岐路3 終わりを告げる日常
お待たせ致しました。
ようやくプロローグ終幕です。
これも長くなっております。
夢を見ていた。
夢の中では俺はまだ生まれて間もない赤ん坊だった。
広い部屋の中で、俺は優しそうな女性の腕に抱かれている。
この人が俺の母親なのだろうか。
そんな事を考えると、すぐ横に大柄な男が立っているのが見える。
まだ若いが、これはじいちゃんだ。
それは懐かしい、優しい笑顔で、俺と女性を見ていた。
俺はじいちゃんを見ると、なぜか泣き出してしまう。
途端にじいちゃんがオロオロし始めるのだが、俺は泣き続ける。
すると横からもう一人男が現れ、俺を母親の手からふわっと抱き上げ、慣れた手つきであやし始める。
すると途端に俺は泣くのをやめる。
この人は誰なんだろう。
不思議とじいちゃんによく似ていた。
男もまたじいちゃんと同じように、懐かしい笑顔で俺を見ていた。
ひょっとしてこの人は、俺の
「……夢か」
そう呟き、俺は目を開けた。
夢の中で俺がいた部屋とは大きく異なり、俺はベッドが1つようやく入るだけの狭い部屋で目が覚めた。
場末にある安宿だ。
食事も寝床もろくなもんじゃないが、利点もある。
安いこともあるのだが、ここは木造ではなく、石造りで出来ているのだ。
俺の愛用の斧は、その重量は大人3人分は優にあるため、一般的な木造に寝かそうものなら、あっという間に床が傷物になってしまう。
それを防ぐための入れ物なんかがあれば良いのだが、あいにくとそんな物はない。
なので、こうして石造りの安宿が、俺の常宿になっているという訳だ。
「もう太陽があんなところに……ノルンが来ちまう前に支度しないとな」
俺にしては珍しく、大きく寝過ごしたと思った。
ノルンの家から冒険者ギルドの間に、この宿が位置しているため、毎朝ノルンが迎えに来るのが常となっているのだ。
「女が男を毎朝迎えに来るって、色々間違ってるよなあ」
そう呟きながらも手を休めず、俺は着々と準備を整える。
よし、いつでも行けると思ったと同時に、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
俺はいつものようにドアを開け、部屋の外に身を乗り出すと、やはりノルンが廊下で待っていた。
「おはよ、ノルン」
「フルール君…おはよう…よく、眠れた……?」
いつもの挨拶に、俺はどこか違和感を感じた。
「そりゃ、いつも良く眠る子だぞ?俺は」
俺の寝つきが良いのは、野営を共にしているノルンは知っているはずだ。
どうして今日に限ってそんなことを聞くのか。
「……なら、いい…」
変な奴だ。
俺たちは宿を出て、冒険者ギルドに向かって歩き出す。
途中で大通りに出る。
ここは朝食を出す屋台も多くあるため、少し遠回りにはなるがいつも通る道だ。
今朝は簡単にサンドイッチを購入し、ノルンと食べながら歩く。
屋台にはきちんと椅子やテーブルも設営されているのだが、冒険者はみんなこのスタイルで、冒険者ギルドに向かう奴が多い。
俺とノルンも、最初の頃は座って落ち着いて食べていたのだが、いつの間にかこのスタイルになっていたのだから、不思議なものだ。
そうこうしている内に、冒険者ギルドは目の前だ。
だというのに、ノルンがまた妙な事を言い出した。
「フルール君…今日も依頼を受けるつもり…?」
依頼を受けるつもりがなければ、ギルドには来ない。
「ノルンだって知ってるじゃないか。俺は少しでも早く3級ランクに上がって、王都に行かないといけないってこと。じいちゃんとの約束だからな」
俺はそう言って、安心させるように笑いかける。
ノルンの言いたいことがようやく理解できたからだ。
「ノルンは知らないだろうけどな、じいちゃんは殺したって死ぬような男じゃないんだぜ?あんなの、何かのデマに決まってるよ。こんなことで約束を破って王都に行くようなことになったら、俺がじいちゃんに殺される」
ぶるぶる!っと、恐ろしい物を想像したように俺は体を震わせる。
そんな俺を見て、ノルンも安心したように笑う。
そうだよ。第一、クーデターなんかにじいちゃんが参加する訳がない。
自慢じゃないが、俺はじいちゃんのことを一番知ってる。
あのじじいは、貴族社会とか、王族とか、そういったものが大嫌いなのだ。
俺も小さい頃からじいちゃんに色々と教えてきてもらったが、国や貴族に関する教養だけは、教えてもらっていない。
