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悪巧み

たくさんのブックマークありがとうございます!

なんとか0時に間に合いました。

 ギルドの受付から左手に奥に進むと大きな扉があり、その奥が修練場となっている。

 パッと見たところは、味気ないただの広場だが、広さ自体はかなりのものだ。

 その至るところで冒険者だろう者たちが、訓練に勤しんでいる。


 「おう、来たか。いま場所作るからちょっと待ってな」

 キリクはそう言うと、周りの冒険者たちに声を掛ける。


 「悪いな皆!修練場は今から俺がこの坊主との決闘に使わせてもらうぜ!すぐ済むからちょっと離れててくれ!」

 キリクがそう声をあげると、修練場の中にいた冒険者たちが、修練場の壁の外に出る。

 この町唯一の4級冒険者だけあって、顔はなかなか広いようだ。


 「さて、と。こっちの準備はいつでもいいが、坊主はどうだ?」

 お互い修練場の真ん中で向かい合ったところで、キリクがそう聞いてくる。


 「その前に確認だ。俺はこの斧を賭ける訳だけど、あんたは何を賭けるんだ?」

 「おいおい、もしかしてそりゃ俺が賭ける物を聞いた後で、賞品が釣り合ってないとか理由をつけて決闘から逃げようって魂胆か?」

 キリクはニヤニヤと笑い、そう挑発してくる。


 酒場や受付付近にいた冒険者も全員が面白いものが見れるということで、修練場の周りに集まっていたが、その言葉を聞いて野次が飛び交う。

 「おーい、ガキ!今更ビビってんのかー!!」

 「ぎゃはははは!そりゃそうだろ!登録したての新人がキリクに勝てるわきゃねえ!あいつ、意外と賢いぜ!俺は応援するぞー」

 「ふん、キリクさんじゃなくても、あいつのノルンちゃんに対する態度は鼻持ちならねえ!キリクさーん!!早いとこやっちまってくれよ!!」

 

 はえー。みんな暇なんだな。これ、町中の冒険者が集まってんじゃないか?

 ただ、どいつもこいつも好き勝手言ってくれるねぇ。


 「まさか、そんな訳ないじゃん。俺が斧を賭けるんだから、そっちが何か賭けないと、決闘にならないじゃんか。後であれは決闘じゃない、無効だ、とか言われると嫌なんだよね。だからさ、そっちは銅貨1枚でも、いいんだぜ?」

 

 俺が挑発仕返しているとでも思ったんだろうか、キリクはさらに言葉を返す。

 「ほう、言ったな?なら、俺は銅貨1枚を賭けよう。男に二言は、ねえよなあ?」

 キリクはまたニヤニヤとこちらの気分を逆撫でするように笑う。


 「ぎゃははは!いいぞーキリクさん!!!」

 「おい坊主!!お前が言い出したんだから、今更撤回すんじゃねえぞーー!」


 俺は別になんでもないように言う。

 「ああ、いいよそれで。やりぃ。銅貨1枚儲けちゃった」


 俺のその声は、外野が騒いでいる修練場の中によくとおった。

 その言葉を聞いた周りの冒険者たちは、しんと静まり返る。


 「はん。威勢がいいのか、怖いもの知らずなのか。いいだろう、なら始めるか」

 キリクは少し意外に思ったようだが、腰からロングソードを抜き、隙なく構えた。


 「それって、どっちも同じ意味じゃねえの?知らねえけど」

 俺は背中から愛用の斧を取り、右手にだらりと下げる。



 「なんだぁ、あいつ。構えるってことを知らねえのか…?」

 「分かった。正々堂々とやって負けたら格好がつかねえから、負けたときの言い訳作ってんだ」

 「なーるほどな。小賢しいやろうだ。冒険者の風上にもおけねえ!」


 

 「いいのか?お前の評価がどんどん下がっていってるが?今からでも泣いてその可愛い顔を地面にこすり付けたら、許してやらんこともないぜ」

 「あいつらの評価なんて俺の人生において銅貨1枚の価値もないからね、平気さ。それよりあんたを倒せば確実に銅貨1枚が手に入るんだから、そっちの方がお得だろ」

 俺はそう言いながら、右手に斧をぶら下げ、無造作に距離を詰めていく。


 「はっ!!!いくらなんでもそりゃねえだろクソガキ!!」

 キリクはそう言うと、密かに唱えていた魔法を俺に向かって打ち出した。


 「燃えろやあ!!」

 左の手のひらから、炎が扇状に広がり、キリクの目の前まで近づいていた俺は全身を炎に包まれる。

 おー、熱い熱い…


 「はっ!もう終わりかよ!じいさんの戯言にちょっと期待しすぎたか…って!!!!なにっ!!?」

 

 「どうした?意外か?俺が無傷なのが」

 俺はそう言いながら、何事もなかったかのようにキリクの目の前に現れる。

 そして相手が驚きでわずかに硬直している間に、斧の側面をキリクにぶつけるように振る。


 「おわっ!!!!!!」

 キリクはとっさに剣の腹で受けたが、勢いを殺しきれず、修練場の端まで吹っ飛んでいく。



 「なあ、そこのおっさん。これって、10カウントで終わりとか、そういうルールってないの?」

 俺は斧を肩にかけ、一番近くにいたおっさんに尋ねる。


 「え……あ、ああ…そういうのは聞いたことがねえ…どっちかが負けを認めるか、死ぬまでやる。それが決闘だ…」

 「わかった。ありがと」

 

