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村娘、正義の味方にビックリする

 占いを終えてメイン通りに戻ると、魔王さまとダンさんが待っていました。慌てて二人のもとに駆け寄ります。


「ごめんなさい、お待たせしました」


 魔王さまは首を振って言います。


「そんなに待ってないよ。で、占ってもらってどうだったんだ?」

「一年以内に両親に会えるそうです!」


「良かったじゃないか」

「はい! あ、あと、イシロ村に住人が増えるって言われました」

「それはオレとしても嬉しいな。若い奴だといいんだが」


 私たちは再び、南門に向かって歩き始めました。


「もうひとつなんだか難しいことを言われたんですけどよく分かりませんでした。私自身のことを知るとかなんとかって」


「ふーん、まあ占いだからな。幅広く解釈できるように言っておけば当たりやすいしな。ま、いい結果で良かったじゃないか」


「悪いこともあるみたいなんですけど、いいことだけ教えてもらいました!」


「悪い結果も聞いておけば予防できたかもしれないのに」


「きっと大丈夫ですよ〜、魔王さまがいてくれたら悪いことも逃げちゃいます」


 すると魔王さまは渋い表情で私を見ました。


「それは褒めているつもりなのか?」

「もちろんですよ!」


 ダンさんは私たちを見ながらニヤニヤとしています。


「嬢ちゃんに期待されているみたいじゃないか。こりゃ魔王さまも頑張らにゃイカンな」


「ム、もちろんだ。イシロ村はオレの唯一の領地だからな。そこに住む者の安全は必ず守る」


 魔王さまは真面目な顔で宣言します。

 キリッとした表情が格好いいですね!


 私が尊敬のまなざしで見ているのに気づいた魔王さまは、わざとらしく咳払いをするのでした。


「……ところでダン、冒険者ギルドのあたりからオレたちをつけているヤツがいるようだが、アンタの知り合いか?」


 南門が見えてきた頃、魔王さまがダンさんに言いました。


「気付いていたのか。確かにオレの知り合いではあるんだが……」


「なんだ、なら要件を聞いてやってくれ。コソコソされるとコチラの居心地が悪くなる」


「いいのか? なら呼ぶが……」


 二人は立ち止まると同時に振り返りました。

 その視線の先には見覚えのある顔が見えます。


「なんだ、あいつか」

「おい、ソラヤ! 魔王さまに用があるんだろ! こっちにこい」


 門で見た赤髪の兵士さんです。

 ソラヤさんというのですね。

 そのソラヤさんは見つかってしまったことに驚いていましたが、やがてソロリソロリとこちらに向かってやってきました。


「オレに用があったのか?」


 魔王さまが言うと、ソラヤさんはビュンと頭を下げて言いました。


「北門にて魔王ジンさまに無礼を働き、誠に申し訳ございませんでした! どのような罰でもお受けいたします!」


 ソラヤさんは腰を直角に曲げたまま固まってしまいました。

 周りの人たちは何が始まったのかと、足を止めてこちらを見ています。

 魔王さまは頭をかきながら、困ったように言いました。


「そう言われてもな、すでにお前はアガリアから罰を受けているじゃないか」


「確かにヴィリ魔王軍兵士としての失態、それについてはアガリアさんより罰を受けました。ですがジン様やそのお連れ様に迷惑をおかけした分はまだなのです」


 えええ、私もですか!?


「私には迷惑なんてかかってませんよ!」


 魔王さまもウンウンと頷いています。


「だよな、オレも軽い運動をしたと思えば別に……」


「それでは私の気が収まらないのです!!」

「ひゃっ!?」


 ソラヤさんが突然大きな声を出したので、驚いてしまいました。

 周りで見物していた人たちも、あまりの声の大きさに体をのけぞらせています。


「おいおい、ビックリさせてくれるなよ。まるでこっちが悪いみたいじゃないか」


「こ、これは失礼いたしました。ですが……」


 ダンさんはしばらく私たちのやりとりを聞いていましたが、ソラヤさんの肩をたたいて言いました。


「こうしたらどうだ? コイツは二週間の謹慎が決まっているんだ。その間、イシロ村で奉公させたらいいんじゃないか」


「そ、それならば! ぜひよろしくお願いします!」


 と言って、また90度の姿勢で固まるソラヤさん。

 それを見ながら魔王さまは腕を組んで考え始めました。


「ウーム、確かに魔獣の件があるから、来てくれるのは助かるが……金は出せんぞ」

「承知の上です!」

「アマレット、どう思う?」


 と魔王さまは聞きます。

 私は思ったことを言います。


「お給金が出ないのは可哀想ですよ!」


「……いや、そうじゃない。いやいや、そうなんだろうがオレが聞きたいのはだな」


 魔王さまの質問の意図は、イシロ村に魔族が増えると村人がどう感じるか、でした。


「魔王さまのおかげで、村のみなさんも魔族の方を怖がらなくなったので大丈夫ですよ」


 と、言いましたが、魔王さまは半信半疑のご様子です。

 私は大丈夫だと思うのですけど。


 魔王さまは腕組みして考えていますが、その間もソラヤさんは頭を下げたままです。

 辛くないのでしょうか?


 いえ、辛いはずです。

 その証拠に、ソラヤさんの顔には脂汗がにじんでいます。

 その汗が鼻に集まり、ポトリポトリと地面に落ち始めます。


 やがて、上を向きながら考えていた魔王さまがポツリと言いました。


「そうだなあ、来てもらうとするか。ダメなら帰ってもらえばいいんだしな」


 魔王さまがそう言うのを聞くと、ソラヤさんは勢い良く顔を上げました。

 すっごくいい笑顔です。


「ありがとうございます! 誠心誠意、イシロ村のために働きます!」


「わあ、村に魔族の方が増えますね! あ、さっきの占いはこのことを言っていたのでしょうか?」

 と、私が言うと、


「どうだろうな」


 占いとかそういったものを信じていなさそうな魔王さまは、興味がなさそうに言いました。

 それでもいきなり占いが当たったことに私は嬉しくなります。

 ソラヤさんともお友達になれたらいいですね!




 ソラヤさんも私たちに付いて南門まで行くことになりましたけど、なにか会話する間もなく到着してしまいました。

 門の端にさっきの馬車が止まっています。魔王さまはダンさんに向かって言いました。


「ダン、街の説明はなかなか参考になったよ。礼を言う」


「役に立てたんなら何よりだ。それでソラヤの件だが、オレからアガリア殿に言っておいたほうがいいか?」


「アガリアにはどうせ城で会うだろうし、その時にでも聞いてみるよ……いや、いっそのことソラヤも一緒に城へ連れていくか?」


「あ、あの、私もアガリアさんに会わなければダメでしょうか」


 ソラヤさんは恐る恐るといった様子で言いました。


「そのほうがいいだろう。勝手に謹慎を破ったりしたらまた大目玉だぞ。お前がそれでもいいというならあえて止めんが……」


「先に城でお待ちしております!」


 縮み上がったソラヤさんはそう叫んで駆け出しました。


 一緒に乗っていけばいいと思うのですけど……私がつぶやくと魔王さまは笑って、好きにさせてやれ、と言うのでした。

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