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『腹黒乙女と12の時代勇者様』〜短編集〜  作者: 朝月 ゆき
〜誕生日編〜
1/1

誕生日小話2/22美月ー前編ー

前編です。

本編を20話までご覧になってからお読みするのをおすすめします。






 「───それでは、これにて深夜の会議を終わりにさせて頂きます」


 風の音、虫の音ひとつしない新月の夜。完全な“闇”の中に静かに響いた男の声に【(カッツェ)】はゆっくりと面を上げた。


 「え……?もう終わり……?」


 「また寝てたのかよ、お前」


 隣から呆れたような声が聞こえた。その声の主は言わずとも分かっている。

 【猫】は灯りひとつない、人をかたどる線さえ飲み込む闇を朧げに映すと、手に持っていた枕を抱きしめた。


 「【(パンテーラ)】……詳細を聞くのは面倒くさいから、五十字以内に会議の内容を要約して……ああ、句読点もカウントして」


 「はぁ!?そんな無茶振り言うなっての」


 「『赤界』の一国“日本”において人間が絶滅した。“黒獣”は、任務1を遂行せよ』」


 果てしない闇の空間の中で【豹】の声を遮ると、その声の主はクスリと笑った。


 「やっと、我々の出番が回って来ましたよ。共に頑張りましょう。【猫】、【豹】」


 「誰がてめぇなんかと頑張るかよ、【(ドラゴン)】」


 吐き捨てた【豹】だったが、次に割り込んできた新しい声にいつもよりも厳しい声で宥められた。


 「【豹】、今回は異世界で動くのだ。それも、“任務”だ。部隊のひとりでも失態を起こしたら今回ばかりはいつものように事は良い方に進まないぞ。お前は感情的に動く傾向が強い。それが俺たちをも危険に晒す。だから今回はお前は勝手に動くな」


 「────っ、分かってる!!けど、【(ルーヴ)】、それなら俺よりもあいつの方がやばいだろ!?」


 苛立ちを孕んだ【豹】の声が投げられたのは──


 「あらあら〜、俺ってばもしかして危険因子扱い?」


 「あったりまえだろ!一番勝手なのはダントツでお前なんだからな、【(コルヴォ)】!!」


 にやにや笑うような気配を醸し出しているのは、闇の中でどこまでも面白そうにしている男【鴉】だ。


 「勝手、というより俺は元々から単独で動いているだけだぜ?だから、今回の件もあまりお前らと協力するつもりはねぇよ。俺は生憎と協力ってのが苦手だからな」


 【鴉】が放った言葉に神経を逆なでされたのは、【豹】だけではなかった。

 四方から伝わってくる殺気に、【鴉】は『こっわ〜い』と肩を窄める。そして、闇の中で見えない椅子に座する四者の内の一人へと、彼らと同じ色の双眸を向けた。


 「───【猫】、お前は他の奴らと違う意味で俺に殺意を剥き出しにしているらしいけど、安心しろ。あの女に不利益をもたらすような事はしねぇよ」


 「…………」


 どうやら見えていなくともバレていたらしい。

 彼の身勝手な行動が“彼女”に害を与えるようなことになるならば、と血の瞳を細め殺気を放っていることが。


 「じゃあ、堅苦しい“会議”も終わったことだし、俺はとんずらするわ。じゃあな」


 「おいっ!?」


 ばいばーい、と呑気な声を発した男に静止の声は届かず、その場に沈黙が訪れる。だが、それは彼と入れ違いに現れた彼女によってかき消された。


 「ふふ。皆、会議お疲れ様」


 リン、と鈴音の様な声。その声の主はこの場に居合わせている全員が跪かずにはいられない女性───


 「ミレリア様……っ」


 真っ先にその名を呼んだのは、これまでずっと気怠げにしていた【猫】だった。

 ガタッ、と闇の中に紛れた椅子から立ち上がる音を立てると、彼はその場に片膝をつき、首を垂れる。それに他の三者が続く。

 すると、クスリと笑う声が聞こえ、次の瞬間には空間を黒く塗りつぶしていた闇を霧散させられていた。代わりに視界を占めたのは────


 「闇もいいけどやっぱり……花が一番ね」


 鮮やかに咲き誇る花々。




 ***




 「我々を庭園に転移させたのですね?」


 「一瞬だとは……さすがだな。ミレリア」


 【竜】と【狼】の感嘆の声に微笑みを浮かべたミレリアは腰上までのばした茶色のストレートの髪を揺らしながらすでに他の者達が立ち上がっている中で唯一首を垂れたままの【猫】の所に歩み寄る。


