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岐路2

すいません。この話でプロローグが終わる予定でしたが、思ったよりも長くなりそうなので一旦切ります。

もう少しお付き合い下さい。

 「今のが最後の一匹か?」

 俺は辺りに魔物の姿がないことを確認し、隣のノルンにそう尋ねる。


 「…待って……うん、もうこの辺りには、一匹もいないと思う…」

 ノルンのその言葉に俺は安堵する。


 今回の依頼は港町キヌサから隣の町カガグワに向かう山越えルートに黒舌山羊の群れが出たため、退治してほしいという商業組合からのものだった。

 通常キヌサからカガグワへは、平地を通っていくルートで向かえば、かなり大回りにはなってしまうが比較的安全に通行することができる。しかし今回の山越えルートを使えば、距離としてはおよそ三分の一程度に短縮できる。そのため山越えで移動速度が落ちるとはいっても、相当数の利用者がある。

 ただその分、あまり人の気配がない場所には魔物が沸きやすく、この山越えルートも例外ではない。

 といっても、せいぜいが角兎や大鼠であったのだが、そこに今回黒舌山羊の群れの出没が確認されたのだ。

 黒舌山羊は単体ではそれほど脅威ではない魔物だが、恐ろしいのはその繁殖力だ。

 1匹見つけると、10日後には1000匹ほどに増えることもあるため、商業組合は早急な解決のため、冒険者ギルドに緊急依頼を行うことを決定した。

 依頼ランクは4級。冒険者ランク4級が求められるものであった。

 カガグワにも冒険者ギルドはあるものの、4級以上の冒険者は在籍しておらず、港町キヌサの4級以上の冒険者は現在3人。そのうちの一人であるキリクは現在別の依頼で王都に出ていたため、フルールとノルンが受けることとなった。


 「まだ増えきってなくて良かった。これ以上数が増えてたらちょっと危なかったな」

 俺はそう言いながら、息を吐き、地面に腰掛ける。

 黒舌山羊が発見された次の日には、二人は討伐のために山に入ったのだが、その数は既にかなり増えており、およそ100匹程度確認することができた。これはいくら4級冒険者が2人いたとしても、個別撃破するのはかなり時間を取られる。

 そこで今回二人が取ったのは追い込み漁のようなものである。

 ノルンが炎の魔法を使い平原まで黒舌山羊を誘導し、フルールがそれを仕留めるという至極単純な作戦ではあったが、一定の効果はあったようで、辺りには黒舌山羊の姿はなくなっていた。


 「念のため…今晩はここで野営をして、明日まで様子を見るのが良いと思う……」

 「そうだな。もし討ち漏らしがあれば、今回の依頼は失敗になっちまう。なら少し休んでから野営の準備をするか」

 俺はノルンの言葉に同意をする。

 荷物から水筒を取り出し、残っていた水を飲み干す。

 そうして息を整えながら、考えに耽る。


 思えばいつの頃だったか。

 冒険者ギルドで受付をしていたノルンと、チームを組み始めたのは。

 




 『おめでとう、任務達成…。これで、冒険者ランクは7級に上がることになる…』

 『ようやく7級か。なあノルン、もっと一気にランクを上げられるような依頼って、ないかな?こんなんじゃ王都に行くのがいつになるのか分からんくなる』


 俺がそうぼやくと、ノルンは厳しい口調で返す。


 『…もう、忘れたの?先月、フルール君は私がいない時に勝手に4級依頼を受けて、大怪我をして帰ってきたこと…。キリクさんがいなければ、フルール君はあの時、死んでいたはず……』

 『覚えてるよ…確かにあの時キリクさんが来なきゃ、やばかった。でも、あれから俺もずいぶんと成長したんだぜ?今なら、4級依頼だってこなせると思う』

 俺は先月のことを思い出す。

 じいちゃんと別れてから2ヶ月。思っていたよりも冒険者ランクを上げるには時間がかかり、ようやく8級になったところだった。

 魔物自体に手こずることはないのだが、冒険者としての知識不足、周囲との連携、そういったものが圧倒的に欠けていたために、なかなか冒険者ランクを上げることができずにいた。

 そんな折、一枚の依頼書が目に留まった。

 単純な、討伐以来。村の近くの森で出た魔物を退治してほしいというものであった。依頼ランクは4級ではあるものの、魔物の数は一匹であり、自分にうってつけだと思い、口うるさいノルンの目を盗み受注したのだ。

