18話 疎まれる理由(わけ)
確かに、大柄な男子生徒の頭部に髪はなかった。
しかしそれは、スキンヘッドという自ら頭を添ったファッションだった。
例え、頭髪が薄くなりコレ以外の髪型が生まれたての雛鳥のような凄惨な状態になってしまっていたとしても、あくまで自らの意思によって添ったファッションなのだという自負が彼にはあった。
リーリアの一言は、そんな彼の頭髪に対する自尊心を完膚なきまでに叩き壊すには十分な破壊力を持っていた。
「わっ……わ、我は剥げてなどいないっ! これはこういうファッションだ! そんなことも……」
「うっさい黙れハゲ!! さっきから日差しがテカテカ反射して眩しいのよ!
あんたみたいなうだつが上がらない奴は騎士なんてさっさと辞めて、照明器具にでも転職すればっ!
そうすれば今よりずっと輝けるんじゃない?」
「なっ……なっ……」
リーリアの言葉に、スキンヘッドの生徒の顔が次第に赤みを増していった。
彼以外の生徒たちはといえば、肩を小刻みに震わせながら笑うのを必死に堪えているようだった。
所詮、リーリアへの敵愾心だけで集まった連中だ。そこに仲間意識などあるはずもない。
「いっ、言わせておけば……
少し怖がらせるだけのつもりだったが、もう止めだ!
このバカ女は痛めに会わんと、自分の立場というものが理解出来ないらしい!」
スキンヘッドの生徒の剣幕に当てられたのか、笑うのを止め手にした得物を各々構え直した。
「自分の吐いた言葉を後悔しろ、このクソアマがぁっ!!」
スキンヘッドの生徒は、片手に大降りの剣を振り上げると、それを一気に振り下ろした。
「っ……!!」
怖くない訳がなかった……
全身が強張り、音杖を握っていた手にぎゅっと力を込もる。
刀身が振り上げられた辺りで、リーリアはその両の目を閉ざしてしまっていた。
条件反射なのだから仕方がない。
怖いものは、怖いのだから仕方がない。
……負けたくないと、屈したたくはないと、そう思ってしまったのだから仕方がない。
(痛いだろうなぁ……死なないといいなぁ……)
覚悟を決めて、自分に襲い掛かってくるであろう衝撃に耐えるように、リーリアは身を小さくした。
が……
ドスンッ!
「がぁはっ……!」
一拍の後にやって来たのは、のた打ち回るような激痛……ではなく、何か重いものが地面に落ちたような鈍い音と僅かばかりの振動だった。
「……?」
恐る恐る瞳を開けてみると、そこにはなぜか地面に横たわっているスキンヘッドの生徒と、ここ少しの間に随分と見慣れてしまった男の後ろ姿がそこにあった。
「あんた……なんで……」
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リーリアを追いかけたレオンだったが、実は事の他あっさりと追いついてしまっていた。
と、いうのもリーリアたちは思ったほど奥まった所にはいなかったからだ。
確かに、裏庭へと続く小道からでは木々が邪魔をして見えにくくはあったが、少しでも中に入ってしまえばどうといことはない。
そこにはやはりレオンの読み通り複数の人影があった。
リーリア以外に男子生徒が五人と女子生徒が二人。
レオンが思っていたよりずっと多い人数だった。
状況から察するに、複数人が待ってる所に少人数でリーリアを呼び出した……と、言ったところだろうか。
待ち合わせだと言われれば、ギリギリそう思えなくはないが……
とにかく、声の一つでも掛けようか……そう思いレオンがリーリアたちへと近づこうとした時には、既に口論のようなものが始まってしまっていて、声を掛けるに掛けられない状態になってしまっていた。
一度は立ち去ろうか、とも思ったがどうにも雰囲気がよろしくない。
なので、レオンは近くに潜んで様子を伺うこしにした。
レオンが潜んでいた場所からは、会話の内容までは把握出来なかったが、男が五人リーリアを取り囲むようにしている風景は、どう見ても“お友達と仲良く昼食会”というような雰囲気ではなかった。
しかも、全員でリーリアに剣を突きつける、なんていう一場面もあったくらいだ。
まぁ、全員脅し程度で実際に危害を加えるつもりはなさそうだったので、そのまま見ているだけだったが……
ある程度荒事に慣れてくると、それが脅しで抜いた剣か、殺す気で抜いた剣か判別が出来るようになってくる。
そうして暫く様子を見ていると、大柄な禿た生徒が持っていた剣を怒声と共に振り上げるのが見えた。
“これは流石にマズいだろ!”と、レオン急ぎ飛び出していた。
脅しではない、本気で当てるつもりで振り上げている事をレオンは察したからだ。
最短距離を駆け抜けて禿た生徒の正面へと立つと、振り下ろす手首を掴み相手の力と体重を利用してそのまま投げ飛ばした。
持っていた剣は危ないので、投げる序でに奪っておいた。
禿た生徒は、まるで体重など感じさせない軽やかな動きで、空中で半回転して地面へと落ちて行った。
ドスンッ!
