決闘
「…俺か?」
明らかに俺に向けて声を掛けているが、あえてそう聞いてみた。
「そうです…私が受付しますので、こちらに並んで下さい…」
女の子は、小さいがはっきり聞こえる声で、そう言った。
すると途端に周りが騒がしくなる。
「おい、いったい何が起こってる…?」
「わ、わからん…あの鉄壁ノルンが、自分から声を掛けるだと…あのガキは何者だ?」
「俺…ノルンちゃんが仕事以外で言葉を発してるの見たの、初めてだ…」
「馬鹿、俺だって聞いたことねえよ…ちくしょうあのガキ…ぶっ殺してやる…」
うわあ。
勝手にヘイト集まってるうー。
「いや、悪いけどいいや。そっち混んでるし」
そう言って俺はにべもなく断ることにする。
すると周囲の喧騒がより一層激しくなった。
「な、なにいー!あの野郎、ノルンちゃんの誘いを断りやがっただとう!?」
「鉄壁ノルンの上をいくガードだってのか!?あいつ…いったい何者なんだ…」
「ちっ、気にいらねえが、その男気は大したもんだ」
「頑張れ…お前がナンバーワンだ…」
おい、女性冒険者から白い目で見られてるぞ、お前ら。
こりゃチーム解散するところも出るんじゃねえか。
「あれま!ノルンが自分から指名するなんて、珍しいねえ!後ろに並んでるあんたら!!私のほうに並びな!!ほれ、お兄ちゃんはノルンのほうに並ぶんだよ。あの子が声をかけるなんて、初めてなんだからね」
もう一人の受付であるおばさんが、こんなことを言い出した。
まあ、結果的に早く受付してくれるんなら、それに越したことはない。
俺はありがたく、ノルンと呼ばれた女の子の目の前に立つ。
並んでいた冒険者たちは、おばさんの一言ですごすごと移動していた。
なんか悪いな、お兄さんたち。
「ん、じゃあ宜しく頼むわ」
「はい…私、ノルンと言います…あなたの名前は……?」
「フルール」
「フルール君……いい、名前だと思う…」
そりゃどうもありがとう。
「世間話はいい。さっさとしてくれ。人を待たせてんだ」
「分かりました…では…まず最初に冒険者ギルドの説明をします…それに同意して頂けるなら…登録となります……」
ずいぶんのんびり喋る子だ。
こんな調子で、冒険者ギルドの受付なんか勤まるのか?
「ああ。分かった」
「では……(スゥーーーー)まず冒険者ギルドの成り立ちから説明致しますと冒険者ギルドが設立されたのはおよそ300年前このアーリオ王国ができて間もない頃の話です当事は新興国ができたということで周辺の国々から当然のように猛烈に攻め立てられ各地で多くの徴兵が行われましたそのような中で残っていた数少ない人々だけでは魔物退治や畑仕事家事育児その他様々な雑務が思うようにいかず一部の有志が窓口を集約させる組織を作ることで少ない人員を効率的に仕事に割り振ることができたのが始まりだと言われていますその内容も今では変化し魔物退治や調合素材の依頼を主として成り立っていますですから当然腕に自信があるほうが有利といえるでしょう依頼はどれも制限なく受けることができますが適正な冒険者ランクというものを設定しております冒険者ランクは登録したての10級から最高1級まで存在しており自分のランクに見合った依頼を少しずつこなしていくことが結果的にランクをあげることに繋がります注意点としては低いランクの依頼ばかりをこなしていてもランクが無条件に上がっていくわけではありませんのでその辺りの兼ね合いはご自身で判断していただくことになっています依頼不達成の場合は報酬の5分の1がペナルティとして没収されますがそれ以外のペナルティはありませんただし登録時と年に一回は銀貨1枚を支払って頂きます冒険者ランクを上げるとそれに見合った特典が増えていきますので頑張ってくださいそれこそ1級ともなれば王宮にて王様より直々に言葉を頂くことができます最後になりますが冒険者同士の争いはご法度ですそれではこのまま登録させて頂いても宜しいですか……?」
……はっ!!