 

 結果は散々なものだった。

 魔物の特性が分からなかったばかりに奇襲を受け、森の中で動けなくなってしまった。

 一旦森に身を潜め、回復してからもう一度仕掛けるつもりであったが、どうやら受けた傷から毒が入っていたらしい。3日経つころには、満足に立つことすらできなくなっていたのだ。

 そんなとき、例の魔物が目の前に現れた。

 ああ、ここで終わりか……そう覚悟したが、突然キリクが飛び込んで来た。

 キリクは魔物を退けたあと、毒消しを使って俺を回復させ、俺を背負い町まで帰ってきた。

 俺が依頼を受注してから戻ってきていないことに気付いたキリクは、俺を助けに単身森まで入ってきたのだった。

 

 俺は次の日には毒も抜け切り、あらためてキリクにお礼を言いに向かった。

 当然こっぴどく怒られたのだが、俺はそのときにはもう次の依頼のことを考えていた。

 それからはあまり無茶な依頼はせず、簡単な依頼を数をこなすことで、冒険者ランクを上げようとした。その結果、ようやく7級に上がることができたのだが、思うように上がらないという気持ちに変わりはなかった。


 『あなたは分かっていない…自分の無茶でキリクさんの命も危険に晒した…そんなことでは、上級ランクの依頼を受けさせる訳にはいかない……』

 ノルンはギルドの受付であり、その権限には冒険者がその依頼を達成できないと思えば、依頼を受けさせないことも含まれている。

 

 『分かったよ…悪かった。キリクさんにも悪いとは思ってる。俺でもできる7級の依頼って、何かあるか?』

 俺は観念し、素直に謝った。

 

 ノルンはわずかに笑顔を見せ、依頼を探すが、ふとその手が止まる。

 『…早く冒険者ランクを上げる方法なら、ある……』

 その言葉に、俺は即座に反応した。

 『本当かよ!?それって、俺でもできる方法か…!?』


 ノルンは軽く頷き、話を続ける。

 『誰でもできる方法…単純な話……チームを、組めばいい…そうすれば、達成できる依頼の幅も広がる…いまのフルール君が早くランクを上げようと思うと…それしかない……』


 ノルンの言葉に、俺は期待していた気持ちが崩れていくのが分かった。

 『ノルン…それは無理だ。キリクさんは俺とチームは組まないよう、じいちゃんから言われてるんだ。俺だって一度はそう考えたさ』

 『冒険者はキリクさんだけじゃない…フルール君は少し考えが狭い……』

 『んなこと言ったって、ほかの冒険者はみんなチームを組んでるし、第一俺みたいな若い奴を組みたがる冒険者なんていねえよ』

 そうなのだ。

 いくらチームを組みたくても、単純な話、新参の俺はチームを組めるような相手が存在しない。

 そのため単独でできる依頼しか受けることができないのだ。


 しかしノルンは驚きの言葉を告げる。


 『…私がフルール君と組む…これで解決……』


 その言葉に俺は目を丸くした。

 『はっ?いや、お前、ギルドの受付員じゃねえか』

 『こう見えても、冒険者ランク6級を持ってる…炎の魔法と…簡単な治癒魔法があるから…以前はたまに冒険者に同行することもあった……』

 そう言って無い胸を張るノルン。


 『ギルド職員が冒険者ランクを上げるなんて、ずるじゃねえか…』

 俺のその言葉にノルンは反論する。

 『それは間違い…ギルド職員には幅広い知識や実力が要求される……むしろ冒険者に同行して、冒険者ランクを上げることは…ギルドも推奨していること…』

 そう言って机の下からギルドカードを取り出す。

 そこには確かにノルンの名前と、6級であるという印が押されていた。


 マジかよ…俺より上なのか、こいつ。

 俺は現実を突きつけられて凹む。


 『どう…?フルール君にとって悪い話じゃないはず……』

 『どうって、そりゃ…大歓迎だろ、そんなの』

 俺は素直な気持ちを吐露する。


 『俺より経験豊富で魔法だって使えるってんなら、大助かりだ。でもノルン、お前にメリットがない。俺は何をすればいい?』

 『メリットならある…私はフルール君が心配だから…近くにいれば安心……』

 ノルンはそう言って、頬を赤らめる。


 その言葉を聞いて、俺は一つの決心をする。


 『ノルン…どこか空いている部屋で話がしたい。いいか?』

 真剣な表情でノルンにそう告げる。


 ノルンも、何かしらを察したようで、コクンと頷き、空いている部屋へ案内してくれる。

 そこは机と椅子だけがある簡易的な応接室だった。


 向かい合うように椅子に座り、話を続ける。


 『ノルン、これから話す話は、誰にも言わないと約束してくれるか?』

 俺の言葉にノルンは、当然だとばかりに頷く。

 

