2-24
数日後、少女は目を覚ました
きょろきょろと周りを見渡し、驚いたような顔をしている
「目が覚めたようだな。 どうだ? どこか痛むところはあるか?」
優しく声をかけるリゼラス、少しびくついていたが、リゼラスの笑顔を見て安心したのか、痛みはないと首を横に振った
そして、自分の体を見回している
服はそのあたりのデパートでリゼラスの金貨と引き換えにもらってきたものだ
どうやら背中のうろこと兎のような尻尾は見えないようで、気づいていないみたいだ
とりあえずはそのことは黙っておき、彼女のことを聞いてみた
「名前は?」
答えない
「どこから来たの?」
東の方を指さす
「お父さんとお母さんは?」
首を振る
彼女は言葉がしゃべれないのか、喉を指さし口をパクパクと開き、首を横に振った
「文字は、かける?」
コクリとうなずく
紙とペンを用意してあげると、名前を書いた
椎名 まゆか
歳は10歳
出身は東都で、両親はもともとおらず、施設で暮らしていたそうだ
「ということは、この子は天涯孤独か」
少女はシュンとしている
施設の子供達とは仲が良く、そこの先生と呼ばれる人も優しかったらしい
そんな彼らは自分を一人残してみんな消えてしまったそうだ
この一連の失踪事件は異次元の扉を開いたことによるもの
ところどころに開いたその扉に人間が吸い込まれればほぼ無事ではすまない
死ぬか、永遠に狭間の世界をさまようか、気が狂う、化け物になるなど不幸な結果が待っている
施設の人々は恐らく全員がそうなっているだろう
生存はもはや絶望的だった
そんなことをまだ幼いこの少女に伝えることはできない
「きっと、みんな帰ってくるよ」
慰めるようにルーナが少女の肩にそっと手をかけた
まゆかの顔に少し笑顔が戻った
「取りえず、私たちが今暮らしてる仮設住宅に行こっか」
ルーナは三人に捕まるよう言うと、翼を広げて飛び上がった
まゆかは非常に驚いた顔をしていたが、空を飛べたことが楽しかったのか喜んでいる
「私が飛べるってことは内緒ね」
まゆかは嬉しそうにうなずく
やがて、明京が見えてきた
人目があるので手前の廃墟の屋上へ降り立ち、仮設住宅へと戻った
施設の管理人真藤にまゆかのことを紹介する
「なるほど、人のいなくなったあの町にまだ残ってたのか。 よかった、一人でも残ってくれてて」
真藤はまゆかに微笑んだ
まゆかはルーナ達と暮らすことになった
言葉がしゃべれないのと魔物と少し融合してしまっている以外まゆかは普通の女の子で、よく笑う子だった
ルーナ、サニーと一緒に遊んでいるときはすごく楽しそうだ
声が出ないのはもともとだそうで、声帯に障害があるという
まゆかは普通のニチモト人と違った特徴がある
普通ニチモト人は目の色や髪の色が黒、もしくは濃い茶色なのだが、まゆかは髪こそ黒いものの、目の色が紫なのだ
これはもしかしたら魔物と癒合した影響なのかもしれないので聞けないでいたが、鏡を見ても何も気にしていないのでもともとなのだろう
ちなみにお風呂は一緒に入り、体を洗ってあげているので今のところ背中のうろこと尻尾には気づいていないようだ
案外鈍い子なのかもしれない
そんな感じで少女との生活が始まったが、数週間後、東都から来たという政府の人間がルーナ達を訪ねてきた
まゆかを連れに来たのかもしれないので、彼女を隠し、応対した
彼らはどうやら住人の消えた街の生き残りであると思われているルーナたちに話を聞きに来ただけのようだ
気づいたら人が消えていたとだけ言ったら
「そうですか、わかりました。 ありがとうございました」
とだけ言って去って行った
本当にそれだけだったみたいで、四人はほっと胸をなでおろした
「ええ、どうやらそのようです。 いえ、あの三人が何者かは分かりませんが、この世界の者ではないようです。 はい、拝承しました。 では総理、後ほど」
真っ暗な部屋で電話をかける男の声が響く
彼は不敵に笑い、総理が到着するのを待つ