一瞬フェードアウトしてたぜ…いま凄いものを見た気がする…
「相変わらずだな、ノルンちゃんのマシンガン受付…」
「ああ。あれを聞くために冒険者になるやつがいるらしいぞ…」
「くそ、そんな俺たちのノルンちゃんからのご指名を受けるなんて、あいつ一体…?」
あ、有名なんだ、これ。
「あ、ああ。登録頼む。銀貨一枚だったな」
俺は懐の財布から銀貨を一枚取り出す。
向こうでじいちゃんがニヤニヤしているが、この銀貨はあとで請求するからな。
いや、二枚請求してやろう。じいちゃんが無理やり登録させたわけだし、手間賃だ。
そういいことを思いつき、俺もニヤニヤしてしまう。
「では…ここに名前を書いてください…代筆も致しますが…」
「いや、自分で書く……ほれ、書いたぞ」
「……はい、確かに…フルール君は…カッコいいし…きちんと教育も受けているんですね……ポッ」
「じいちゃんが厳しかったからな。字は5歳のときには書けてたよ」
そう、うちのじいちゃんは俺に一般教養やその他武芸、一通りの事を教えてくれている。
いま思えば、じいちゃんは貴族だからあんなに色々と知ってたんだな。
ん?てかこの子、俺の体質にやられてんのか…今更気付いたぞ…
ペローナの壊れ方がかなり激しかったから、この女の子が魅了にかかってるなんて思わなかった。
単純に新人を見つけたからおせっかいを焼いてくれてるのかと思ったが…違ったようだ。
ってことは、この子も当然…『まだ』なわけだよな…
っと、いかん、妙なこと考えちまった。
俺と同い年くらいだろうし、そりゃそうだろう。
こういうことも慣れていかないとな…
「はい…ギルドカードが発行されました…これでアーリオ王国内であれば移動は自由です…冒険者ランクが上がれば国外でも使えるようになりますから…頑張って上げて下さい……」
「ああ、ありがとな。じゃあもらっていくわ」
「…そこに依頼板があります…もし依頼をするなら…私のところに持ってきて…あと達成したときも…登録を担当した以上…フルール君の担当は私……」
「あ、そういうもんなのか。分かった。んじゃ、その時は頼むわ」
「そういうもんなの……」
「おい、そういうシステムだったっけ…?」
「いや…初めて聞いたんだが……じゃあ、俺の担当はステラおばちゃんってことか…?」
「いやだああああ!!俺もステラおばちゃんが登録担当だったああああ!!!おばちゃんが専属だなんていやだああああ!!」
「へへへ、俺はノルンちゃん担当だったからな…これからは大手を振ってノルンちゃんの列に並べるぜ!」
…なんか違うんじゃないか?
まあいいや。用事は終わったし、じいちゃんと合流しよう。
「っと…あれ?じいちゃんどこ行った?」
俺はギルド内をきょろきょろと見回すが、じいちゃんの姿が見えない。
「なんだよ、迷子かじいちゃん。仕方ねえなあボケ老人は」
俺はそうぼやき、じいちゃんを探しに行こうとする…
「おい兄ちゃん、ちょっと待ちな」
そんなことを言いながら、俺の目の前に軽薄そうな男が立ちふさがる。
「ずいぶんと大層な斧持ってんじゃねえか…さっきのやり取り見てたがよ、お前、新人だろ?いかんなあ、新人がそんな武器に頼ってちゃあ。お兄さんが有効活用してあげるから、よこしなさい」
男はニヤニヤと薄汚く笑いながら、そう言い放った。
なに考えてんだこいつ?
ギルドの中だぞ。
「おーい、俺の担当~~!こいつがなんか俺の斧よこせって言ってんだけど、冒険者ギルドじゃこういうのありなのか~?」
俺はわざと大きな声を出し、ギルド中に聞こえるように、ノルンに尋ねる。
すると周りは面白いものが見れるかのように、俺たちに注目し始める。
「おい…キリクだぜ…4級冒険者の」
「なんでキリクさんがあのガキに絡んでんだ…?」
「知らねえよそんなこと…気にいらなかったんじゃねえのか?」
「…何を考えているんですか、キリクさん…冒険者同士の争いはご法度であることはご存知かと思いますが…?」
「おいおいノルンちゃん。違うって、こいつの誤解だよ誤解。俺はさ、修練場での決闘を申し込んだだけさ。このガキの武器が気に入ったのは確かだが、お互い納得済みの決闘なら、問題ないはずだぜ?」
ほう。修練場なんかあるのか、この建物には。
大きいだけはあるな。
「…それこそ正気ですか…?フルール君にメリットがない…そんなもの受けるわけが「あ、いいぞそれで。受けるわ」…えっ…!?」
ノルンが驚いて俺を見る。
そんな驚かなくてもいいだろ。
「ほらな、ノルンちゃん。だから誤解だったんだよ。さ、行こうぜ。修練場はこの奥だ」
男はそう言って前を歩き出す。
俺もそれに付いて行こうとするが・・・
「ちょ、ちょっと待って…!フルール君…!何を考えているんですか…!?」
「何って、決闘を申し込まれたんだ。断る理由がない」
「理由ならあります…メリットがないですし、あの男を甘くみています…あの男…キリクさんはこの港町キヌサ唯一の4級冒険者なんです…経験も実績も、登録したばかりのフルール君とは違いすぎます…やれば100%、負けてしまいますよ…」
ノルンは泣きそうな顔で俺を見る。
「困る。この斧はじいちゃんがくれた俺の宝物だ」
俺は何事もないように、そう応える。
「…だったら、今すぐこの決闘を撤回して下さい…私からキリクさんに謝りますから…」
ノルンはホッとしたように言葉を発した。
でも、悪いな。
「困るから、勝ってくるさ」
俺はそう言い放ち、修練場に向かって歩き出した。
後ろではノルンが大きな声で何かを言っていたが、もう俺の耳には入らない。
あのキリクとかいう男が、この町で一番の冒険者で、4級冒険者か。
灰牙狼を集団でようやく狩るとかいう4級の実力、じいちゃんはああ言ったが、どんなものか見せてもらおうか…
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