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夢を見ていた
まるで遠い遠い昔の懐かしいような夢
二人の双子と思われる少女が村で駆けまわっている
二人はとても仲が良く、どこに行くのも一緒だった
いつもおどおどとしている妹と、元気よくはつらつとしていて妹を振り回す姉
毎日のように森に行き、かくれんぼをしたり鬼ごっこをしたり、花畑でお花を摘み、いろいろな花装飾を作る
双子は幸せそうで、いつも笑顔にあふれていた
両親もそんな二人の成長を見るのが一番の幸せで、笑って…
両親の顔が、記憶から消えたかのようになかった
やがて双子は10歳の誕生日を迎え、この村唯一の子供で村人たち全員から愛されている双子は村全体で祝ってもらえることになった
といってもこの村は住民が200人ほどの小規模な村
彼らは一様に双子を温かく、また、嬉しそうに祝うのだが、その彼らの顔もわからない
ふと、自分を見る
自分は祝われている
双子のどちらかだ
もう一方を見るが、自分と同じ顔のはずの彼女の顔も白く塗りつぶされたかのように分からなくなっていた
そんなさなか、村を突如巨大な爆発が覆った
成すすべなく村人たち、大好きなみんなが巻き込まれ、消滅していき、双子をかばった両親もその爆発によりバラバラに…
泣き叫ぶ双子だけがそこに取り残された
爆発の中から黒く、邪悪で、見ているだけで飲み込まれそうなほどの何かが這い出してきた
それは双子に近づくと、自分とは違う片方に手を伸ばしてきた
とっさに自分はその子をかばい、間に割って入った
そのとたん全身に激痛が走り、その何かが体の中に流れ込んできた
悲鳴を上げる
それを見て双子の片割れが自分に手を差し伸べる
その手を掴むと、何者かは片割れの中にも流れ込んでいくのが分かった
ウ、ツワ…
何者かがそう言ったのが聞こえる
だめ、やめて、妹に手を、出さないで!
なぜかそう思った
しかしすぐにその意識は何者かの中に溶け込み、消えていった
片割れも同じように消えたようだ
何者かに支配された体はその後、世界中で破壊の限りを尽くす
そんなある日、消えたはずの意識がふとした拍子に戻った
横を見ると、片割れも戻ったのか、暴れそうになる自分の体を必死に押さえつけているが、その手は目の前にいるエルフの男と女を今まさに殺害しようとしていた
体が勝手に動き、それを止めると、その腕は自分ごとエルフ二人を貫いた
そのまま片割れを抱き、飛び去る
そのあとには両親を殺され泣き崩れる幼いエルフの少女が残った
やがて切り立った崖のある丘までたどり着くと、消えそうになる意識の中片割れの中にある力を口から吸いだし、自分の中へ取り込んだ
これで、×××は…
全ての罪は私が背負って逝きます
だから神様、×××を…
その祈りは通じた
少女はそのままこの世界から消え、片割れはその場で眠りについた
自分は、罪を償うべく、果てしなく続く苦しみの中生きて生きて死んで死んで
どこか見知らぬ世界でそれを繰り返し続けた
ある時は飢えて死に、ある時は体中が腐る病で死に、ある時は攫われ凌辱の果てに死に、ある時は魔女として火炙られ、ずっと、ずっと、永遠に続くように苦しみを繰り返し続け、それが数億と繰り返された記憶が一気に頭に流れ込む
痛い、苦しい、死にたくない
繰り返されるうちに記憶は薄れ、もはや自分が何者だったかも思い出せないほど
やがてたどり着いた
それはあの時の自分で、義父に殴られ、蹴られ、顔面がはれ上がるほど拳で滅多打ちにされる毎日
ヤダ、思い出したくない
もうあそこに戻りたくない
逃げなきゃ、あそこから
深夜家から飛び出し、青になった横断歩道を渡ろうとしたその時
信号無視をした車に撥ね飛ばされた
体のいたるところが捻じ曲がって内臓が破裂するのを感じる
痛みは一瞬で、意識はすぐに消えた
フフフ、戻って来た
やっと、やっとまた二人一緒に
どこからか声が聞こえた
そこで、目が覚めた
あたりを見渡すと、カンテラに照らされた薄暗い部屋に、自分をのぞき込む三人の影
ぼやけた視界がやがて戻り、三人の顔が見えた
一人は無精ひげの優しそうな男、もう一人は鎧姿の美少年、もう一人はメイド服を着た女性
「目が覚めたみたいだね」
無精ひげの男が話しかけてきた
彼はそっと手を伸ばしてくる
「ひぅっ」
驚いて身をすくめる
「あ、ごめんごめん、熱が下がったか調べようと思っただけなんだ」
「何やってるんですか師匠、怖がらせちゃだめですよ」
美少年が師匠と呼んだ男を叱る
師匠はシュンとした
その表情が可笑しく、少し笑った
「お、笑ったね」
「じゃぁまず自己紹介」
「僕はトロン、こっちはアル、んでこっちがマリーだよ」
それぞれを指さして簡単な自己紹介をした
「それで、君は、何者だい?」
簡単な質問だが、夢の記憶が流れ込んで以来自分でも自分が何者かがわからない
だから、ミシュハにもらった名前を答えた
「ルーナ、私は、ルーナ、です」
だが、それ以上は答えることができなかった
わからない、自分は、誰だろう?