雨の日とキミとボク
今日の君は元気がない。いつもと同じ散歩コースを、いつもと違うスピードで、とぼとぼと歩いてる。
君の向こうには曇り空。
君の顔も泣き出しそう。
「ママのお茶碗、割っちゃったんだ」
とうとう足を止めた君が、ぽつりぽつりと呟いた。
「パパとお揃いの、お花の絵が描いてあるやつ。ママのお気に入りの……」
そっと足に擦り寄ると、君は顔をくしゃりと歪めた。
「ママ、怒るよね? 許してくれるかなぁ?」
ぽつりぽつりと僕の頭に雨が降る。
君は僕の肩に顔を埋めて、わあわあわあと泣き出した。
そしたら空まで泣き出して、ざあざあざあと雨が降る。
大丈夫、大丈夫と僕がなだめても、君は顔を上げずに、しくしくしくしく泣いている。
雨と一緒に泣いている。
僕はそっと手を引いて、君を家まで連れてった。
家に着くと、ママがびっくりした顔をして、急いでタオルを持ってきた。
空は泣くのをやめたのに、君はわあわあ泣いている。
大丈夫、大丈夫。
だって僕は知っている。
君が生まれた時、ママがどんなに喜んだか。
白い布に包まれた、小さな小さな君を抱いて、私はママになったのよって、お日様みたいに笑ったんだ。
わあわあ泣いてる君を見て、ママは困ったように笑ったまま、僕の足を拭いてくれた。
「早く謝ればいいのにね」
僕の頭を撫でながら、ママはこっそり呟いた。
君の初めてのおつかいは、僕のためのドッグフード。
もちろん僕が手を引いて、ケーキ屋さんに寄り道しそうになる君を、ペットショップまで連れてった。
よたよた歩く君を引っ張った、あの日の力はもう出ない。
僕の体は少しずつ、少しずつ鈍くなっている。
あと何回、僕は君の手を引いてあげられるだろう――。
君が大人になったとき、雨の中を濡れながら、一緒に歩いたこと、覚えていてくれるかなあ。
窓の外にはきらきら光るお日様が、にっこりと笑ってた。
「ママ、ごめんなさい。あのね……」
玄関から聞こえるのは、まだぐずぐず泣いている君の声。
台所からは、甘い匂い。
君の大好きなアップルパイ。
もうすぐ君もお日様みたく、にっこりにっこり笑うのだろう。