 俺は意を決して、自分の体質の話を伝える。俺は女性を魅了してしまう体質であること。今のノルンの状態はそのせいであること。なので、俺が手ぬぐいで顔を完全に隠し、魅了の効果を切ってもまだ同じ気持ちでいてくれるのなら、チームを組んでほしいこと。

 

 『…私の気持ちに偽りはない…試せばいい……』

 ノルンは俺の話を全て聞いたうえで、姿勢を正して俺を見る。


 俺は、顔に巻いている手ぬぐいを少しだけほどき、頭全体を覆うように巻きつける。


 ……

 ……

 …

 

 『ノルン?何か…変わったか…?』

 俺はおそるおそる、聞いてみる。


 少し間をおいて、ノルンは答えた。

 『…変わった。こんなことになるなんて……』


 その言葉を聞いた俺は、ああやっぱりな、と思った。

 やはり俺の体質は人の気持ちすら偽る、最低のものだ。

 そのことをあらためて気付かされ、俺は落胆する。


 ところがノルンは、こう続けたのだ。


 『フルール君の頭がこんなことに…手ぬぐいが頭を覆っている姿は…とても面白い…シュール……』

 そう続けて、堪えきれずにクスクスと笑い始めた。


 『えぇっ?…って、そんなことじゃねえよ!チームを組むって気持ちは…』

 『全く変わってない…私がいないとフルール君はやっていけない…安心して身も心も委ねなさい……』

 ノルンはそんなことを言い出した。


 俺はまたしても驚く。

 そうして手ぬぐいを元に戻して、あらためて尋ねる。

 『ってことは、ノルンは、初めから魅了にかかっていなかったのか…?』

 

 『初めてフルール君の姿を見たとき…自分の気持ちが急に湧き上がったのは分かった…おそらくあれが、魅了の効果…自分でもびっくり……』

 ということは、やはり魅了はしっかりと発現していたのだ。

 ではなぜ今は効果がない?


 『いまなぜ効いていないかは簡単なこと…そんな体質ではなく、フルール君自身に、私が魅了されてしまった…』

 ポッと顔中を真っ赤にし、ノルンはそう言った。


 その言葉に、俺も思わず顔が赤くなるのが分かる。


 それから二人で笑いあい、あらためてチームを組んでもらえるよう、俺からお願いをした。

 ノルンはもちろん快諾してくれた。





 「あれからもう10ヶ月くらいかあ」

 俺がそう呟くと、隣で水筒のふたを閉めていたノルンが反応する。


 「…チームを組んでから?」

 「そうそう。早いなって思ってさ」

 「うん…あっという間だった…私もギルドを辞めて冒険者に専念したことで…まさかこの短期間で4級に上がれるとは思っていなかった…自分の才能が怖い……」

 そう言ってノルンは顔を赤らめる。


 ランクの上がりがって意味じゃなかったのだが、俺は同意する。

 

