魔王さま、奇妙な小屋を見つける
森の入り口には、オレの他に、アビスとソラヤ、飛竜のテンペストが集まっている。
オレはメンバーを見回して言った。
「よし、ではここにいる三人と一匹で、北の森に住むイノシシを狩っていく」
それから、魔獣狩りのために準備しておいたものを取り出した。
「ソラヤ、魔石と袋を渡しておく。狩ったイノシシはすぐに魔石へ収納してくれ。空の魔石と混ざらないよう気をつけろよ」
「分かりました」
ソラヤに魔石の入った袋と、使用した魔石を入れる袋を手渡した。
袋には魔石がパンパンに入っていて、ずっしりと重みがある。
だがソラヤならイノシシを狩る妨げにはならないだろう。
「一応アビスにも魔石を渡しておくよ。お前には森の前で村を守ってもらうが、魔獣が村に出てこないとも限らないからな」
オレはそう言って、アビスへも魔石を手渡した。
「オレはテンペストとともに、恵みの木より奥を調査する。アビスはここで待機。ソラヤは森の外周を回ってくれ。今日のところはソラヤが一番大変だと思うが、よろしく頼む」
「承知しました」「はい!」
「よし、では始めよう」
と言うと、ソラヤはすぐに駆け出していった。
それを見送ってから、オレはテンペストの背中へと飛び乗った。
「テンペスト、オレたちも行こう!」
テンペストは、鳴き声でオレの合図に応えた後、森の中へと進んでいった。
森の中は、相変わらず魔素が濃く、静かだった。
魔素を食べて生きる飛竜にとっては、最高の環境だろう。
テンペストは進みながら、時々口を開いて魔素を吸収しているようだ。
「テンペスト、結界に触れないよう気をつけてくれ。その結界は、人間以外の動物を通さないようにしてあるんだ。そのうちお前が触れてもいいように結界を張り直すつもりだが」
背中に乗ったまま話しかけると、テンペストは首をこちらに向けて頷いた。
竜族の中でも飛竜の知能は飛び抜けて高く、人間の言葉も難なく理解する。
そういえば、アマレットが『リュー』と名付けた幼い飛竜ですら、オレたちの会話を理解していたフシがある。
「やっぱり村の近くにはイノシシはいないのか? テンペスト、お前は見つけられたか?」
ここまではイノシシが見当たらなかったので、テンペストにも確認してみる。
テンペストは立ち止まってキョロキョロと四方を確認していたが、やがてこちらを向いて首を横に振った。
「そうか、分かった。ならまずは恵みの木があるところまで行こう。まずは木の周辺にいる魔獣を排除したい。スピードを上げてくれ」
「ガー!」
テンペストは返事をして走りだす。
平均的な飛竜よりも、身体の大きいテンペストだが、軽やかに、器用に木を避けて進んでいく。
大型の魔獣が移動するときによくあるような振動も、ほとんど起こっていない。
テンペストの洗練された身のこなしに、オレはニヤリとする。
やはりコイツを選んだのは正解だったな。
背に乗せているオレのことも気遣って走っているし、いずれは村人を乗せてもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、もう恵みの木が見えてきた。
「オレは恵みの木の実を採ってくるよ。その間、周囲を適当に警戒していてくれ」
オレはテンペストの背中から飛び降りて、恵みの木へと近づいた。
アマレットの話では、エンリの他にも、魔素不足で体調が悪くなった者がいたようだ。
今は良くなっているようだが、魔素不足予備軍のために、恵みの木の実を渡しておいても悪いことはないだろう。
ある程度、木の実を集めたところでオレは満足して頷く。
アマレットではないが、他人のために働くというのも悪くない気分だ。
「よし、こんなものだな……テンペスト! もういいぞ、戻ってこい!」
「ガー!」
返事をしたテンペストが戻ってくる。
その口には数匹の魔獣が咥えられていた。
「おおっ、優秀だな。すでに魔獣を狩っていたのか」
「ガー!」
得意そうに返事をするテンペスト。
オレはその頭を撫でながら言った。
「よしよし、村に戻ったらオレの魔力をやるよ」
テンペストが狩ったイノシシを、血抜きなどの処理をして魔石へ収納していく。
それを終えたオレは、テンペストに指示を出した。
「テンペスト、お前はこの木のあたりに現れたイノシシを狩っていってくれ。アビスという保険はあるが、この木より村側にはイノシシを近づけないように頼むよ」
「ガー」
そしてオレは、森の奥の様子を探るために、恵みの木よりも先へと歩いていった。
「なんだ、これは?」
オレは、ある小屋を前にして、立ち尽くしていた。
今回の魔獣騒ぎには帝国が関わっている可能性があると、兄上やアビスから聞いていた。
だから、森には何かあるかもしれないと覚悟していたのだが、これは予想外だ。
目の前には、この幻想的な森に相応しくない、派手なペイントがされた小屋が建っていたのだ。
この静かな森の中にあっては、この小屋は目立って仕方がない。
小屋を見ていると目がチカチカする。
「悪趣味な色使いだな。目をつぶって適当な色を塗ったとしても、もっとマシな外観になるぞ」
明らかに怪しい建物を前に、思考が停止していたオレだったが、中を確認するために戸へ手をかけた。
オレはゆっくりと戸を開く。
ギギギと嫌な音を立てて、中の様子が見えた。
外の前衛的なペイントとは違い、中は小綺麗に整っていた。
ベッド、テーブル、イスが1つずつあり、奥の棚には試験管と魔石が並べられている。
どうやらこの小屋は魔術師のすみかだったようだ。
床の埃の積もり具合から考えると、ここを引き払って随分と経っているようだが。
「ふーむ、この小屋の持ち主が魔獣を育てた犯人なのか?」
オレは奥の棚まで歩いて行き、魔石を1つずつ摘み上げて調べてみた。
だが何かが収納されているわけでもなく、何の変哲もない、ただの魔石だった。
「何かを研究していたなら、その情報を残していく魔術師はいないだろうから、期待はしていなかったけどな」
オレはため息を付いて、魔石を棚に戻した。
部屋を見渡しても、この棚と家具の他には何もなかった。
オレは、この小屋にいてもこれ以上の情報を得られないだろうと考えて、テンペストのところへ戻ることにした。
戻ると、結界の直ぐ側に巨大なイノシシの山が出来上がっていた。
ソイツらを狩ったテンペストが側にいて、自慢げにこちらを向く。
「ご苦労、テンペスト。お前のおかげで今日のノルマを超えたな。村へ……っと、お前は村まで入れないんだった。悪いがしばらくはこの木周辺で寝てもらうことになる。というわけで褒美の魔力だ」
と言って手を差し出したのだが、テンペストは首を横に振る。
「どうした? さっきも言ったがお前は村には入れないと……あ、もしかして村まで運んでくれるのか?」
すると、首肯して鳴くテンペスト。
なかなかかわいい事を考えるヤツだ。
「なら、好意に甘えるか」
オレはそう言ってテンペストの背中によじ登る。
そして、オレを乗せたテンペストは、イシロ村へ向かって走り出した。