そのため、俺の知識はそこだけがすっぽりと抜け落ちたような、歪な物になっていた。
さあ、今日はどんな依頼があるのか。
もし3級依頼があるようなら、ノルンと相談したうえで、受注するかどうか考えよう。
そうだ、キリクに助力を頼んでもいい。
キリクは戦闘面ではなく、主に情報収集や他チームのサポートで、単身で冒険者ランクを4級まで上げてきたような男である。
4級冒険者とすれば、対魔物への実力に疑問は残るものの、討伐以来以外であれば郡を抜いて優秀だ。
そんなキリクはじいちゃんに、俺とチームを組むことを禁止されているが、一度協力して依頼を達成するくらいは構わないだろう。
そんなことを考えながら、ギルドの扉を開ける。
中には、剣呑とした雰囲気が漂っていた。
その理由はすぐに分かる。
併設されている酒場の最も手前のテーブル席に、キリクが陣取っていた。
いつもはニヤニヤとした軽薄そうな顔なのだが、今日はただそこに座っているだけで周囲を威圧しているかのような表情だ。
「キリクさん、おはよ。王都から帰ってきたんだな」
俺は軽くそう挨拶する。
キリクがここキヌサの町を離れるのは珍しいことではない。
この男への指名依頼はかなりの数に上り、月に1度は遠征している。
そんなこともあり、いつもならここで向こうからも挨拶が返ってきて、不在の間の近況なんかを軽く報告するのだが…
「フルール、来い。嬢ちゃんも一緒で構わねえ」
そう言うや否や、こちらを見ようともせず、ギルドの奥へと進んでいく。
「なんだあ?」
俺は訝しげに思いながらも、後を追う。
ノルンも不思議そうな表情をしている。
「この先は…ギルドマスターの部屋しかない…」
ギルドマスター。
俺も何度か会ったことはある、気の良いおっさんだ。
一応はこの冒険者ギルドでは一番偉い人らしい。ただその姿は、完全な中年太りで、威厳も何もあったものじゃないが。
少し歩くと、突き当たりにある部屋がそうだ。
部屋の前ではキリクが待っていた。
俺たちが近づくと何も言わず部屋の扉を開ける。
なんだ、キリクの奴。
部屋に入るとすぐに扉が閉められる。
俺とノルン、ギルドマスターとキリクが向かい合うように座る。
ギルドマスターもキリクも、いつになく真剣な面持ちである。
その顔にはどこか陰りが見える。
「フルール。今から言うことを、冷静に聞いて欲しい。約束してくれ」
キリクがそんな事を言い出す。
「どんな話があるのか知らないけどさ、俺だって冒険者として1年以上もやってきてるんだ。何聞かされたって、暴れだしたりするわけないだろ」
俺はそう返したものの、二人の表情はいまだ暗い。
俺の言葉を聞くと、一息吐いてからキリクは切り出した。
「じいさんが、ザラート・ルールが、死んだ」
じいちゃんが死んだ。
「俺のキャリアに賭けて、間違いのない情報だ。俺は助けることができなかった。すまない」
助けられず死んだ。
「お前にはこれから、じいさんから預かってある手紙を渡す。おそらくじいさんは、だいぶ前から自分が死ぬことを分かっていたんだ。自分に何かあったときに、お前に渡すように言付けられていた」
そう言って手紙を渡してくる。
手紙を受け取り、中をあらためる。
「……。……。キリクさん、これ読んだ?」
俺は努めて冷静に問いかける。
「ああ。じいさんには許可ももらってある」
そっか。
「フルール、王都に行くことは許さねえぞ」
俺があんたの許可を取らないといけないことなんて何もない。
「じいさんはちゃんと理解していた。じいさんの責任だ。お前はじいさんの気持ちを汲め」
じいちゃんのことを一番よく知ってるのは俺だ。
「王都に発つ前の晩、俺とギルドマスターだけはじいさんからお前の話を聞いてある。お前の実家の事は忘れろ。金輪際、じいさんのことも、生家も、全部忘れてただのフルールとして生きていくんだ。俺もギルドマスターも、じいさんには世話になった。俺たちが協力していく」
じいちゃんを一番よく分かっているつもりだったのは俺だ。
「いいな。絶対に勝手な行動はするな?……俺達は一旦席を外す。その間、じいさんの手紙の意味をよく考えておけ」
そういって、キリク達は外に出て行った。
「フルール君…」
ノルンが俺を見ている。
大丈夫だ。
悪いけど、ノルンも外に出ておいてくれるか?
