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両親

応援ありがとうございます。

おかげさまでランキング入りを果たせました。

これからも頑張ります。

 太陽が水平線から頭を出し始める早朝、山育ちだからか、自然と目が覚める。

 普段と違うベッドで寝たせいか、身体が少しこわばっている感じがして、体を起こした体勢で大きく両腕を上に伸ばす。


 ふと寝るときは空いていた隣のベッドに目をやると、そこは空っぽのままだった。


 いや、よく見ると少しシーツが乱れているので、じいちゃんが遅くに帰ってきて、俺より早く起きたのだろう。

 15年も一緒に住んでいるが、俺より遅く起きたことは一度もないんじゃないかと思う。


 そんなことを考えていると、廊下に繋がる扉が開き、じいちゃんが顔を出す。


 「おお、起きたか。おはようフルール」

 「おはよう、じいちゃん。昨日は遅かったみたいだな」

 「まあ色々と済ませることもあってのう。さて、起きたんなら裏で少し体を動かさんか?」

 これもいつものことだ。

 俺は物心ついた時には、既に毎朝じいちゃんと特訓することが日課になっていた。


 「いいけどさ、ここにそんな広いとこあるの?」

 俺たちの特訓は剣から魔法、筋肉の鍛錬まで幅広い。

 山の中ならともかく、街中であまり派手にやるのは都合が悪い気がする。


 「なに、動かなければ平気じゃよ。今日は魔力放出の特訓じゃ」

 「まーた、そんな俺の苦手なもんを…今日でじいちゃんとはしばらくお別れなんだからさ、最後くらいもっと優しいやつにしようぜ」

 そう、俺は小さい頃からじいちゃんに魔法教育は受けてきたものの、自分で魔法を使うことに関してはほとほと才能がなかったりする。

 身体に魔力を纏わせて相手の魔法の威力を弱めたり、魔法理論なんかは得意なんだけどな。

 

 「お前の場合、魔力操作は得意じゃが、魔力量はお子様並みじゃからのう。じゃが、魔力放出を定期的にやっておくことで、少しずつではあるが魔力量は上がっていくもんじゃ。今は魔法が使えんくても、大人になる頃にはきっとできるようになっておるぞ」

 そうなのだ。俺は保有魔力量が圧倒的に少ないため、どうしても魔法が使うことができない。

 じいちゃん曰く、魔力量は生まれ持ったものだけでなく、努力次第で後天的に大きく伸ばせるというが、それにしたってこの10年、一度も魔法が成功した試しがない。


 「それなんだけどさ、俺はもっとパーッとさ、一気に魔力量をあげるような修行のほうが向いてるんじゃないかな?」

 「アホたれめが。死ぬか気が狂うかのどっちかが関の山じゃ。千里の道も一歩からという言葉を知らんのか」

 にべもなく、じいちゃんに却下される。


 こんな効果が本当にあるのかどうかも分からない特訓をしなくても、実は魔力量を飛躍的に増やせる方法は存在する。

 昔じいちゃんが旅の土産に持って帰ってきてくれた古い魔道書に書いていたやり方だ。今では危険すぎて誰もやらないようなことを、昔の人々は嬉々として実験し、それこそ大魔道師と呼ばれるような人物だって誕生したらしい。


 「分かってるよ。言ってみただけだってば。じいちゃんに思い切りぶん殴られたからさ、それきりトラウマだよ」

 実は数年前にこっそりと試したことがある。

 やり方は単純で、魔物の核である魔石から魔力操作で魔力を直接取り出す。これだけ。

 俺は魔力操作は得意だったから、質の悪い魔石を実験に使ってみて、じいちゃんを驚かせようとしたのだ。

 