「がぁはっ……!」
禿た生徒は、何が起きたのか理解していない表情を浮かべたまま、頭から地上へと帰還を果たすと、バタリと仰向けに倒れたきりピクリとも動かなくなってしまった。
白目を剥いた倒れているが、命に別状はないだろう……たぶん。
レオンは禿た男子生徒が、伸びているのを確認すると手にした大降りの剣を、邪魔だとばかりにポイッと無造作に投げ捨てた。
この後の展開しだいでは武器も必要になるかもしれない……とは思ったが、大きく重いだけで使い勝手も悪そうだったので不要と判断した。
何より、その剣のデザインが無性に気に入らなかった。
ゴテゴテとして見栄えだけはいいが、その実中身がカラッポな装飾品に用はない。
レオンは何でも、無骨ながら実用性の高いものを好んで使用していた。
「あんた……なんで……」
振り返れば、腰でも抜けているのか、ペタリと地面に座り込んでいたリーリアが驚きと戸惑いの入り混じったような顔をして、レオンの事を見上げていた。
(勢いで出てきたはいいが……どうしたもんかな……)
素直に“後を付けて、物陰からこっそり様子を伺っていた”とは流石に言いにくいものがあった。
なので、何か適当な理由でもでっち上げようと頭を捻っていると、
「おっ、お前は編入野郎っ!
なんでお前がこんな所にいるんだよ!?」
声のした方に視線を向けると、一人の男子生徒がレオンを指差して叫んでいるところだった。
その男子生徒の顔には何処かで見た覚えがあったが、どうにも思い出せない。
まぁ、覚えていたから何だという話なわけだが……
「お前らこそなんのつもりだ?
冗談にしては悪質過ぎるんじゃないか?」
未だに剣を構えている残った四人の男子生徒へレオンは一瞥をくれた。
端からリーリア一人を甚振るつもりでいたのか、一戦交える覚悟すらしていなかった男子生徒は一様に動揺の色を示していた。
なにせ後方の二人など、こっそり逃げる算段をしていたくらいだ。
「おっ、お前には関係ないだろっ!
これは、俺たちとそいつの問題なんだよっ! 部外者がしゃしゃり出てくるんじゃねぇーよ!」
初めに声を掛けてきた、何となく見覚えのある男子生徒が言う通り確かにレオンはこの場では完全に部外者だった。
なぜこんな事になっているのかも、まったく分かっていないのだから。
「まぁ、確かに言う通りだな……」
「だ、だろ……? だったらとっととどっかに行って……」
「だからって、女一人に男が寄って集って……なんて状況見過ごせるわけねぇだろ」
「ぐっ……」
レオンがそう言うと、男子生徒は悔しそうに顔を歪めて押し黙ってしまった。
客観的にこの現状を見たとき、自分たちがどういう役柄なのかということを少なからず理解しているらしい。
どこからどう見ても、暴漢か悪党だ。
「ちょっと、何か勘違いしてるんじゃないの編入生君……」
男子生徒たちが揃いも揃ってたじろいでいるところに、少し離れた所から高みの見物を決め込んでいた女子生徒の一人が、腕を組んだ姿勢でレオンへと近づいてきた。
「勘違い……?」
「そう。君的には“女の子のピンチに颯爽と駆けつけた俺様カッコイイ!!”かもしれないけど、それは逆よ。
私たちが被害者でそっちが加害者。わかる?
