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幸福な未来

ようやく落ち着きました。

ランキングもこの間に落ち着いたみたいですので、これからもマイペースであげていきます。


 

 ■ フルールへ

 

 お前がこの手紙を読んでおるということは、わしは約束を果たせんかったらしい。

 無事再会したときに全て話すつもりじゃったが、どうやらそれもできそうにない。


 せめて、じいちゃんからの最後の願いじゃ。

 どうか幸せになってくれ。

 家庭を作り、子を作り、次世代に命を繋げていってくれ。


 わしは勝手な男じゃった。

 お前を息子から取り上げ、今は勝手に捨てようとしておる。

 こうなることは必然であろう。

 お前に尊敬されるような祖父でもなかった。

 息子の父親としての幸せを壊し、お前との約束も果たせんかった。

 じゃがお前の幸せだけは心から願っておる。

 

 これが最後じゃ。

 秘密はわしが墓まで持っていくことにする。

 お前はわしのことも、両親のことも、全て忘れて生きてくれ。

 復讐に身を囚われず、未来に向かって歩いてくれ、フルール。

 そして、どうか幸せに。


 ~じいちゃんより~






 「兄さん、全員揃ったよ。ノルンさんも先に行って待ってる」


 「ああ、今行く」


 「…お爺様の手紙?」


 「ああ。じいちゃんには恨まれるだろうな…お前まで巻き込んで、すまない」


 「僕が僕自身で決めたことさ。さあ行こう、兄さんが来ないと始まらないよ」


 「そうだな…行こう」

 

 ……

 ……

 …







 俺は山小屋の裏手に、簡素な墓を作った。

 この下にじいちゃんはいない。そんな形だけの墓ではあるが、なぜか俺はじいちゃんを感じることができた。

 最後に、じいちゃんが好きだと言っていた花を手向け、黙祷を捧げる。


 「…よし。おまたせ、ノルン」

 俺はすぐ横で待つノルンに声を掛ける。


 「おじいさんも…きっと喜んでる…」

 「じいちゃんときたら、もっと眺めがええところに建てい!とか言いそうだけどな」

 俺はそう苦笑し、ノルンもつられて笑う。


 俺がノルンと合流してから、一週間ほど経過していた。

 あれから俺は港街キヌサに戻り、キリクさんとギルドマスターに謝罪しに行った。

 そして、これから俺がどうするつもりなのかも、二人だけに話した。

 二人は黙って聞いていたが、俺が話し終わると、こう言った。

 「私は、フルール君のおじいさんには若い頃世話になった。だから、君のことをできる限り面倒を見ようとも思っていたんだ」

 

 ギルドマスターはまっすぐ俺を見て、続ける。

 「今の君を心境を思うと、掛ける言葉は見つからない。だがね、私は言わせてもらうよ。ガズンさんは、君が復讐に生きることを望んで死んだわけじゃない。君がこれから行おうとしていることは、ガズンさんの願いを、死に様を踏みにじって歩く道だよ。そんな君を、私は助けてあげることはできない」

 

 俺もギルドマスターの目を見て、逸らすことはしない。

 「だが、君はいまや自らの力で道を切り開ける実力も、経験も得たようだ。茨の道を行くといい。私はそれをただ見守らせてもらうよ…」

 ギルドマスターはそう言うと、部屋から出て行く。

 

 「フルールよ、ギルドマスターもな、じいさんを失くしてつらいんだ。俺が冒険者になるだいぶ前からの友人らしくてな。じいさんが死んだと伝わってきたときは、そりゃあ今まで見たことがないくらいの喧騒で怒鳴り散らしてたぜ」

 キリクは少し笑いながらそう言った。

 「俺もな、じいさんとギルドマスターに賛成だ。そりゃあお前の気持ちも分かるさ。だが、復讐は必ず身を滅ぼすことに繋がるぞ?」

 そう言って、真剣な眼差しで俺を見てくる。


 「全部覚悟のうえだよ。キリクさん、今までお世話になりました」

 俺はそう頭を下げる。

 そのまま10秒ほど経過しただろうか。

 頭を下げ続ける俺の意思が固いとみたのか、キリクは息を一つ吐いてからこう言った。 

 「はぁ…お前との付き合いももう1年だからなあ。ほんと、頑固で気難しいよお前は。じいさんそっくりだ…なんかあったら言ってこいや。俺の情報が役に立つこともあんだろ」

 キリクはそういい残し、軽く手を振り出て行った。


 俺は、二人の気持ちに感謝する。

 正直罵倒されるだろうか、殴られるだろうかと思っていたのだ。

 そして二人が俺を軽蔑しやしないだろうかとも。

 ただ二人は、俺の行動を見ていてくれると言った。

 それが嬉しかった。





 「フルール君…これから、まずはどうするの…?」

 俺はあらためてノルンとこれからを話し合うため、山小屋で作戦を練っていた。


 俺達が事を成すために、先ずは最優先でしなければならないことがある。

 それは…

 「まず、冒険者ランク1級を目指す」

 そう。

 冒険者ランク1級ともなれば、ここ50年はアーリオ王国で誕生していない、いわば英雄の象徴のようなものだ。

 その暁には、王城にて王様や王女といった王族達から言葉を賜ることができる。

 

