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求婚


 結婚を前提にお付き合いしてほしい。

 そんな言葉を発したのは目の前の女騎士である。

 

 フルールは知らないが、このアーリオ王国において騎士と名乗ることが許される人間は、決して多くはない。

 そもそも騎士とは、古くは初代アーリオ国王が自らを筆頭に設立した軍団を端を発する。

 その初代団長であったアーリオ国王が好んで着た鎧こそが、白銀の甲冑なのである。

 

 時代は流れ現在でも、時代のアーリオ国王のみが騎士を任命することが可能であり、騎士に任命されるということは栄誉と同時に、大きな責任も伴う。 


 そんな栄誉ある騎士に若くして任命されたであろう人間を、ガズンはアホの子を見る目で一瞬見るも、すぐに動揺を抑えるように女騎士に話しかける。


「き、騎士様…お付き合いとは?突然何を…はっ!まさか、傷口からなにか悪いものが入ったのでは!?」

 じいちゃんが慌てて矢傷を見ようと女騎士に近寄る。


 「あの、わわゎ、私は生まれは商業都市クルトンで、実家は子爵家をしている、います。それから、あの、私は、第三王女様お付の騎士で、わりと人望もあるほうだと思う、います。それからそれから、趣味は剣術…いや!料理!!料理が趣味です!!!!得意料理は玉ねぎスープです!!!!!」


 聞いちゃいねぇ。なんだこの人。

 見ろよ。

 山で熊に出会ってもピクリとも動じないうちのじいちゃんが、完全に気圧されてるじゃん。


 てか、じいちゃん、完全に引いちゃってんじゃん!!!

 


 「あの、お返事を…できればこの場で聞かせてもらえないでしょうか……」

 不気味な女騎士は、手をもじもじさせて頬を赤らめながらそう聞いてきた。


 「あんた若いのに、こんな枯れ切った老木みたいなじじいが趣味とは変わってるね。じいちゃん、おめでとう。俺は家を出て行くから、二人で達者で暮らしてくれよな。じゃあ」

 そう言いながら俺は町へ下り「待てええええええええええええ!!!」

 ちっ!!



 「どう考えてもわしじゃないじゃろう!!騎士様のあの熱い熱視線をみろ!!!フルール!!!老いたわしだけ置いて行くなああああ!!!!」


 うるさいな、大きい声を出すなよ。入れ歯が飛ぶぞ。

 なんだよ熱い熱視線って。頭痛が痛いみたいになってるぞ。


 「そんなわけないだろ。いま初めて会ったんだぞ俺たち。じいちゃんが何か聞き間違えてるんだよ」

 俺は呆れたようにじいちゃんに向かってそう言う。


 「そ、そうなのか?わしの聞き間違えなのか?確かに結婚を前提にお付き合いしたいと聞こえたのじゃが…」


 「そりゃそうだろ、じいちゃん。普通に考えろよ。騎士様がこんな山奥に住んでる小汚いじじいに育てられた俺みたいな奴に、出会っていきなり結婚を前提にとか言うと思うか?」


 「そ、そうじゃな。わし、何か、勘違いしてしもうたみたい。騎士様、取り乱してしまい、申し訳ありませぬ。先ほど何をおっしゃられたのか、もう一度…」



 「フフフルルウ、フルール様とおっしゃるんですね……フルール様!!けけkkっ、結婚してください!!!!!!!!!!」



 「「……」」



 聞き間違えじゃないじゃん。

 じいちゃんがそういう目で俺を見てくる。

 


 あ、だめだこれ。おかしい人なんだ。

 やっぱり騎士になれるような人間はどこかおかしくないと駄目なんだな。

 

 よし逃げよう。


 こんな頭のいかれた女に構っている時間はない。俺の青春は残り少ないんだ。


 もう15歳。これから町に降りて、楽しいことがいっぱい待っている。


 うわぁ頑張ろう。ビッグになろう。




 「…騎士様、まずは、我々の家で、傷の手当をなさいませんか?ここからであれば、昼前には着きますので。」


 じいちゃんは強靭な精神力でどうにか恐怖心を押さえ込み、冷静に話しを繋げている。

 さすが俺のじいちゃんだ。熊だろうとゲテモノだろうと立ち向かえるってすごい。

 

 てか、これ家に連れてくの?

 嫌なんだけど…




 「ごごご、ごご、ご自宅にですか!!?い、いきなりご両親への挨拶…落ち着け…落ち着くのだ騎士ペローナ…お前がこれまで培ってきたものの見せ所だ…なんのために剣を取り、なんのために騎士になったのだ……ぶつぶつ…」


 いや、少なくともこのためじゃないよ。初心に帰れよ頼むから、もう。

 てか普通に帰れ。







 「こ、ここが、フルール様のご自宅ですか…趣があって、素敵ですね(フルール様に匂い!!!フルール様の生活臭!!!)」


 「汚ないとこだけど、あがってくれ。すぐに湯沸かすから、待ってろな」


 (主として、わしの家なんじゃけどなぁ…)

 


 お湯を沸かしながらあらためて変態騎士を見ると、体中ボロボロだ。

 言動はいかれているが、女が傷を作りまくっているんだ、いい気分ではない。



 「ほい、向こうの部屋に湯と手ぬぐいを準備したから、それで念入りに汚れを落としな」


 「も、申し訳ありません…殿方に湯を準備していただくとは…」


 「いいって。早くしてくれ。その間に、傷薬の用意をしておくから」


 俺がそう言うと、女騎士はこちらを少し伺うそぶりを見せながら、隣の部屋に入っていった。



 

 扉の向こうに消えていった騎士を見届けて、俺はじいちゃんに話しかけた。



 「なぁ、じいちゃん。前にもさ、町でこんなことなかったっけ?」



 あれは俺が6歳くらいのことだったと思う。


 じいちゃんと初めて町に降りた俺は、そこで町に住んでいるのであろう女の子に声を掛けられたのだ。

 初めての町で舞い上がっていたので記憶が薄れてはいるが、その時も結婚とか将来がどうとか言ってたような気がする。



 「そ、そうじゃったかな?わし、覚えてない。わし、年寄りじゃから、物覚えよくない」


 途端、じいちゃんがどこぞの大陸人みたいなしゃべり方で煙をまこうとしてくる。



 覚えてる、というかこの状況の理由をなにか知ってるよね、あなた…


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