているという

 いなみの場合は赤ん坊のころに身体検査をした病院だった

 

「その子は我々にとっても貴重な存在なのです。 これまでその子のような能力に目覚めた子はいません! 世界初のことなのですよ!」


 男は興奮気味にまくし立てた


「だからですね。 我々にその子を預けていただきたい。 なに、悪いようにはしませんよ。 ご両親には政府から補助金が出ます。 今後一切働かなくても十二分に暮らせるほどのね。 必要ならどんなことでも出来うる限り対応しますよ」


 破格の好条件

 通常の能力者の家庭ではここまでの条件は出ない

 それほどまでにいなみは異質で特別だということだろう


「お断りします! この子は、静かに暮らしたいんです。 政府のためにこの子の安寧を奪わないでください!」

 

 母は政府の男に強く出た

 そのとたん、母は、撃たれた


「お母さん!」


 胸を押さえて倒れる母親を、イナミと父親は支えた

 心臓を的確に撃ち抜かれている

 母親の口からゴバッと大量の血の塊があふれ出る


「いな、み」


「しゃべっちゃだめだよ。 おかあさん、なんで、なんでこんな」


 そんな様子を見て男たちは無表情に近づく


「だめですよ? これは命令なのですから、断れば国家反逆罪で死刑ですからね」


 手に持った銃を今度は父親に向ける


「お父さん、危ない!」


 いなみは父親をかばって銃と父親の間に割って入った


「困りましたね、あなたを傷つけることはできないのですよ。 そんなことをすれば私の首が飛びますからね。 比喩ではなく、ね」


 男は表情を変えずに困ったようなしぐさをした

 そして深いため息をつく


「仕方ありません。 今日のところは引き上げましょう。 またそのうち来ますので、早く用意をしておいてくださいね」


 男たちは去って行った

 

 いなみはだんだんと体温が無くなっていく母親を抱え、涙をこぼした


「お母さん、おかあさん、しっかりして、目を開けてよ」


 母親は目を開けない

 

「礼子! 礼子!」


 父親は必死で母親の名前を呼んだ


 すると、少しだけ目が開く


「あな、た…。 いなみ…」


「お母さん!」


 苦しそうに息をしながら、母親は最後の気力を振り絞って声を出した


「大好き、よ」


 それだけ言ってこと切れた

 家の中に悲鳴交じりの嗚咽が二つ響いた

 

 二人は母親の死体を横たえ、布をかけた


「許さない」


 ぽつりといなみの口から洩れた言葉


「いなみ…」


 父親がいなみの顔を見る

 そしてゾッとした

 いなみの顔はこれまで見たこともないほど怒りに満ち溢れ、歪んでいた


「お父さん、僕は、敵を取りに行くよ」


「いなみ、お前…。 ダメだ! お前までいなくなったら俺は」


「大丈夫、僕は死なない。 絶対にお父さんのところに帰ってくるから! それまでおじいちゃんのいる田舎に隠れてて」


 いなみの意志は固く、説得できそうになかった

 

「分かった。 能力に目覚めたんだもんな。 でもな、いなみ、危なくなったら逃げろ。 絶対にだ!」


 父親は力のない自分を悔しく思いつつ、いなみを仕方なく送り出した

 いなみが傷つくのは絶対に嫌だが、妻を殺され、怒っているのも事実だった

 政府を壊してしまいたいほどに


 そして、いなみは政府の元へ向かう

 まずはあの男、母親を奪ったあの男への復讐をするために行方を追うことにした


 それから数日後、運命の出会いを果たすこととなった


いなみの力はちょっとずつ出していきます

その正体もいずれ


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