 「そして、王女たち全員に魅了を仕掛ける。まさか王族ともなれば、婚姻の儀を行う前から姦淫していることはないだろうから、俺の魅了も効果があるはずだ」

 そう、俺の考えは至極単純である。

 すなわち、王女たちを魅了で操り、国を根底から変えてしまおうというのだ。

 人道に悖る行為であることは承知のうえだ。


 「うん…シンプルだけど、とても効果的だと思う…フルール君にしかできない…」

 「違う、俺たちにしか、だ。二人でやるんだ、ノルン」

 俺はすぐにノルンの言葉を否定し、訂正する。

 「…ぽっ」

 ノルンは顔を赤くするが、すぐにおかしなことに気付いた。


 「聞いてもいい…?フルールくんがカッコいいのは知ってる…でもその魅了だけで、人格を操るようなことが可能なの…?」

 そうなのだ。俺の魅了は俺自信もよく分かっておらず、聞いたこともないような異能なため、どれほど効果が挙げられるのかが分からない。

 「その点は考えてあるんだ。俺の魅了はもともとモモイロの木がその発生源泉だ。だからこれからモモイロの木をがんがん焚いて、しばらく魅了の効果を上げることを目標にしたい」

 

 そう、以前とある女騎士と会ったときにじいちゃんが言っていた。

 モモイロの木の近くにいたその女騎士の行動は、じいちゃんが今まで見たことのないほど、魅了の効果が凄まじかったと。

 ということは当然、この能力には伸びしろがあるはずだ。

 

 「それだけじゃない。能力を効果的に伸ばすために、魅了の力の方向性をなんとか変える事ができないかと思ってるんだ」

 俺は考えていた事を告げる。

 

 「方向性…好きにならせるのではなく、文字通り魅了して操る…ということ?」

 「そうなればそれがベストだな。今まではさ、魅了にかかった相手が俺の気持ちを無視して突っ込んでくることが多かったんだよな。その方向を、俺から相手へと変えることができないかと思ったんだ」

 そのために、先ずは能力の向上が必要だと考えた。


 「なるほど…もう一つ気になるのは、第三王女まで魅了にかけるの…?おじいさんと一緒に…クーデターを起こそうとしていた人のはず…魅了の必要は」

 ない…と、ノルンはそこまで言いかけて、話を止める。

 いや、二の句を継ぐことが出来なかった。


 なぜならノルンから第三王女の言葉を聞いたフルールの瞳は、復讐の色でどす黒く染まっていたのだから。


 第三王女…そいつこそじいちゃんをクーデターに誘い込み、あげく計画が事前に漏れて失敗し、じいちゃんだけに責任を取らせて自分はのうのうと生きている、首謀者なのだ。

 

 だから俺はきちんとノルンに告げなければならない。

 「ノルン、あらかじめ言っておくからな。俺は、第三王女だけは絶対に許さない。じいちゃんを口先で操り、利用し、なぶり殺しにしたその糞野郎を魅了し、利用し、使い潰し、搾りかすになったあとに、最後は薄汚いこの国の亡者共とまとめて死肉の棺桶に突っ込んで、その顔に自分の腸から引きずり出した糞を塗りこんでから言ってやるんだ、ざまあみろってな」

 俺はそう言ってから至極楽しそうに、くつくつと笑う。

 

 ああそうだ。

 これは復讐なのだ。

 王国転覆?そんなものは結果論だ。

 圧政なんぞ知ったことではない。

 俺はじいちゃんを殺したこの国を許さないし、じいちゃんを巻き込んだあの女だけはこの手で必ず殺してやる。

 地獄を見せてやる。

 

 ふと視線を上げると、ノルンがじっと俺を見ていた。

 「っと、悪い悪い、つい夢中になって語っちまった」

 俺はそう言って苦笑する。


 「フルール君は…」

 ノルンはそう言って、言葉を切る。

 どうしたのだろうか、ノルンは。

 まるで俺が可笑しなことでも言ったみたいじゃないか。

 でも、そうだろう?

 国を操るなら、王族が一人でもいればいいんだ。

 なら、じいちゃんを殺した奴には責任を取ってもらわないといけない。

 当たり前のことじゃないか。


 少ししてから、ノルンは言った。

 「分かった…フルール君の望むことが私の望むこと…フルール君の願いが私の願い…一緒に、成し遂げよう…」

 そうしてノルンは笑顔になる。

 

 「良かった、ノルンがそう言ってくれて。ノルンだけが俺の理解者だ。キリクさんもギルドマスターもさ、結局はじいちゃんの仇なんかどうでもいいんだろうな。でも、俺とノルンだけでも、成し遂げられるさ。そうだよな、ノルン?」

 俺もそう言ってノルンに笑顔で語りかける。


 ノルンも幸せそうに頷いてくれた。


 ああ、そうだよ。


 ノルンとなら、きっとじいちゃんの最後の願いだった、俺の幸せな未来だって掴めるはずだ。


 じいちゃん、待っててくれ。


 俺はこれを成し遂げて、幸せな未来を作っていくからさ。

 

 今度はちゃんと、最後まで見といてくれよな、じいちゃん。


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