 「ごめん、皆。ちょっと【猫】と話したいことがあるから先にここから出てくれる?」


 「え……?ああ、いいぞ」


 「じゃあ【猫】、お前後でちゃんと俺たちと合流しろよ」


 「…………」


 「こら、【猫】。返事」


 「………分かった」


 ミレリアの注意に渋々【猫】が頷くと部屋から出ようとする三人に小声で返事をした。そんな彼にミレリアが微笑んでいると、すでに他の三人は退室していた。ミレリアに立ってと促され、慌てて立ち上がると見上げる位置にある彼女の碧の双眸を見つめた。


 「………ミレリア様、話って何ですか?」


 「ちょっとね………“みー君”」


 「………!!」


 鼓動が跳ねた。同時に頬がわずかに赤くなる。そんな【猫】────美月(みつき)に、ミレリアの笑みがさらに深くなると彼女が懐から何かを取り出した。


 「みー君、今日は何の日か分かってる?」


 「え……?」


 目を丸めた美月にミレリアは、あ、やっぱり覚えてないと半目になる。そんな彼女に戸惑っていると、彼女が足元にひろがる花々の前にしゃがみ込み、青色の花に手を伸ばした。


 「今日はね、私とみー君が初めて出会った日なんだよ」


 「………え?」


 彼女が淡く微笑みながら何かを懐かしむかの様に目を細めた。

 そんな彼女に美月はしだいに過去を思い出していった────




 ***




 ───八年前、ボクには生きる意味がなかった。

 親や兄弟がいるのか、自分がどの国のどこにいるのか、自分が何をしたいのか。

 何も覚えていなかった。

 何も知らなかった。

 何も考えようとしなかった。


 当時のボクは、“とりあえず”生きていただけだった。




 



 『ギュワアアアアアッ!!』


 耳を劈く悲鳴が上がった。

 悲鳴を上げ、苦痛に悶える獣の腹の上に乗ったボクは手にしていた得物でとどめを刺すべく手をそれを振り落とした。


 赤い血が頬に付着するのも気にせず、ボクの背丈の三倍はある息絶えた獣を引きずっていく。

 森の木々から差し込む陽光に目が痛くなるけど、この天気ならちゃんと火を起こせる。ぼんやりとそう考えていると、住処としている洞窟に着いた。───そこまではよかった。けど……


 「なに……あれ」


 洞窟の入り口前に、なぜか数え切れないくらいの様々な色の花が置かれていた。

 ボクがここを出るときにはなかったはずだけど……と、特に感銘を受ける事もなく花々に近づくと、気づいた。


 「なに、これ……」


 どこを見渡しても花、花、花。小さなものから大きなものまである。明らかに人の手によるものだよね。

 ぼんやりと訝しみながら住み慣れた洞窟の中へと入る。けど───


 「…………」


 カラフル。

 そう、カラフルだった。


 洞窟の中までもが……


 「ここも花で埋め尽くされてるって……誰かが入って来たの?」


 食料を狩りに行く際にしか殆ど留守にはしない。なら、ボクが獣狩りに行っている間に誰かが侵入したってことだよね。一体……誰が?ここら辺に人が住んでいる形跡はない。じゃあ、誰かがこの森にやって来たのかな……。


 そう思索していると────


 「あら?あなたは誰かしら」


 「………!」


 背後から聞こえた女の人の声に振り返る。そこにいたのは、風になびく長いストレートの茶色の髪と優しく細められた碧の目が瞳があった。

 そして何故か、目を見開くボクを現れた女の人が指差してきた。


 「───やっと見つけた!最後の“獣”!!」


 は………?




 


 ───これが、ボクと彼女の出会い。

 変わり者で不思議な彼女との出会い。

 この時、後に彼女がボクの何よりも大切な人になるなんて思いもしていなかった。

明日、後編をあげます。

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