宣言
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本日二話目です。
王都というとどのようなイメージを持つだろうか。
華やかで、活気があり、誰しもが憧れる街、それが王都。
それは正しい認識だろう。現にこの世界の各大陸の覇者である五賢国の王都は、どれもそのイメージをそのまま当てはめたような街である。
ただこのアーリオ王国の王都は少し様相が異なる。
アーリオ王国が大陸の覇権を獲ったのがおよそ30年ほど前。
それからというもの、まるで鼠が子を産むように急速に経済が発展してきた。
現王は稀に見る戦上手で、次々と他国との戦争で勝利を収め、領土を増やしてきた。
しかし今やその王の姿を見ることはほとんどない。
王も王妃も病気を患い、その姿を見せることがなくなってしまった。
国民は、他国の呪術師の仕業ではないか、いや貢物の中に毒が仕込まれていたのかも分からない、そんな噂話に最初こそ盛り上がったものの、こうまで姿を見せないとなると、この国はどうなってしまうのかと思い始めていた。
そんな折、まだ若いが優秀だと評判だった第一王女が立ち上がり、病床の王に代わり国の舵取りを行うと宣言したのだ。
国民は驚くが、あの第一王女のみならず、第二王女もついている。
この二人さえいればアーリオ王国は今よりも更に繁栄するに違いない。
国民の誰しもがそう信じて疑わなかった。
それから10年。
あの頃に期待した素晴らしい王女はどこにもいなかった。
それはまるで人が変わったかのように、優秀であったはずの王女は、暴走していく。
他国からの国使を殺す。
圧政への陳情を行う重鎮を殺す。
私に逆らえば殺す。
私と目が合えば殺す。
私の前で口を開けば殺す。
いったい王女様はどうしてしまったのか。
気が狂ってしまったに違いない。
第二王女様はなぜあのような暴挙をお止めにならないのか。
初めはこのようなことはすぐに止めるよう姉に進言していた第二王女であったが、やがて1年も経つ頃には、第一王女のように変わり果てた人格となっていた。
いや、第一王女よりも冷酷だと人は言う。
なにせ第二王女には感情が一切見えない。
なにを考えているのか分からない。
何も考えていないのだろうか。
いや、何も考えていない人間が、自分が作り上げた孤児院の孤児たちを、自らの魔法の実験台に使うような真似をするだろうか。
ある孤児院の院長はこう言った。
あの方は以前は素晴らしいお方だった。
戦争の影響で増えた孤児たちを救うため、自ら孤児院を建設して下さった。
だが、そんな第二王女様のお人が変わってしまわれてから、王都の孤児の数は以前の半分に減った。
これが何を意味するのか。
気狂い王女と人形王女。
それが国民の間で呼ばれている二人の蔑称であった。
■
アンゴラ・ファンド公爵。
アーリオ王国の重鎮であり、王国では以前に宰相を勤めていたほどの人物である。
その人物は今や城内の日陰者のような立場で日々を過ごしていた。
王女様が王権を代位してからというもの、お人が変わったかたのように変貌してしまい、とうとう彼は宰相の任まで解かれてしまった。
それからというもの、今ではこのような物置を改装したような窮屈な部屋で、国民からの陳情書に目を通す日々を送っていた。
そんなアンゴラのもとに報が届く。
古くからの親友が、あろうことか第三王女を篭絡しクーデターを画策したものの、第一王女、第二王女によって未然に防がれ、親友は処刑されたというものだった。
「ザラート…」
アンゴラは親友の名前を呟き、彼を思った。
(なぜ私に相談の一言もなかったのだ…私はお前の信に足る男ではなかったというのか…?)