一人でもう一度手紙を読みたいんだよ。
「…外で、待ってるから…」
ありがとう。
読み終わったらすぐに呼ぶからさ……
……
…
「あん?おい、嬢ちゃん?なんでお前が外にいやがる」
「フルール君が、一人で手紙を読んでいる…その間、待っているだけ…」
「一人で、手紙を?…馬鹿野郎っ!!!!!」
キリクはそう言うや否や乱暴にドアを開け放ち、部屋に飛び込んだ。
そこには、誰の姿もなかった。
誰の仕業か、開け放しの窓枠が、風に揺れて音を立てていた。
■
「朝は晴れていたのだが、この時期は天候が変わりやすいな。こう激しく降られては、地下倉庫が溢れないかどうか、うちの給士長が心配しているだろうよ。あれは心配性でな、いつも胃薬が手放せない男だ」
男は広い書斎の中で一人呟いた。
この夜更けにまだ仕事をしていたのか、机の上には蝋燭と、幾重にも重なった書類が見える。
「それに、夜更けに領主の家に侵入してくるような愚かな男の存在も隠してしまう。私は警備が心配だよ。後で叱らないとならないからな」
ランドはそう言いながら、身体の向きを変え、侵入者の姿がある背後を向いた。
そこには顔を隠した、全身ずぶ濡れの男が音も立てずに存在していた。
「じいちゃんが死んだ」
「じいちゃんとは誰のことかね?私は以前、君のご家族の話は聞いていなかったと思うが」
「ザラート・ルールが死んだ。殺したやつを教えろ」
「ザラート・ルール?……変だな、うちの親父殿と同じ名前だ。だが親父殿は15年も前に亡くなっている。それはどこのザラートさんだ?」
「問答をするつもりはない。殺したやつを今すぐ教えろ。教えなければあんたを殺す」
「そう言われてもな。私は領主だが、領民の隅々まで把握している訳ではない。君のご家族のことなど分からんよ」
「問答はしないと言ったろう、本気で殺すぞ。最後だ教えろ。あんたは知ってるはずだ」
「明日も朝から仕事でね、実はそろそろ眠ろうかと思っていたのだよ。睡眠時間が短くなるのは嫌なので、できれば警備が気付かない内に帰ってほしいのだが」
俺はその言葉を最後まで聞かず、手で持っていた斧で目の前の男を両断する。
だが男は鉄をも絶つその一撃を、剣一本で受け止めていた。
見間違うはずもない。
それはフルールの祖父が使っていたあの剣だった。
「それはじいちゃんのだあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
俺は雄たけびをあげながら男に何度も斧で切りかかる。
男は受け、流し、避け、ことごとくを外していく。
「そおおれええええをおおおおお!!!!かああああぁああええええぇぇええせええええええええええええ!!!!!!!!!」
己の攻撃が当たらないことに激高しさらに手数を増やす。
男はそれに動じることもなく、涼しい顔で捌き続ける。
その嵐のような攻撃で周囲の物が吹き飛んでいく。
執務机も、背もたれ付きの椅子も、ラベルの読めない酒瓶も、もはや原型を留めていない。
「なんでええええええ!!!!なんで当たらないいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
フルールはリミッターが外れたように強大な一撃を繰り出していくが、それが男に当たることはない。
男は流れるように剣を振るい、ひらすら防御に徹していた。
「俺が怖いのかあああっ!!!!!!なぜ攻撃してこないいいいい!!!!!!!」
「このまま回避していれば、すぐに警備が来るからな。自らの手を賊で汚すのは嫌なんだ、私は」
舐められている。
そう思うのだが、男は嵐の中で顔色も変えずに立っている。
自分は全力で攻撃しているというのに。
だがフルールは気付いていなかった。
己の命に代えてもこの男が知っていることを吐き出させなければならないと思うがゆえに、男を殺してしまいかねないような致命傷を避ける攻撃しか繰り出していないことに。
それは無意識であったろうが、この戦いにおいては致命的であった。
このままでは埒があかない、そう考え始めたとき、部屋の外から人が飛び込んできた。
「父上!!!!いまの音は何事ですか!!!!!」
アズールだった。
1年ぶりに見る弟は少し背が伸びていて、顔つきも幼さが消えかかっているように見える。
