まえがき
冒険日報
"象足"ロン・ヘイジス
この本を、墓掘り人、カーク・サビン氏と、ルーンの宿、酒の泉亭の亭主、ルーウィン・マークス氏に捧げる。
まえがき
僕がそもそもこの本を書こうと思ったのは、ふとした時だった。それは、いつものように、酒の泉亭で呑んだくれ、自称、偉大な詩人である魔術師と会話していた時、几帳面にも冒険の日報をつけている男が居る、という話を聞いたからであった。
その魔術師はその、几帳面な男と仕事をした事もあるらしく、その男についていくつかの事を教えてくれた。曰く、剣の腕はそこそこ、酒とブルート・ウィッドが好きで、信頼できる男である。
僕はその男の名前を聞いた。魔術師は、キース・インバルだと言った。ああ、キース。あの、赤い外套を身につけた、傭兵くずれの。と僕は思い出した。
近頃は、若い冒険者…新人の、物のどおりがわかっていない奴らの事だ。奴らが無認可で冒険者を名乗り、遺跡を荒らす、仲介手数料を抜くために、直接仕事を受け、中途半端なままなげだす、そういう事が多々、多々。うんざりするほどある。そういう奴ら向けのハウツー本、また、冒険者というものをよくわかっていない人々へ。ある程度、そういう"ごろつき"とまともな冒険者を見分けるハウツー本。そういう本を書くヒントになるのではないか?僕はそう思い、これは儲かるかもしれない、とも思った。その後、エールを四瓶あけた。
あくる日の昼ごろ、二日酔いに頭を痛めながらベッドから這い出し、酒の泉亭に仕事の口を探しに行くと、キース・インバル氏は居た。数人の仲間と、仕事成功祝いの宴をあげている所だった。エールの臭いが充満していた。キース氏はちびり、ちびりとエールをすすり、ウィッドにサラマンダーのエーテルが宿った短刀で火を点けている所だった。
キース氏に聞いた話と、それを元にして本を出そうと思う、と持ちかけた所、いくらか興味を示した。ウィッドの煙を吐き出しながら。僕はともかく、その、日報を見たいと言うと、氏は自分の足元に置いてあった麻でできた背嚢から一冊の本を取り出し、僕に渡した。
思ったよりも小綺麗な本ですね、と僕は率直に口にすると、氏はそれで十冊目だ、と答えた。そして僕は、氏にことわり、その日はその日報を家に持ち帰り、本になりそうか読んでみる事にした。仕事は受けなかった。エールを一瓶頂いて帰った。
家に帰り、椅子に座り、ランプを点けた。まだ、汚れてはいない十冊目の日報を手に取り、開いてみた。
それは、期待していたほど面白いものではなかった。大スペクタクルもなければ、派手なロマンスもなかった。しかし、冒険者の日常が記されたそれは、僕の当初の目的を十分に果たすようだった。
数日すぎ、小さな仕事をいくつかこなし、酒を飲んで過ごした。氏と再び宿で会う機会があり、中々面白くになりそうなので、本を出そうと思う、そういう風な事を伝えた。氏は忘れていたようだったが、一度目と同じく興味を示した。僕は、前の九冊をすべて持ってきてくれと言った。氏は少し待ってろ、と言い、宿の奥にある、細い階段を登っていった。
しばらくして、氏は汚かったり、焦げていたりする本を九冊、抱えて戻ってきた。僕はその全てを受け取り、お礼を言った。いくらか分前さえありゃ、俺はそれでいいよ。氏はそう言った。
さて、そうして僕は、十冊の、新しかったり、汚かったり、焦げていたりする本と共に、自分の机の前に居る。いくらか流し読みしてみたが、冒険者ではない人には少し難しい、馴染みが薄いのではないか?という箇所がいくつか目についた。なので、この本では、氏の日報より抜粋した本文と、それを読んだ僕の簡単な感想と、注釈。その部を交互に繰り返す構成で執筆したいと思う。
長々としたまえがきになってしまった。文才のない人間というものは、自分の文を長く書きたがるものだ。