そう考えるが、すぐに振り払う。
(お前はそのような男ではなかったな…何か理由があって、私には言えなかったのか…さぞ無念だろう、ザラート)
アンゴラは己の拳の皮膚が裂けるほどに強く手を握り締めた。
心がアンゴラを奮い立たせようと慟哭する。
(いまのわしを見れば、お前は笑うだろうな。だが…すまん、ザラート。お前は命を懸けてまで国を憂いたというのに…わしはそれすらできん)
アンゴラは、今日も陳情書に目を通し、それをただ保管していく。
これが王女たちの目に触れてしまう前に。
■
「ただ、その冒険者ランク1級になることが、正直難題だ」
俺は正直な気持ちを吐露した。
少なくともここ50年は誕生していない称号である。
並大抵では不可能だ。
ノルンも頷いて同意する。
「なあノルン。冒険者ランク1級になるには、どんな依頼をこなせばいいんだ?」
俺は元ギルド職員でもあるノルンにそう尋ねる。
ノルンはその知識から拾ってきた情報を教えてくれる。
「ランク1級とは…普通の依頼では成ることはできない…」
神妙な面持ちでそう言って続ける。
「ランク2級の冒険者が…災害指定の魔物を討伐することで認定されるもの…」
気になる単語が飛び出してきた。
「災害指定の魔物って…伝説の三魔のことか?」
俺がそう聞き返すと、しかりとばかりにノルンは頷く。
「三魔…それは魔の山に住む魔竜ドラガン、大海を根城とした怪鮫ザイオス、死の谷に潜む奇獣オロロン…私も子供の頃に…よく昔話で聞かされた…」
三魔、それは伝説とされる三匹の魔物。
その力たるや、国を一昼夜で滅ぼしたとの逸話も残っている。
そんな怪物を討伐しろってのかよ…
「50年前に認定された英雄様は、そのうちの一匹を倒したってことか?」
俺は気付いたことを尋ねる。
ノルンは首を左右に振り、否定を示した。
「50年前に出た冒険者1級の…英雄ムギタスは…当事、突然隣国の街を襲い始めた魔竜ドラガンを撃退して…その功績を称えられ、ランク1級になったと言われている……」
そうか、討伐した訳ではなく、撃退したことで認められたのか。
だが俺達が冒険者ランク1級を目指すうえで、どこかの街が襲われるのを待っている暇は無い。
「結局、どれかを討伐するっきゃないってことか」
ノルンも今度は肯定する。
「よし、決まったな」
俺はノルンにそう話した。
「どっちにしろ、冒険者ランク2級にならなきゃ話が始まらないんだ。なら俺は、2級になったときには三魔を倒せるくらいまで、強くなっておいてみせる」
そう言って笑いかける。
ノルンは一瞬何を言っているのか分からないような顔をしたが、すぐに笑う。
「さすがフルール君…うん、フルール君なら…きっとできる…なら、私も強くならなきゃ……」
ノルンも決心したようにそう宣言する。
「俺は魅了を強化しながら、長所を伸ばすことにする。俺はこの力と、魔力操作くらいしか取り得がないから、この二つを重点的に伸ばすことにするよ」
俺もそう宣言する。
「フルール君は…なにか強くなる当てがあるように聞こえる…」
「うん、そうなんだ。じいちゃんが残してくれてたものを使うつもりだ」
そう言って俺は、ノルンに付いてくるように言う。
向かう先は山小屋の裏にある、倉庫である。
扉を開けて中に入ると、薪が聳え立つように積まれている。
「すごい…これ、全部モモイロの木…こんな大量に…」
ノルンは超高級品といわれるモモイロの木が、それ以外に使い道のない薪とはいえ、これだけの数があることに素直に驚いたようだ。
「すごいだろ?じいちゃんって本当道楽だなと思うよ。見せたいのはこの先さ」
俺は薪を隙間に入り込むように奥へと進む。
するとそこには、鎧や剣、盾といった数々の武具が所狭しと置かれていた。
「これは…全部おじいさんの…?」
「ああ、じいちゃんの言わば形見さ。その中でも、これは逸品だぜ?」
そう言いながら手を触れたのは、じいちゃんの二つ名の由来ともなった、ミスリル鋼の全身鎧だ。
「これはあんまりにも重いもんだからさ、さすがのじいちゃんも作ってみたものの、全身に装備することはなかったみたいだ。見ろよ、ここだけ床が何十にも補強されてるだろ?こうしなきゃ支えきれないんだよ、こいつを」
そう。これが俺の1つ目の考えだ。
これを全身に纏い、俺の斧とじいちゃんの斧を使い、地道に基礎鍛錬を行うつもりだ。
今の俺の力は、自分の斧を自由に操れるようになったことで身に付いたものである。
それが二本に、この鎧を装備した状態で自由に動けるようになれば…