フルールは突然飛び込んできた弟を見て、思わず攻撃の手が止まってしまう。
それが父親が死ぬところを見せまいとの行動だったかは分からない。
「賊がっ……いや、フルール!?」
アズールは自分に気付いた。
1年ぶりだというのに、自らの手元のわずかな灯りで良く気付けるものだ。
そんなことを考えていると、アズールは何を思ったかこちらに向かって走りこんできた。
「フルールウウウゥ!!!!!!」
その顔は怒りに満ちていた。
当然だろう。まさに目の前で父親が殺されようとしているのだ。
だがアズールは自分に掴みかかり、怒りのまま叫んだ。
「なぜお爺様を見殺しにしたあああっ!!!お前は従者だろう!!!なぜお爺様を助けようとしなかったああああ!!!!」
アズールは泣いていた。
なぜ自分の祖父が殺されなければならなかったのか。
なぜ誰も助けることができなかったのか。
なぜ自分は傍にいなかったのか。
様々な気持ちがせめぎ合い、それがフルールに怒りと悲しみの咆哮を浴びせかけた。
フルールも同じであった。
どうしてじいちゃんは死んだのか。
どうして俺は傍にいることができなかったのか。
どうして助けてあげられなかったのか。
自らを投影したかのようにアズールを見つめ、フルールは祖父の死を知ってから、初めて泣いた。
自分の胸で泣いている弟を抱きしめながら、フルールもまた思い切り泣いた。
それはまるで降りしきる雨のように。
「やめなさい、アズール。その男は親父殿とは1年も前に離れている。今回のこととは一切関係がない」
空気を割って入ったのはランドだった。
「小僧、もう帰るがいい。アズールが気付いたのだ。すぐに警備がやって来る。そうなればお前を殺さなければならん」
ランドはアズールをフルールから離し、そう言った。
「俺は、まだ、聞いてない」
フルールは声にならない声で、それでもなお祖父の仇を知ろうとする。
「……俺は貴様の祖父のことなど知らん。町に帰るがいい」
これ以上は何も話すことがないという風に、ランドはフルールに背を向けた。
今なら攻撃が当たる。フルールはそう考えたが、ランドとアズールの姿を見て、やめた。
泣き顔もそのままに、窓から外に身を乗り出そうとしたとき、背後から何かが飛んできた。
フルールはとっさにそれを受け止める。
ずしりと手にかかる重さは馴染みがあるものだった。
「それは最近我が家に届いたものだ。使える者がいなくてな。剣はやれんが、それをやろう。お前なら使えるはずだ」
それは紛れもなく、自分の斧とおそろいの、祖父の斧だった。
懐かしい祖父の顔が浮かぶ。
フルールはその柄を固く握り締め、何も言わず窓から身を放り出し、走り去っていった。
その姿が見えなくなるまで、ランドは窓から外を見続けていた。
■
どのくらい走っただろうか。
降りしきる雨がやみ、やがて太陽が顔を出し、それが沈み始めるころに、フルールは祖父と暮らしていた山小屋までたどり着く。
ここまで来る間に幾多の魔物に襲われたが、ことごとくを両手の斧で屠ってきた。
そのためフルールの全身は雨と、土と、血で、汚れていない箇所が一つもないような状態であった。
倦怠感が全身を蝕む中、小屋に入ろうとすると、中に人の気配を感じる。
それは自らがよく知っている人間のものだ。
それが分かり、フルールは無造作に小屋の中に入る。
中では、泣きそうな顔をしたノルンが待っていた。
「よく、ここが分かったな」
俺はそう尋ねる。
ノルンに教えたことはなかったはずだが。
「キリクさんに聞いた……」
そうか。じいちゃんだな。
用意周到だよ、全く。
「どうするの…?」
ノルンはそう聞いてくる。
「じいちゃんの仇をとる。殺した奴を見つけ出して俺が殺す」
そう告げる。
「おじいさんとの約束はどうなるの…?」
死んだ人間は約束なんか守れない。
「今更約束を守ったって、じいちゃんには会えない。王都に行く。だからチームは解散させてくれ」
俺は王都でじいちゃんの仇を討つつもりだった。
「フルール君一人じゃ、無理にきまってる…」
無理でもいい。相手が国だろうと誰だろうと、関わったやつを全員殺す。
「フルール君がいない間に、ギルドを使って調べてみた…情報が巧妙に隠蔽されていて詳細は不明だったけど…おじいさんが死んだ原因は、分かった……」
