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魔王さま、村娘からの献上品を喰らう

 村長の家に戻る道すがら、オレたちは村のことについて話した。

 それは会話と呼べるものでもなかったかもしれない。

 アマレットが話す「隣のアンネおばさんは噂好き」とか「広場に住み着いている黒猫のミャーが出産した」とかいう情報に対して、オレはただ相づちを打つだけだったから。


 彼女の話す内容からは、この村が本当に平和な村だ、ということが分かった。

 それだけに、村のすぐ北にある森に、魔獣が現れるようになった、というのが気にかかる。


 ある土地の魔素を取り込んで魔獣となった動物は、基本的にその土地から離れることがない。

 別の土地の魔素は、育った土地の魔素と流れが異なるため、気分が落ち着かないらしい。

 

 手紙では、魔獣は数年前から住み着いているという風に書かれていた。

 住み着いているということはヨソから来た魔獣ではない。

 そうなると、誰かが動物の子供を連れてきて森で育てた、という可能性もある。


「アマレット、村の北にある森だが、誰か住んでいる者がいたりしないか?」


 オレがそう聞くとアマレットは首をかしげながら考え始めた。


「ごめんなさい、分からないです。おじいちゃんなら何か知っているかもしれないんですけど……」


「いや、心当たりがないならいいんだ」


 申し訳なさそうな彼女に対して、オレは慌ててしまう。


 同年代の娘とは話したことがないので、新鮮な気持ちではあるのだが、うまく会話できていない気がする。

 こんな調子では、コイツに村人との仲を取り持ってもらうのは難しいかもしれない。


 オレは内心落胆しながらも、顔には出さないようにして、再び始まったアマレットの話を聞き続けた。



 やがてオレたちは村長の家についた。

 途中で村人に出会わなかったのは良かった。

 魔王が、村でただ一人の子どもと一緒にいるところを見られたら、どんな誤解をされるか分からない。


 家の中に入ると、アマレットがイスを引いて言った。


「どうぞここに座ってください。今、飲み物とお菓子を持ってきますね」


「話を聞きに来ただけだから、気を遣わなくてもいいぞ」


 オレはそう言ったのだが、アマレットはぶんぶんと首を横に振った。


「そんな訳にはいきませんよ! わざわざ魔王様がいらっしゃったのに、おもてなしもしなかったらおじいちゃんに怒られます」


 それから少し声のトーンを落として、窺うように言った。


「それに昨日手紙を書いた後に、もしかしたら魔王さまが来てくださるかもしれないって思って、お菓子を焼いてみたんです。お口に合うかは分かりませんけど食べてみてくれませんか?」


 上目遣いでアマレットに見られてオレはたじろぐ。

 断る理由もないが……。


「ごめんなさい、やっぱりこんな田舎の食べ物なんて、魔族の方のお口に合わないし失礼ですよね」


 オレが返事をできないでいると、彼女はすぐに結論付けてうなだれた。

 一瞬うろたえてしまったオレも悪いのかもしれないが、コイツも結論を出すのが早すぎると思う。


 普段からこんな感じなら、これで失敗もすることも多いんじゃないか?


 オレはそんなふうに考えた。

 が、うつむいてしまった彼女を見ると、なんとなく罪悪感のようなものが湧き上がってくる。

 オレはそれに背中を押されて口を開く。


「魔族が食べるものも、お前たちとそう変わらないはずだ。むしろ大きな街で暮らす人族の貴族どもよりは、この村の連中がとる食事に近いと思う」


「そうなんですか?」


 ぱっと顔を上げた彼女の目には、かすかな期待が混ざっていた。

 オレはその期待に応えてやるべきだろう。


「ああ、だからせっかくだし、お前が焼いた菓子を貰えるか?」

「はいっ!」


 嬉しそうな顔で奥へと駆け出していったアマレットを見ながら、オレはゆっくりと息を吐きだした。


 そう、オレはただ、この村で食べられている物がどういった物なのか気になっただけだ。

 慣れないことをしたせいか、小腹も空いているし丁度いい。

 別に彼女の上目遣いとか、悲しそうな表情に負けたわけではない……はずだ。


 そんな言い訳を考えていると、アマレットが飲み物と菓子を持って戻ってきた。


「どうぞ、魔王さま。今回のは結構自信作なんですよ!」


 底抜けに明るい声で言って、アマレットは白い歯を見せる。


 オレはテーブルに置かれたクッキーのような焼き菓子を、一つつまんで口に運んだ。

 そいつを歯で噛むと、ザクッとした感触の後、素朴だが優しい甘さが口の中に広がった。

 程よい食感、程よい甘さだ。


「うん、悪くないぞ」


 オレはもう一つ口に放り込んで、彼女にそう言った。

 普段、アビスのまずい飯を食っているオレにとっては、なかなかに甘美なものだ。

 大魔王城にいた時食べていた菓子と比べても、そう劣ってはいない。


「そうだ、帰りに少し包んでもらえるか? アビスにも食わせてやりたい。甘いモノが好きだからアイツも喜ぶだろう」

 と言うと、彼女は嬉しそうに言った。


「あっ、あのメガネで背の高いお付きの方ですね! 分かりました」


「頼む。じゃあ、もてなしてもらったところで、森の話を聞かせてもらおう」


「はいっ、上手にお話できるかわかりませんけど……」

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