 結果を言うと、大失敗だったね。

 確かあのときに使った魔石は角兎の魔石で、親指の爪程度の大きさで、色もくすみきった劣悪なやつだ。

 ただその分魔力もほとんど溜め込まれていないため、安心しきっていたのだが、魔力操作で魔力を取り出して身体に入れた途端あまりの痛みにぶっ倒れて、3日は起きなかった。

 あんときのじいちゃんの拳骨は、思い返すだけで震えが出るぜ…


 「ほれ。ならさっさと支度をせんか」

 「ああ、これだけ持って行くよ」

 俺はそう言って、手ぬぐいを顔に巻きつけた。

 なんだかんだ昨日は騒ぎになることもなかったが、油断禁物だ。

 特に俺はこれからこの町でしばらく生活していくのだから、今のうちに癖付けておいたほうがいいだろう。

 

 しっかりと顔に巻いたのを確認し、じいちゃんの後を追って部屋を出た。


 

 結果から言うと、以前と比べて魔力量は上がってはいたものの、魔法として発現できるほどではなかった。

 俺って、魔法の才能ねえなあ…







 「じいちゃん、今日は王都に行くための準備に使うんだろ?俺はどうすんだ?」

 昨日じいちゃんは確かそんなことを言っていたと思う。

 もし別行動だとすると、もうじいちゃんと別れることになるかもしれないのだ。


 「お前も一緒に付いて来い。大事な用があるでの。昨夜のうちに馬を用意しておいたから、一頭使え」

 じいちゃんはそう言いながら宿の厩舎があるであろう方向へ歩いていく。


 「馬って…どこまで行く気だよ?」

 前をいくじいちゃんの背中に声をかけるが、じいちゃんははぐらかすように言った。

 「ま、行けば分かるわい」

 なんだそりゃ。


 「ただ、フルールよ。何があっても暴れたりせんようにな」

 「な、なんだよ。そんな怪しいところに連れ込むつもりかよ?」

 「おう怪しいぞ。わしだって近寄りたくない場所じゃからの。今のお前なら大丈夫じゃろうと思って連れて行くんじゃ」

 じいちゃんがそんな風に言うのは珍しい。

 だが俺だって危険な山の中を遊び場に育ったんだ。少しくらい怪しかったって、なんとかなる鍛え方もしている。

 

 「事前に知っておけば平気だよ。さっさと行こうぜ」

 俺はそういって軽く手綱を振り、馬を歩かせる。


 じいちゃんはなぜか何も言わず、じっと後ろから俺を見ていたが、思い立ったかのように先を行きだした。







 「ほれ、見えてきたぞ。あそこが目的地じゃ」

 

 海沿いをしばらく走らせると、遠くのほうの岬にポツンと一軒の館が見えてきた。

 遠くからでも大きく、それでいて洗練された建物であることが分かる。

 街から遠く離れているというのに、頻繁に手入れもされているようだった。

 しかしあの建物はどうみても……



 「なあ、じいちゃん。あれって、貴族の持ち物じゃねえの?」

 俺は併走しているじいちゃんに聞いてみる。


 「そうじゃぞ。あそこは、我がルール家の夏の間の別荘地として使われる邸宅じゃ。ま、つまりわしの持ち物だったもんじゃな」

 じいちゃんは何でもないような顔でそう言う。


 「もんじゃな…って、それって、伯爵家の家ってことだろ…?俺が付いていってもいいのかよ?」

 俺は昨日のじいちゃんの言葉をあらためて思い出す。

 じいちゃんの本当の名前はザラート・ルールであり、この広大なルール領の元領主だったというものだ。そして俺の親が現ルール伯爵だっていうんだから、山育ちの俺だって多少なりとも驚くってものだ。


 「大丈夫じゃないかもしれんのう…わしと違って融通がきかんからな…」

 「それ絶対やばいパターンだろ!!てか、つまり俺の親があそこにいるってことだろ!?その気もないのにいきなり親子の対面かよ……俺外で待ってちゃ駄目か?」

 「ここまで来ておいて、往生際が悪いぞ!!観念せい!!なーに、意外と感動的な親子対面になるかもしれんて」

 「いや、15年間息子に会いに来ない時点でお察しだから」


 いつもの調子でやり取りをするものの、正直俺はこの時点で町に帰りたいと思ってた。

 そりゃあ、じいちゃんから俺の父親の話を聞いたときは驚いたものの、だから何?って感じだ。

 現実に俺はじいちゃんに育てられ、両親の顔すら知らないわけだ。

 今更顔を見たいとも、正直思ってない。

 向こうだって、俺は平民との間にできた子で、一度は捨てた子供だ。俺に対して親としての感情があるとも思えない。

 

