麦わらのなにがしさん(1)
追記する可能性あり。追記した場合は追記とかかく。
「あ、あの!」
「その帽子を返してください」
釣りをしていた同じ顔をふたつ並べたようなおじさんたちから、帽子を返してもらいそれから程なくのこと。
急がないとお母さんに会う時間に間に合わない。わたしは街に降りている最中だった。
急いでその遅れを取り戻さないと。それなのにその途中で麦わら帽子が飛ばされてしまったのだ。
帽子が飛ばされたときは、まったくわたしはなんてだめなやつなんだ、と自分で自分を呪った。
「みみのかたち」もみみのついてる場所もなぜかみんなと違う。それに気がついてから、なんだか恥ずかしくって出来るだけいつも隠しているのだ。みんながたくさんいる街ではこの耳はどうやらちょっと目立つらしい。その点麦わら帽子は耳を隠すにはぴったりの優れものだった。
帽子を深く被り直し、お日様がいっぱい出ている季節に心の中で小さく感謝する。
そもそもこの麦わら帽子はお父さんからもらった大事なものなのだ。
無口なお父さんから「とっておきのプレゼントがある」と、おそとで遊ぶのがすきなわたしに10さいの誕生日にもらった。それ以来ずっと麦わら帽子を大切にしてきたのに。
ずっと被り続けていたので、あたまのところはちょっと穴が空きかけている。
それにしても急いでいたとはいえ油断した隙に、風で飛ばされてしまうなんて神様はきっとイジワルなやつに違いない。
グチグチ考えながら心なし急ぎ足で、目的地である病院にたどり着いた。
最初は病院がなんだかこわかったけど、お母さんがいるから今はちょっと好きになってきた。
通りすがりの人たちからの不思議な視線を感じながら、一目散に目当ての病室に入った。
「あらミーア、汗だくじゃない。それに今日はちょっと遅かったのね。何かあったのかしら?」
「遅くなってごめんね、お母さん。あ!そうだ!さっき同じ顔のしたひとにあったの!」
「それは珍しいものをみたわね。まぁ世の中には同じ顔のひとが3人いるっていうものね。
あ、そうだ。もらった林檎、ちょうど皮を剥いてあるから食べていきなさい」
ずいぶんと大きくなったお腹をさすりながら、お母さんはわたしの手元にリンゴを差し出す。
定位置であるパイプ椅子に座ると同時に、わたしはシャリシャリとウサギのリンゴを平らげていく。
それから川であったことを夢中で話しているとあっという間に面会終了時間になってしまった。
「ミーアちゃん、そろそろ時間ですよ」
看護師さんがわたしに軽くウインクをした。
時間はわかってはいるが、落ち込んで思わず耳が垂れる。
「ミーア、また明日ね」
やっぱり遅れてしまったタイムロスは大きかったようだった。