 あれからノルンはすぐにギルドを辞め、俺とチームを正式な意味で組んだのだ。

 その事は俺を含め、ギルド中の冒険者が驚いた。

 中には泣いている冒険者も数多くいたっけ…

 それと同じくらい殺気の篭った目で俺を見てくるやつもいたが…


 「そうだな。ノルンの言うとおりだったよ。おかげで、1年足らずで二人とも4級に上がることができた。今回の討伐依頼で、3級に上がるかな?」

 期待を込めた視線でノルンを見るが、ノルンの表情はそれを否定していた。


 「それは無理…3級になるには、少なくとも一度は3級依頼が必要…滅多に出るものじゃないから、気長に待つしかない…」

 「だよなあ。それに3級依頼を成功させたからって、すぐに上がれるわけじゃないしな」

 「そのとおり…だからこそ、今のうちに少しでも4級以下の依頼を多く達成して、3級依頼が来るときに備える…そうすれば、最短距離でフルール君はおじいさんに会える……」

 そう言ってノルンは立ち上がり、辺りに散らばっている黒舌山羊を魔法で焼却しはじめる。


 俺はそれを横目に、設営をするために、ようやく腰を上げた。


 もう少しだ。


 思ったよりも早く、約束果たせそうだぜ、じいちゃん。







 次の日、港町キヌサに戻り始めた俺たちは、昨日の戦闘について話をしていた。


 「あそこで一発もらっちゃったときに、少し体勢が崩れて危なかったんだよなあ」

 「うん…それに怪我が無かったのは、その服の下の防具のおかげ……」

 そう言ってノルンは俺の腹の辺りをじっと見る。


 この服の下には、モモイロの木を薄く剥いだものを何重にもした簡易的な鎧が着込まれている。

 これは昔じいちゃんが作ってくれた特別なもので、そこらの防具なんかよりはよっぽど硬く、また軽いため、重宝しているのだ。


 「私も…同じのが欲しい…」

 ノルンの物欲しそうな目に、俺はたじろぐ。


 「これは、あげられないぞ。俺が同じもの作ってあげられりゃいいんだけど、俺じゃこんなに薄く作れないんだよな・・・着膨れしてもいいなら、似たようなの作ってやるぞ?」

 俺はニヤっと笑い、ノルンに問いかける。

 

 「むう…着膨れは嫌だ…フルール君はずるい…力も強くてカッコよくて…チート……」

 俺は聞きなれない言葉に思わず言葉を返す。

 「ちいと?なんだ、それ」


 「なんでも最近他の大陸から流れてきた言葉らしい…性能が良すぎてズルイ…みたいな意味だと思う、たぶん……」

 ノルンもよく分かっていないみたいだ。


 「いや、何もずるくないだろ。俺は小さいころから精一杯努力してさ、この力を身に付けたんだぞ?魔力なんか同じくらい努力しても、全然使い物になってないのにさ」

 俺は心外だとばかりに言い返す。


 「そうだった…ならフルール君はチートじゃない…でも、羨ましい…」

 そう言ってノルンは自分のぷにぷにとした二の腕を見る。


 「良かったらノルンにも、この斧貸すぞ?これ使えば、すぐに力なんか付くさ」

 俺は背負っているミスリルの斧をチラッと見る。

 簡単そうに背負ってはいるが、その実、大人3人ほどの重量がある。


 「…いい。一生かかっても、無理……」

 ノルンは呆れたようにそう言った。


 


 ようやく町の入り口まで戻ってきたとき、辺りは夕暮れ近くになっていた。

 町に入るための門の前には、入場待ちの列がずらっとできている。


 「いまからあの列に並ぶのかと思うと、気が滅入るな…」

 俺の言葉にノルンも頷く。


 「本当にそう…でも、仕方ない…」

 そう。仕方ないのだけれども。

 ため息を吐きながら、俺たちは列に加わる。


 ボーっと列が進むのを眺めていると、後ろに並んでいた商人達の話が聞こえてくる。



 「聞いたか…?王都の一件を…」

 「ああ。第三王女派が秘密裏にクーデターを画策していたが、寸前でつぶされたって話だ」

 「なんでも、第三王女は隔離されて軟禁状態、王女付きの騎士団は責任の有無に関わらず解散だって?」

 「それだけじゃないぞ。陣頭指揮をとっていた貴族は、責任を取らされる形で処刑されたって話だ。相当無残な死に方だったってよ。なんでも、生きた状態で死ぬまで肉を削がれ続けたんだとか…」

 「ひえ、かわいそうにな…担ぐ神輿を選び間違えたか…」

 「いやいや、第三王女は一番の良識派だぞ。普通の感性の持ち主なら、あの気狂い第一王女や、人形第二王女なんか選びやしねえよ」

 「声が大きいぞ…ちなみに、その責任を取った貴族は、かなりの大物なんだろ?知ってるのか?」

 「情報は入ってる…誰にも言うなよ……?」

 「分かってるって…もったいぶらずに教えろよ」



 「ザラート・ルール伯爵……元々はここらの領主様だったお方だとよ…」


 

 俺には、確かにそう聞こえた。

以前に、じいちゃんは自身のことを先代伯爵だと言っていましたが、貴族社会では貴族位の生前贈与は認められていないため、実際のところ現状は息子が伯爵代理という形式を取っています。

見直しはしっかりとしているつもりですが、齟齬があれば感想等で教えて頂ければ幸いですm(__)m

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