 「それにの、あそこにおるのはお前の父親だけじゃ。じゃからその心配も半分ほどで済むぞ、良かったの」

 「そんな単純な話かよ!!…俺の母親は、やっぱり平民だったから、もう一緒にはいないってことか。俺の父親だったとしても、そんな奴には会いたくないけどな…」


 俺のその言葉を聞いたじいちゃんは、馬を走らせながら器用に横から俺の頭を撫でる。


 「…お前の父も母もな、お前のことを捨てたわけじゃない。むしろ逆じゃよ。本当のことを言うとな、わしがお前をあの二人から奪ったのじゃ。じゃからお前が両親を憎く思うのなら、まずわしこそが責められるべきじゃ」

 

 俺はじいちゃんの言葉に驚く。

 確かに昨日は詳細を話してくれた訳ではなかった。

 それでも、俺は勝手に両親が俺を捨てたのだと思っていた。そしてそれを、じいちゃんが拾い、育ててくれたものだとばかり…

 

 俺はじいちゃんの顔を見る。

 じいちゃんはどんな思いで俺を育て、今日、どんな気持ちで俺をここへ連れてきたのか。


 じいちゃんは、いつもと変わらないように見えた。


 





 「止まってください」


 館に近づき、門の前まで馬をつけると大柄な兵士が3人、門の前に陣取っていた。


 「この館はルール伯爵様の持ち物です。許可なく立ち入ることはできません。もしお約束がおありでしたら、その証を見せて頂きましょう」

 この人は隊長格なのだろうか。他の兵士と比べ、一際鍛えられているであろう男が、じいちゃんに向かってそう話しかける。


 じいちゃんは黙って腰から剣を抜いた。

 それはごく自然な動作で、一瞬、目の前で剣を抜かれたことに兵士たちは気付くことができなかった。

 わずかな間のあと、ギョっとした兵士が慌てて腰の剣を抜こうとするが、じいちゃんに話しかけた男がそれを言葉で制する。


 「抜くな!抜けば不敬にあたるぞ!この紋章、間違いありませんね。おかえりなさいませ、ザラート様。息子様…ランド様は既に中でお待ちです」

 男はそう言って、門を開けるように他の兵士たちに指示をかける。


 なるほど。

 じいちゃんのあの剣はそのために持ってきたものか。

 いきなりやってきて、わし元領主ですこんにちは!なんてやろうものなら、比喩でなく首が飛びそうだもんな。


 じいちゃんは堂々としたもので、威厳を漂わせながら門の中に入っていく。

 俺も当然それに続こうとするが、兵士が(えっ、この顔を隠した怪しいのも入れちゃってもいいわけ?)みたいな顔をしているのに気付く。

 まあ当然の反応だろうが、そこを俺は無視して中に入る。

 じいちゃんが何も言わないところを見ても問題ないんだろう。


 そのまま門を抜けて、少し奥まった館の扉の前まで馬で乗りつける。


 あらためて見ても、でかい館だ。

 これが夏だけの別荘地だってんだから、やはり伯爵家というのはすごいものだ。


 俺が物珍しさからキョロキョロとしていると、ほどなくして目の前の扉が開き、やがてその奥から一人の男が現れた。


 豪華な服を着てはいるが、よく鍛えられているであろう体が服の上からでも良く分かる。


 歩く仕草は重心が左右に一切ぶれないところをみると、余程体に染み込ませているのか。


 目線を上げて、顔を見ると…


 その男は、じいちゃんを若くしたような顔をしていた。


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