「なるほど…フルール君…これなら確かに強くなれると思う…でも」
ノルンの言葉を俺の言葉が途中で切る。
「でもこれでも三魔を討伐できるほど強くなるとは思わない…だろ?」
自分の言いたいことを先に言われたからか、ノルンが少しむくれる。
「悪い悪い。でも、それは分かってるよ。なにせこの鎧を着けて戦争に出てたじいちゃんでも、三魔と戦って勝てるだなんて思えないんだ。いわば本当の化け物なわけだからな」
「なら…もう一つの魔力操作が鍵なの…?」
「ああ、俺は自慢じゃないけど魔力は人一倍小さい。その少ない魔力を操作し、身体に纏わせることで相手の魔法や物理攻撃のダメージを軽減してるのは知ってるよな?」
ノルンはまだむくれているが、当然だと言わんばかりに大きく頷く。
俺は苦笑しながら続ける。
「この方法もさ、ノルンにも一度見せた、じいちゃんが旅先から持って帰ってきた古い魔道書に載ってたやり方なんだ。魔力を増やすやり方は方法が間違ってたのか俺には出来なかったけど、この魔力の使い方は魔力操作が得意な俺にうってつけなものだ。これをさらに強化しようと思う」
俺は考えていたことをノルンにそう告げた。
「確かに、フルール君のその魔力纏はすごい…普通、魔力を放出した状態で留めておこうなんて考えない…フルール君がどう進化するのか楽しみ…」
ノルンは先ほどのことは忘れ、楽しそうに笑う
「だからその間、少し依頼の受注をやめて、ここで修行しようと思うんだ。魅了強化だって、モモイロの木がないとできないわけだし…ノルンは、その間どうする?強くなるための考えがあるのか?」
俺は気になっていたことを尋ねる。
冒険者1級になるためには、今以上の実力が必要だ。
俺は進む方向性が見えているが、ノルンには何か考えがあるのだろうか。
「ふふふ…甘く見てもらっては困る…私もちゃんと考えてある…」
そう言ってノルンはVサインをしてくる。
自信がにじみ出ているようだ。
「へえ。さすがだな、ノルン。具体的に聞いてもいいか?」
「簡単…魔力を増やして、今より強力な魔法を覚える…」
Vサインを継続したまま、そう宣言する。
「増やすって、俺もよく修行でやらされてたけど、一朝一夕で増やすのは無理なんじゃないのか?」
俺は疑問を率直にぶつけるが、ノルンは不適に笑う。
「フルール君に見せてもらったあの魔道書に載っていた魔力を増やす方法…私なりに考えた…魔石から魔力を取り出して、フルール君は一度大変な目にあったと聞いた…」
その言葉に俺は素直に頷く。
あの痛みはとてもノルンが耐えられるようなものではないと思う。
気絶で済めばいいが、最悪死に至る。
もしあんな危険なことをノルンがしようとしているのならば、俺は無理やりにでも止めなければ…
「安心して…たぶん危険は無い…」
ノルンが俺の気持ちを見透かしたかのようにそう告げる。
「そもそも人は生きているうえで魔力を微量に放出し続けている…そこに違う種類の魔力が入れば…当然反発がおきると考える…」
なるほど。あの痛みは俺の魔力と、魔石の魔力が衝突したことが原因か。
ノルンは続ける。
「なら、身体の魔力を完全に放出した状態で…魔力を吸えばいい…」
その言葉に俺は驚く。
魔力を身体から出し切るってことか?
そんなこと…
「そんなことが出来るのか?」
少なくとも俺には無理だ。
魔力が体内から無くなれば人間は死ぬ。
こんなことは小さい子でも知っている当たり前のことだ。
「できる…と思う…今まで魔法の修行をしていたときに、身体が空っぽになる感覚がたまにあった…あの状態は身体がギリギリ生きていけるだけの魔力しか残っていない状態だと思う……おそらくあの時に魔石から魔力を吸い取ればいい…」
さっき危険はないって…そんなこと十分に危険じゃないか。
止めさせたい。
そう思うが、ノルンの表情にはありありと決意が見てとれる。
「やめない…私たちはチームだから…私だけ置いていかれるのは嫌なの…」
「ノルン…」
こうなったときのノルンは、絶対に言うことを聞かない。
俺は諦めたように嘆息し、ノルンの言うことを認める。
「分かったよノルン。魔法に関しちゃノルンは天才だ。そのノルンができると言うなら、できるんだろうさ」
「さすがフルール君…うん、私は天才…やってみせる…」
これで方向性は決まった。
俺はミスリルを使った基礎身体能力の向上と、魔力操作の新たな使い方。
ノルンは魔石を使った魔力ブーストによる新たな魔法の習得。
待ってろよ、三魔共。
度肝を抜いてやるからな。