ノルンのその言葉に俺はすぐに反応した。
「教えてくれノルン!!!!!!どうしてじいちゃんは死んだ!!?」
俺の剣幕に気圧されながらも、ノルンは語ってくれた。
じいちゃんは俺と別れた後、誰かの手引きで第三王女と面会し、その後ろ盾となったらしい。
アーリオ王国の王と王妃は長く病に臥せっており、現在王国を主導しているのは第一王女、第二王女それぞれの腹心である二人の大臣であり、私利私欲を満たすための政策によって国は相当疲弊しているというのだ。
第三王女はそのような現状を少しでも改善しようと動くが、何の後ろ盾もないばかりか、自らの命を狙われることも多く、もはやクーデターによる改革しか事を成すことはできないと判断した。
そんな折にタイミングよく、元地方領主であったじいちゃんが現れ、その求心力により反王政団体を結成し、クーデターの準備を秘密裏に進めていたらしい。
結果は今回のとおりだ。
クーデターは未然に防がれた。
首謀者である第三王女は幽閉、陣頭指揮をとっていた元地方領主ザラート・ルールは処刑、第三王女付きの騎士団は解散。
ただ、もはや隠居していた身でもあり、大戦の英雄でもあったじいちゃんは秘密裏に処刑され、ルール家が取り潰されることはなかったらしい。せめてもの温情ということだ。
なぜクーデター計画が事前に漏れたのかは不明であるとのことだ。
「じいちゃんはこの国に、王に、王妃に、王女に殺されたんだな」
話を聞き終わった俺は、まっすぐにノルンを見た。
「下手人という意味では違うけれど…フルール君が仇をとりたいなら、それら全部が敵になる…」
ノルンは悲痛な面持ちで告げる。
国全てを敵に回すということ。
じいちゃんですら勝てなかった相手に、勝たなければならないのだ。
それがどれほど無謀なことか、ノルンは既に理解している。
だからこそ、あらためてフルールに問う。
「フルール君は、どうするの…?」
決まっている。
「ノルン、俺はじいちゃんの仇をとる。国を、倒すよ」
俺はまっすぐにそう告げる。
「だからノルン、協力してくれ。お前が必要だ」
一人では不可能だ。
ノルンを巻き込んだとしても、俺は……
「前にも言った…私たちはチームだから…生きるのも、死ぬのも一緒なの……」
ノルンは、今日初めての笑顔で快諾してくれる。
「ありがとう……ノルン」
俺もその笑顔につられて、笑いながら礼を言った。
二人とも少し照れながら、笑いあう。
ここ数日緊張しきっていた身体が緩み、途端に床にへたり込んでしまう。
思っていたよりもだいぶ酷使していたらしい。
「まずはしっかりと休まないとな。事を進めるのはそれからだ」
俺はノルンにそう告げる。
これから色々と準備をする必要があるのだ。
「フルール君には…何か考えがあるの…?普通のやり方じゃ、到底王政転覆なんて無理……」
ノルンにはフルールに協力することに迷いはない。
だがクーデターなどと大きな事を成すためには、こつこつと準備をするような方法では成し得ないことも理解している。
だから俺は安心させるように、ノルンに語りかける。
「大丈夫だノルン。方法なら考えてある。前にノルンが教えてくれたんだぜ?」
俺の言葉に、ノルンはきょとんとした顔をする。
「前に言ってたろ?冒険者1級になれば、王族と会えるってさ。俺達なら、できる」
俺のその言葉に、ノルンは思い出したかのように、はっとする。
それはフルールが冒険者として登録するときに、自らが語ったことであったからだ。
「確かにそう…冒険者1級ともなれば、過去に数人しか成し遂げていない偉業…現在のアーリオ王国には一人も存在していない…それが成し得たなら、間違いなく、王族と面会ができる…」
そう。
普通のやり方ではクーデターなど不可能だ。
なら、俺達にしか出来ない方法を取るまで。
「でも、王族と面会ができたからと言って、確実にその場で殺せる保証はない…それに万が一成功したとしても、上の首がすり替わって結局は元に戻る可能性が高い……」
ノルンのその言葉は最もなものだ。
俺も考えなかった訳じゃない。
だから俺は。
「言ったろ?俺達ならできる。俺たちにしか、できないんだよ」
その為に俺は。
「どうせなら、魅力チートでいこう」
そう言って俺は、ニヤッと笑った。