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結果はあっという間だった
倒れ伏すキュレスたち、ただの一撃で動けなくなっていた
「動け、ない…。 嘘でしょ? 何なのよその動き」
この世界では物理法則が支配しているためそれを無視した動きはできない
それはリゼラスや七英たちも同じで、人間を超える動きなどはできない
しかしサニーはそれを完全に無視していた
ルーナの方もそうだ
ルーナの翼のサイズでは三人も抱えて空を飛ぶことなどできない
それどころか自分ですら持ちあがることはない
完全に物理法則を無視していた
「お姉ちゃん、変わるね?」
サニーは体をルーナに渡す
「ありがとうサニー」
倒れ伏す七英の面々を見るルーナ
彼らは全く動くこともできず、ルーナが近づいてくるのを恐怖の目で見つめている
「殺すの? 私たちを、まぁいいわ。 どうせ失敗したから私たちはエイシャ様に殺されるもの」
彼らに近づき、そっと手を添える
ルーナは力を行使した
そのとたん虚ろだったキュレスの目に光が戻った
「あ、れ? ここは、どこですの?」
キョトンとするキュレス
何があったのか全く覚えていないようだ
それは他の七英も同じで
「俺は一体何を? む、大丈夫かキュレス」
「何ですにここは? あれ? いつの間にみんなで旅行に来たんですに?」
などと口々に言っている
彼らは今までのことをまるで覚えていなかった
洗脳されていたことも、仕えていた皇帝が殺されたことも、多量の人を殺したことも、世界一つを消し去ったことも
何も覚えていなかった
ひとまずルーナは彼らを落ち着かせ、事情を説明した
「何ですって? お姉さまもここに!?」
キュレスはリゼラスが同じようにこの世界にいることに目を輝かせた
「事情は分かった。 すまない、君たちにかなり迷惑をかけてしまったようだな。 僕たちは何をすればいい? 何か手伝えることがあれば何でも言ってくれ」
七英達はどうやら協力してくれるようだ
とりあえずは彼らに兵たちを殺さぬように一掃してもらうよう頼んだ
それからはリゼラスの救助だ
あたりの兵を一掃し、倒れた兵たちを縛って集め、リゼラスの向かった方へと走った
その頃リゼラスは追いつめられていた
いくら剣技が優れていても多勢に無勢
すでに足を打ち抜かれ、逃げることはできなくなっていた
「構えろ」
兵の隊長らしきおとこが合図を送ると、兵たちは一斉に銃を構えた
「撃て」
リゼラスは死を覚悟した
これまで自分のしたことを思い返し、当然の報いだと受け入れる
弾丸がリゼラスに迫り、彼女は目を閉じた
(すまないルーナ、これ以上君の力になれそうにない。 お父さん、お母さん、もうすぐ、会えるよ)
しかしいつまでたっても弾丸は体を打ち抜かなかった
そっと目を開けると、そこにはルーナの顔があった
彼女は結界によって自分たちの周りを囲み、弾丸をはじいているのだ
「なんだあの化け物は!?」
兵たちが驚愕の声をあげる
魔物がいるこの世界で、今使っている銃器はかなりの効果がある
それが全く通用しない相手
ルーナは翼を広げると、兵たちを尻尾で薙ぎ払い、そのままリゼラスを抱えて飛び去った
パリケルやまゆか、七英達が待つ場所まで飛ぶ道中、七英の洗脳が解かれたことを話した
「そうか、よかった…」
ホッと安心し、喜ぶリゼラス
鹿山へ戻ると、パリケルが出迎えた
まゆかは未だ目を覚まさないが、命に別状はないようだ
「お姉さま! 申し訳ありませんの!」
キュレスが頭を深く下げる
もともとの彼女はリゼラスを慕う妹のような存在で、リゼラス自身もそんな彼女を可愛がっていた
しばらく彼らと話し合い、彼らをオルファスへ匿ってもらうことにした
オルファスは現在消滅の危機にあるが、パリケル曰く、自分が生きている限りそれはないだろうとのこと
なんでも消滅の神に興味を持たれ、見逃してもらったそうだ
「お姉さま、お役に立てず申し訳ありませんが、私はお帰りを待っています。 必ず、必ず戻ってきてくださいね」
七英はそのままオルファスへと転移していった
「これで、ひとまずは安心だな。 だがこの世界の悪たる元凶を取り除かなくては」
久慈川と真藤
この二人は他世界を狙っている
今のうちにその計画を阻止しなけらば他世界に危険が及んでしまう
まゆかをパリケルに任せ、二人は久慈川と真藤を探し始めた