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村娘、入城

 私たちが馬車に乗り込むのを確認してダンさんは言います。


「オレは南門に用があるからここでお別れだな。またこの街に来ることがあれば北門に顔を出してくれ」


「ああ、また北門から入ると思うからよろしく」

 と、魔王さまが言うとダンさんは笑いました。


「ハハ、物好きな奴だ。ま、元気でな」


 馬車が動き出して、私はダンさんに手を振ります。


「ダンさん、ありがとうございました! さようなら!」


 ダンさんはしばらく私たちを見送っていましたが、やがて背を向けて門へと歩いて行きました。




 お城へ向かう馬車の中、私は魔王さまに話しかけました。

「ミシャにはこんなに人がいるなんて思ってもいませんでした。それに魔族の方も見かけますし」


「ああ、オレもここまでとは思っていなかったよ。人族と魔族の関係も良好なようだし、どういった政策なのかぜひ兄上に聞いてみたいな」


 魔王さまのお兄さま!

 きっと魔王さまに似て素敵な方に違いありません!

 お会いするのが楽しみです。

 そして、お城の中に入るのも楽しみです。

 ですけど…


「魔王さま、私もお城の中に入っていいんでしょうか?」


 不安になって聞くと、魔王さまは目を丸くして言います。


「どうしたんだ? 手放しで喜ぶかと思ったんだが、怖気づいたか?」


「もちろん嬉しいんですけど。本当に私みたいな普通の村娘が入っていいのかなって」


 と言うと、魔王さまは笑い出してしまいます。


「ハハハ! 『普通の村娘』か、そりゃいいな」


「もう、どうして笑うんですか?」


「や、村の人間の殆どが魔族を恐れる中、お前はなんとも思わず手紙をよこしてきたんだ。少なくとも『普通の村娘』ではないよ」


「むむっ、そういうことを言ってるんじゃないです! 普通、お城の中には偉い人しか入れないじゃないですか。昔、おじいちゃんが王族の方に依頼を受けたときも、お城ではなくて別の場所でお会いしたって言ってました」


「それは、村長の若いころだろ? 旧エル帝国の王族が住んでいた城には、なかなか入れないだろうが、ここの城は王族のすみかでもないしな」


「そうなんですか?」


「ああ、むしろ砦といったほうが近いな。そうだな……今回お前がここに来れたり、城に入れたりできるのはオレとイシロ村に貢献した褒美だとでも思えばいいさ。お前の手紙がなかったら、エンリは良くならなかったかもしれないし、それにオレは森にいる魔獣程度なら大したことはないと考えていたんだが、蓋を開けてみれば、数えきれないほどの魔獣が住み着いていたんだ。これを放置していて、なにか起こった時のことなど想像したくもない。なので、お前には礼を言いたいくらいだ」


 魔王さまはそんなふうにおっしゃいますが、エンリおばあちゃんを治したのも、魔獣を倒して調査したりしたのも魔王さまとアビスさんです。

 私なんて手紙を出しただけで何もしていません。


 私が戸惑っているのを見て、魔王さまは言いました。


「ハハ、オレはそう思うっていうだけでお前がどう感じるかは別だよな。でもそんな風に考えたところで城の外で待っているって選択肢はないんだろう?」


「はいっ、絶対中に入ります!」


 それは決定事項なんです!

 手を上げて力強く宣言すると、魔王さまはまた笑うのでした。




 お城が見えてきました。

 ついに中へ入れるんですね!

 ちょっとドキドキしてきました。


 馬車はお城の前の広場に止まり、扉が開きました。

 外にはアガリアさんとソラヤさん、それに幾人かの制服の女性が待っていました。


「先に降りるといい」


 魔王さまに促されて外に出ようとすると、アガリアさんが私に手を差し伸べました。


「アマレット様、お手をどうぞ。足元にご注意くださいませ」


 まるでお話に出てくる騎士様のようなアガリアさんにエスコートされ、私は馬車から降りました。

 すると、すぐに制服の女性が近づいて言います。


「お荷物をお預かりいたします」


「は、はいっ、よろしくお願いします」


 なんだかすごく偉い人みたいな扱いです!

