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 悲惨なのはこの街だけではなかった

 進む道は崩壊し、木々は燃え、ぐちゃぐちゃになった死体が点々と落ちていた

 それらの死体も丁寧に埋葬し、進んでいった


「なぜこのようなことが平然とできるんだ…。 操られているわけでもないだろうに」


 簡易のお墓に祈りを捧げながらリゼラスが悲しそうにつぶやく

 死体の損傷は酷く、まるで子供が虫をいびり殺すかのように手足をもがれ、苦悶の表情のまま息絶えいてた

 それは老人も子供も関係なく、逃げる者も容赦なく殺しているようだった


「痕跡はまだ先に続いているみたいですね。 速く止めましょう」


 見失わないよう注意深く探しながら彼らを探して進み続けた

 やがて、城がそびえる大きな街が見えてくる

 そこから突如として巨大な火柱が上がった

 それに伴い人々の悲鳴が聞こえる


「急ぎましょう!」


 城壁があったようだが、粉々に砕け散っており、街中へすんなりと入れた

 既に何体かの死体が落ちており、そのどれもが捻じれ、まるでぞうきんを絞ったかのようになっていた

 ただよう死臭に顔をしかめ、吐き気が込み上げてくるが、それ以上に込み上げたのは怒りだ


 火柱の上がった城の方へ行くと、そこには一つにまとめられ、ギュッと圧縮されて死んだ兵たちがボールのように転がっていた

 

「あれ? 来たんですか? まぁいいでしょう、ようやく私の力も戻ったことですし、あなたたちで試させていただきますよ」


 そう言ったのは真藤、魔王らしい醜悪な姿をこちらに向けて笑っていた

 その手に握られているのは久慈川だ

 ボロボロで、手足を引きちぎられていたが生きているようだ


「君たち…。 都合はいいとわかってはいる。 だが、こいつを止めてくれ、私は、こんなつもりではn」


「うるさいですね」


 久慈川は魔王に頭をつぶされ絶命した

 彼はここまでの破壊を望んではいなかった

 彼の望んだ夢は、ただ豊かに、人間を豊かにしたかっただけだ


「仲間では、なかったのですか?」


「私と? こいつが? 私の道具ですよこれは。 まぁその点では優秀でしたね。 まゆかと言いましたか? あれの力を引き出すのに大いに役立ってくれましたからね」


「まゆかちゃん? 一体何の関係が?」


「おや、わかっていなかったのですか? あれはあの世界の住人ではないのですよ。 あれは私のように他の世界から渡って来た者です。 あぁ、そう言えばあなたたちもでしたね。 まぁそれはいいでしょう。 あれの正体、教えておきましょう。 あれは異界を渡る者と呼ばれる一族の一人、魔力が無かろうがどんな世界にもわたることのできる稀有な存在ですよ」


 まゆかの正体に驚いた

 彼女はまだ物心もついていないころにあの世界に流れ着き、たまたま拾った両親のもとで育ったのだ

 そして今現在の姿、あれこそがまさしく異界を渡る者の本来の姿だった


「まさか、この世界に来るためにまゆかちゃんをあんな目に合わせたのですか?」


「何を言うのです。 私の役に立てたのですから彼女も喜んでいることでしょう」


「勝手なことを!」


 リゼラスは剣を抜き放ち、一気に間合いを詰めると斬りつけた

 ここでは物理法則などない

 その動きは人間の限界を超えていた

 

 魔王の胴を薙いだと思ったが、魔王はあっさりと避けていた

 そのまま久慈川の死体をリゼラスに投げつけ、それが直撃し、彼女は吹き飛んで城壁に叩きつけられた


「ぐがぁ!」


 血を吐き出し、倒れ込む

 

「リゼラス!」


 パリケルは4号を起動し、魔王に向かって放った

 4号はガトリングを腕に装着し、撃ち放った

 その全弾が魔王に命中したが、表面を軽く傷つけただけであまりダメージはないようだ


「少しだけイラっと来ました。 あなたはゆっくりといたぶって殺してあげましょっ」


 そう言いかけたところでルーナの拳が顔面に叩きこまれた


「グバァ!! な、なんだ今のは、全く動きが見えなかった」


 驚愕の声をあげる魔王

 サニーではなくルーナの攻撃だったとはいえ、その渾身の一撃を耐えきった魔王はそれなりに強者であるとうかがえる

 しかし、目の前にいたはずのルーナの姿は一瞬で掻き消え、再び顔面を強打された

 ルーナはキレていた

 決して目で追えないほどの素早さで魔王が原型をとどめないほどに殴りつけていった


「ぐっがっ、馬鹿、な…。 これほどとは、聞いていない、ぞ」


 肉塊になりながらもまだ生きている


「恐るべき生命力ですね。 でも、これで終わりです」


 ルーナは拳に消滅の力を溜めて突いた

 一瞬にして魔王は魂ごと消滅した

 かなり上位の次元の存在だったこの魔王

 それでもルーナの力の足元にすら及ばなかった


「久慈川さん…。」


 もはやただの肉塊となり果てた久慈川に声をかける

 当然反応はないが、彼を布に包み、運んだ

 転移門はまだ開いているようなので急いで戻ってくぐり、再びまゆかを寝かしている民家へと向かった

 しかしそこにまゆかの姿はなかった

 

「一体どこに…」


 まゆかを探すため、パリケルの装置を頼る

 しかし反応は全くない

 死んだか、あるいは異世界に渡った

 その2つが考えられる

 この民家には鍵をかけていた

 侵入された形跡も打ち破られた形跡もないため、恐らくまゆかは自分で動いたのだろう

 かぎがかかっていたということは、異世界に渡ったと考えられた


「まゆかちゃん」


 ルーナは彼女を探すことにした

 もう一度、会いたい

 短い間だったが、妹のように思っていた

 だから、もう一度だけでも

 

 久慈川の遺体を東都の首相官邸前へ運び、丁寧に寝かせると、ルーナはたまった魔力を消費してこの世界を去った


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