町への許可
「あれ、でも、それって変じゃねえ?」
俺はふと思う。
「俺が小さい頃からモモイロの木が身近にあったせいで、こんな体質になったのは、まぁ分かったけど、それならなんでじいちゃんは大丈夫なんだよ?」
そう、モモイロの木がモテ体質の原因であるのならば、このクソじじいだって、俺と同じ迷惑な体質になってないとおかしいのだ。
「うむ、確かにそうじゃな……こういう仮説はどうじゃ?モモイロの木の効果は、乙女相手にしか発現せん。つまり逆にその体質もまた、『少年』にしか、発現しない…というものじゃ」
あ、このじじい、さらっと問題発言をしやがった。
「えっ!えっ!!?ガズン殿、それってつまりフルール殿がいまだにっ!!?」
おいい!!!変態騎士!!!!いきなり元気になってんじゃねえ!!!!!
やっぱ変態だろお前!!
いまだに?!じゃねえよ!!
「うむ。フルールが童「やめろおおおおおおおおお!!!!!!!」貞じゃからじゃろう!!!!」
「やめろっつったろうがクソじじい!!!!どうせ童貞だよ!!仕方ないだろ、山奥で二人で生活してるんだ!!出会いなんてないんだよ!!!!」
「まぁ出会いがあっても、お前が童貞を捨てるのは、お前自身の魅力ではなく体質のおかげなんじゃがのう」
「お前の道楽のせいだろうがああああああああああああ!!!!!」
くそ、結局、俺だけがこの変な体質のおかげで、これから先町に降りることもできない生活ってわけかよ…
今までどおりっちゃあ、今までどおりだが、これ、じいちゃんがいなくなったら俺わりと詰むんじゃないの??
「くそ!せいぜいじいちゃんに長生きしてもらわないと、俺の人生ままならないじゃんか!」
「おぉ、孫に長生きしてね☆おじいちゃん!と言われる喜びよ」
「どこで脳内変換したらそんなポジティブ発言になるんだよ…」
「いやまぁ冗談はともかく、町に降りることはできると思うぞ?」
「えっ?」
じいちゃんはそんな事を言い出した。
「色々とお前の体質を調べたと言うたじゃろうが。まあ完結に言うと、お前の魅了は顔を見られん限りは発動せんということじゃ。なら、顔を完全に隠せばええ」
ほう、顔を隠せば、町に降りることもできるようになるのか…
いやいやいや……
「じいちゃん、そんな怪しいやつ、町に降りても商品すら売ってもらえないだろうし、第一顔を完全に覆ってどうやって歩けって言うんだよ…」
俺のもっともな疑問にも、じいちゃんは何事もないかのように答えた。
「いや、完全に隠せばもちろん最良なのじゃが、例えば口元を何か布で覆うだけでも、かなり軽減できることが分かっておるぞ。例えば、口だけ隠せば3割減、鼻と口で5割減、目まで隠せば8割減、すっぽりと頭全てを覆えば10割減ってところじゃな」
おぉ!!!ナイスだじいちゃん!!!
それなら俺も、なんとか普通の生活が送れそうじゃないか!!!
未来に希望が見えてきて、なんだか活力が沸いてきた。
うわぁ頑張ろう、ビッグになろう。
「しかし、なんとまぁ、驚くような体質ですね。私も貴族の子として様々な奇怪なことを聞いたことがありますが、フルール殿のような体質がこの世に存在するとは…。まぁそのような体質のせいではなく私のこの思いは純粋に愛のなせる「うるせえぞ処女騎士」なあああんっっ!!!?」
さっき俺の恥ずかしい秘密を知ったときに喜んでいた罰だ、変態騎士め。
そう、この体質が乙女にしか発現しないというのなら、この変態騎士ペローナもまた『処女』なのだ。
「わ、わたしは騎士ゆえに、そのように恋愛にうつつを抜かしている暇はなかっただけのことです!!なにも恥ずかしいことではありません!!!むしろ未婚者がそのような性交渉の経験を持っていることが恥ずかしいのです!!!」
うん、お前はいま正しいことを言ってるんだろうけど、お前さっきも今も恋愛にうつつを抜かそうとしてるよね。いやまあ俺の体質のせいだけどさ。
俺はここで、じいちゃんに一つお願いを言ってみる。
「じいちゃん、とりあえず自分の体質のことは分かったよ。これから女に会うような場所に行くときには顔を隠して行くからさ、そろそろ町に降りること、許してくれないか?」
そう、俺は今まで町に降りたことがない(正確には一度しかない)
来年成人だってのに、一般常識もじいちゃんに教えてもらったことでしか知らないし、店で買い物したこともない。
うちで作った商品がどこに卸されているのかも知らない。
少なくとも、じいちゃんが元気なうちに、それらを把握しておかないと、この先色々とまずいだろうということは分かる。
なので、俺は真剣にじいちゃんに頼んでいるのだ。
じいちゃんも俺の真剣味を感じ取ったのだろうか。
「そうじゃな…わしも、お前のことを考えるなら、もっと早くに言うべきだったのかもしれん。わしがおるから大丈夫じゃろうとは思っていたが…うむ、フルールよ。町に降りることを許可しよう。ただし、己の体質のことは、忘れるんじゃあないぞ」
じいちゃんはそう言って、俺に笑いかけた。
よっし!じいちゃんに認めてもらえたんだ。次に商品を卸すときは俺もついて行くぞ!!