 俺はあらためてキリクが吹っ飛んだ先を見る。

 

 「なあ、死ぬまでやるつもりじゃないんだろ?俺のほうが強いってのが分かったんなら、負けを認めろよ」

 俺は立ち上がったキリクに向かってそう言い放つ。


 「…ちっ、嫌なガキだ。俺はなあ、負けるのは人並みに嫌いなんだよ!!」

 いま吹っ飛んだばかりだというのに、キリクはこちらに向かって全速で走りこんでくる。

 (速い…けど、それだけだ。灰牙狼よりやりやすいぜ)


 俺は向かってくるキリクに対し、斧を正面に構える。

 相手が上下左右どちらに変化しても対応するためだ。


 「そんな単純じゃねえんだ…よっ!!!」

 すると、キリクはまるで読んでいたかのように、まだ距離がある状態で右手のロングソードを俺に向けて投げてきた。


 (剣に魔法に投擲まで使うのかよ!!)

 俺はとっさに向かってきた剣の腹を、斧で上空にかちあげてしまった。


 (やばっ!)

 そう思った。

 キリクを見ると、剣を持っていなかったはずの左手に、いつの間にかショートソードが握られていた。


 「この距離なら防御も間に合わねえぞ!!!!」

 そう叫びながら左手のショートソードを突き出してくる。


 その切っ先が俺に当たる瞬間…

 

 『ガギッ』


 そんな音がして、ショートソードは斜めに弾かれる。


 「なぁっ!?中に何を着込んでやがる!?」

 キリクは驚愕の表情でとっさに声をあげる。


 「言うかよ!!!」

 俺はその隙を逃さないとばかりに、振り上げていた斧の柄を、キリクの首元に振り下ろし、そのまま振りぬいた。


 「がっ!!!!!」

 その勢いで、キリクの身体は地面に沈み、動かなくなった。


 「俺の勝ち…だろ?」

 倒れているキリクに向かってそう聞くが、キリクは応えない。


 「誰か、このおっさん運んでやってくれよ。治癒室くらいあるんだろ?」

 俺は周りで動きが止まっている冒険者たちに声を掛けた。

 その中の一人がこちらに走ってくる。


 「私が治癒魔法を使える。ここですぐに治療しよう」

 そう言いながら、呪文の詠唱に入るのはまだ若い女だ。

 腰にショートソードを下げているから前衛職かと思いきや、治癒魔法が使えるのか。


 「頼むわ。そのおっさんには賞品もらわないといけねえし、聞きたいこともあるからなあ」

 俺はそう言いながら、周りをきょろきょろと伺う。


 絶対にどこかから見てるはずだ…

 だいたいおかしいんだよ。

 このキリクっておっさん、曲がりなりにも4級冒険者なわけだ。

 そんな実績がある冒険者が、俺みたいな新人に喧嘩ふっかける理由なんて、あるか?

 この斧だって、使い慣れない武器なんか欲しがる冒険者なんかいないだろ。

 

 ってことは、だ。

 あのクソじじいがバックにいやがるに違いない…


 そう考えていると、修練場からギルドに入る扉が開いた。


 向こうにいたのは…

 


 「なんじゃ、もう終わったのか?」

 「終わったのか?じゃねえわクソじじい!!!なに孫に刺客放ってやがる!!!」

 「死角ですか?特にありません、無敵です」

 

 うわあ。うぜえ。殴りてえー。


 「なーに考えてんだよ、じいちゃん。あやうく火達磨になるとこだったんだぞ、俺は」

 そう言いながら、服に付いた煤を払う。

 

 「おかしいのう。わしの読みでは、接戦になったお主らが互いに最後の奥義を繰り出すところで、颯爽と止めに入り、じいちゃんの偉大さを知ってもらう作戦だったんじゃが…」

 「その前に孫が死ぬとは考えなかったんですかねえ!?しかもよりにもよってこの港町で一番ランクが高いやつを当ててきやがって!!偉大さどころか、憎しみを抱くわ!!!!」

 「いや、あやつくらいしか、ここに知り合いおらんし…」

 

 うわ、憎しみの次は哀れみの情が沸いてきた……


 くそ!老い先短い老人の孤独さを前面に出すのは卑怯じゃねえか!! 





 それから半刻ほどたち、治療が終わったキリクと俺たちはギルド併設の酒場で向かい合っていた。


 「いや、本当悪かった。このじじいが本気で殺しにかかれっていうもんだから、つい口調まで悪くなっちゃって…」

 そう言って頭を下げるキリクさん。

 「いえいえ、俺のほうこそ、すいません。じじいの企みには途中でうすうす気付いていたんですが、なにぶん負けず嫌いですし、キリクさんの動きがあまりに鋭かったんで、つい力が入ってしまって…」

 そう言いながら、俺も頭を下げる。


 「いやいやいや、俺がこのじじいの甘言に惑わされたばっかりに」

 「いえいえいえ、うちのじじいが本当にご迷惑を」

 「いやいやいやいや「いえいえいえいえ」いやいやいや「いえいえいえいえいえ」」


 「もう…ええか…?」

 黙って聞いていたじじいが青筋を浮かべながら、下から尋ねてくる。


 「いいわけねえだろじじい。ちゃんと事前に説明しとけや。あんたの孫がここまでやるとは聞いてなかったぞ」

 「ボケ老人。たった一人の友人を孫に殺させるつもりか。恥を知れ恥を」



 じじいはそれからしばらくの間、床で正座をし続けていた。

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