 あわあわしている私を見て、笑いながら魔王さまが馬車から降りてきます。


「出迎えご苦労」


 魔王さまがそう言うとアガリアさんと制服の女の人達が静かに頭を下げました。

 ソラヤさんも慌ててそれにならいます。


「お待ちしておりました。ジン様、アマレット様」

 と、アガリアさん。魔王さまは頷きます。


「ソラヤから話は聞いたか?」


「はい、二週間と言わず一ヶ月でも二ヶ月でもこき使いください。ご希望でしたら、そのままずっとそちらでお使いいただいても構いません」


 それを聞いたソラヤさんはそおっと手を上げました。


「あの、ずっとというのはちょっと……ひぇえ!? なんでもございません!」


 アガリアさんがすっと視線を向けると、ソラヤさんは縮み上がってしまいましたよ。

 よっぽどアガリアさんが怖いんでしょうね。


 そんなソラヤさんのことを見ていた魔王さま。

 まるでご自分にツライことがあったかのように、悲しい目をされています。

 魔王さまはかぶりを振り、アガリアさんの方へ顔を向けました。


「ちょっと早く着いたが、会議はまだ終わってないんだろう?」


「はい。ですが主要な議題については片付いておりますのでもう間もなくかと。ジン様、本日はこちらで宿泊されますか?」


「そのつもりだ。ああ、部屋は別で頼むぞ」


「承りました。ではご案内いたします」


 私たちはお城の門を潜ります。


 まず私はお城のホールの広さに驚きました。

 イシロ村の広場くらいはありそうです。

 入り口から階段に向かってカーペットが続いていて、それを踏むとフワフワします。

 あまりにフワフワなので、それを踏んでいると悪いことをしている気分になりました。

 ホールの壁、柱、天井には豪華な飾りがたくさんついていて、見る角度によってキラキラと輝きます。


 私が口を開けたまま、高い天井を眺めていると、アガリアさんの声が聞こえます。


「アマレット様、こちらです」


 いつの間にか、皆さんはホールの先の階段を登り始めていました。

 呼ばれた私は慌てて皆さんのところへ駆け寄りました。


「ごめんなさい」


 私が謝ると魔王さまが言いました。


「いや、仕方ない。オレもびっくりしたよ。城内がこれほど華美だとは思っていなかった」


 その言葉にアガリアさんが頷いて言いました。


「ええ、実は私もそうでした。大魔王城はこれ程装飾で飾り立てていませんからね。あそこは城と言うよりも迷宮でしょう」


「ハハッ、違いない。オレが幼い頃、自分の部屋にたどり着けなくなったことが何度もあった」


 魔王さまは、そんなに大変なところに住んでいらしたんですね!

 迷子になった魔王さまはどうしたんでしょう?

 私は尋ねます。


「そういう時はどうしたんですか?」


「大抵ヴィリ兄が迎えに来てくれたよ。あの頃は兄弟全員が大魔王城に揃っていた頃だったな」


 魔王さまはその頃のエピソードをいくつか話してくださいました。


 魔王さまが最も尊敬する長兄ヴィリ様。

 兄弟の中では一番魔族らしい性格の次兄リーグ様。

 腕試しが好きで豪快な三兄グラッジ様。


 この三方は魔王さまとは異母兄弟だけど、よく面倒を見てくれたとのことでした。

 魔王さまのご兄弟はみんな仲が良かったようです。


 そして魔王さまにはお姉さまもいらっしゃるようです。


「シャンナ姉はとにかく何にでも興味を持つんだ。特に新しい物だ。リーグ兄が考えだした魔術理論を使って、よく実験をしていたな。結構無茶なことをやるものだから、よく実験台にされていたグラッジ兄が愚痴っていたよ。自分の部屋を爆破されたのは一度や二度じゃないって」


 アガリアさんが言います。


「あの方は今、旅に出られているようですね」


「そうなんだよ、魔力値ならヴィリ兄にも次ぐほど高いのに、魔王になることをずっと拒んでいるんだよ。奔放な人だ。今はどこにいることやら」


 魔王さまのご兄弟はみんな個性的な方ばかりのようです。


 その中でも、魔王さまが一番尊敬するという、長兄のヴィリ様にこれから会えるのだから楽しみです。

 魔王さまもなんだか嬉しそうな顔をされていますね!

次回から魔王視点となります。

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