それにじいちゃんはこう言ったが、俺はようやく15歳だ。これより前にこんな変態体質のことを聞かされても、きちんと理解し、己を抑制することは難しかった気がする。
今だからこそ、俺も冷静に対処できるのだ。
「それでは、フルール。早速ではあるが、今からペローナ殿を町に送るから、お前も一緒に来るのじゃ」
あっ、そうか。この変態騎士を町に送るんだった。
こんなに早く町に降りる機会が訪れようとは…僥倖だぜ。
「わかったよじいちゃん!おい変態騎士、そういうわけだ、とっとと鎧を着込むなりして、行こうぜ」
俺はペローナにそう言いながら、手ぬぐいを顔に巻く。
町に行くのだから、顔全体とはいかないが、口から鼻までは隠すのがいいだろう。
すると途端、ペローナの気配が変化したのが分かった。
「おい、変態騎士?」
「ええ、フルール殿、参りましょう。準備はできております。傷の手当ばかりか、前領主様とそのお孫様に道案内までをさせてしまい、申し訳ありません」
え…誰こいつ…
「フルール殿?なにか…?」
「いや、いきなり言動がおかしくなったから・・・」
ついストレートに発言してしまう素直な俺。
「ふふ、それを仰るなら、今までの私が少しばかりおかしくなっていたみたいですよ。ガズン殿はフルール殿の体質のせいだと言われましたが、先ほどまでの私はそれを認めようとする気すらありませんでした。しかし今、実際にフルール殿を見ても、先ほどまでの情熱というか、湧き上がる気持ちが存在しないのです…少し寂しいですがね」
そういってフルールに対し、哀愁の表情を見せた。
そっか。さっきまでのこいつは、俺の体質に魅せられた云わば偽りのペローナだったんだ。
いまの落ち着いた立ち振舞いのペローナこそが、本当の姿ってことか。
なるほど、騎士として様になっているように見える。
立ち姿には隙がなく、礼節に則った仕草はまさに王国に仕える騎士、話に聞くそのものだ。
「じいちゃん曰く、これで半分くらいは抑えられてるらしいけど、いきなりずいぶんと効果が薄れてるんじゃねえの?これなら町に降りても、全然大丈夫そうだな」
俺は軽く考え、じいちゃんにそう言った。
しかし、じいちゃんはそれに反論するように言った。
「いや、以前に試したときは、ここまで冷静になるようなものではなかったがのう。これは効果が薄いというよりも、ペローナ殿が無理やり抑え込んでおるような感じがするが?」
なに?
そうなのか?
俺はもう一度ペローナを見る。
うーん、分からん。
俺には普通に見えるが…
「ガズン殿の仰るとおりです。フルール殿、先ほどは少しばかり強がりましたが、今もフルール殿への気持ちが体の中に渦巻いております。これが平時であったなら、私ももう少しばかり、その、情熱的になっていたやもしれません」
そう言ってペローナは、顔を赤くする。
なるほど、普通であれば体質のせいではっちゃけてしまうところを、こいつは気合で抑え付けているのか。騎士ってのはすげえもんだな。
ただ、そんなこいつでもあんな突飛な行動を取ってしまう俺の魅了って、ひょっとしなくてもかなりヤバイものなんじゃないですか??
「ガズン殿、フルール殿、あらためて宜しくお願い致します」
「うむ。しかと承りましょう」
「気にすんな、俺が町に行けるのも、ある意味あんたのお陰だ。ありがとな」
俺は軽く礼を言うと、町に向かって歩き出した。