弱きを助ける騎士様ごっこをするなら、君はこっちにいなきゃいけないってことよ」
女子生徒は余裕の表情を浮かべて、優雅な仕草で髪を掻き揚げて見せた。
別にそんな事、レオンは微塵も思ってはいない。
むしろ、なんだか面倒な事に巻き込まれてしまった、と若干後悔しているくらいだ。
レオンは生来の面倒臭がりなのだ。
極力余計な事はせずに、魔導学の研究や魔導器の実験に明け暮れたいのだ。
しかし、いつもいつも周りがそれを許さないだけだった。
学園に来たこと然り、リーリアを助けたこと然り……
もし、あの場でリーリアを助けなかったとしたら……大怪我で済めばいいところだろう。
そうなると分かっていて保身を選べるほど、レオンは悪党にはなれなかったというだけの話だ。
しかし……
女子生徒の的外れな推論はどうでもよかったが、少しばかり気になる事は言っていた。
レオンは、女子生徒から視線を外して、話しかけてきた男子生徒へと視線を向けた。
「っ……そっ、そーだよ! 俺たちはそいつの被害者なんだよ! 分ったかっ!」
何が分ったのかは知らないが、男子生徒はコクコクと頷きながら女子生徒の発言を肯定していた。
女子生徒の言葉で勢いづく辺り、小物感がハンパない……
「大体、編入生君はそいつが何をしたのかも知らないでしょ?
それでよく助けようとか思ったわね」
女子生徒が、呆れた、と言わんばかりにレオンを見て肩を竦めて見せた。
女子生徒の言う通り、レオンは現状をよく理解はしていなかった。
ここに居る連中とリーリアの関係から、果てはリーリア個人に至るまでレオンは何も知らない……
だが……
「確かに、俺は何も知らないが、だからって複数人で囲んだ挙句、刃を潰した剣で殴られる程の事をしたとは思えんがな……」
レオンは地面に転がって伸びている男子生徒に視線を向けた。
ビジュアルだけで善悪を判断するなら、男子生徒は完全に黒だろう。
村の一つや二つ、襲ったことがありそうな程の凶悪なツラ構えをしている。
只でさえ悪人ヅラをしているのに、頭が禿げている所為でさらに威圧感が増していた。
騎士にしておくには勿体無い。獣の皮の服でも着せて斧を持たせれば立派な野盗の出来上がりだ。
「それがそうでもないのよね……
だって、そいつは人を一人殺しかけたのだから……」
「っ……」
レオンを通り越し、女子生徒の視線はリーリアを射抜いていた。
その視線に射竦められたのか、レオンは背後でリーリアが息を呑むのが気配で伝わってきた。
「いえ、あれはもう殺したと言ってもいいかも知れないわね」
「“殺しかけた”と“殺した”じゃ、全然違うんじゃないか?」
「あら、そう?
そいつが負わせた怪我の所為で、その人の有望な将来を奪った、という意味では“殺した”と言っても過言ではないのではないかしら?
そうね……折角だから親切で教えてあげるわ。そいつが何をしたのかを……ね」
女子生徒は勝ち誇ったような笑みを浮かべると、腕を組み直しわざとらしく頬に手を当てて考えるような素振りを見せた。
「何から話せばいいかしら……そうね……
あれは……そう、私たちがまだ予科生だった頃の話よ」
女子生徒は、更に芝居がかった口調でとうとうと語り出した。
「その日は、私たちの初めての召喚……召歌の実習をする日だった。
私は音杖を握り締め、座学で学んだことを必死に思い出していたわ。
皆それなりに緊張していたことを、今でも覚えているわ。
実習の方法はとてもシンプルで、騎士の教官に対して召歌を唄い聖霊と繋げるだけ……たったそれだけのとても簡単なものだった……
簡単、と言えるのは今だからでしょうね。当時はそれなりに不安を抱いていたわ。
順番は次々と進んでいった……成功して喜ぶ子、失敗して泣いてしまう子……
そして、私の番が回ってきた。
私はどうにか成功することが出来きて、ほっとした思いで次の子に順番を譲ったわ……
そして、それは起きた」
一旦言葉を切り、女子生徒はリーリアを睨みつけた。
レオンにはリーリアがどんな顔をしているか見えなかったが、何となく想像できるような気がした。
悔しそうな、辛そうな……そんな顔をしているのだろう。
「燃えていたわ」
「っ……」
「燃えた……?」
「ええ。
教官は赤々と燃える炎に包まれていたわ……
今でもはっきりと覚えている……肌を焦がす熱さ、人の焼ける音と匂い……
私たちは呆けていたのでしょうね……目の前で何が起きているのか、まったく理解出来ないままただ立っていた……
一体どれ程の時間そうしていたのか、一人の生徒の悲鳴で私たちは我を取り戻すことが出来たわ。
でも、そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図だった……」
突然人が燃える……
そんな事が目の前で起これば、その後にどんなことが起こるかなど想像に難くない。
それが予科生時代……今から数年も前の、リーリアたちがまだ子どもと呼ばれても仕方がないような年齢の時に起きたのだとすれば尚更だ。
「響く悲鳴、飛び交う怒号……
私たちの異変に、教官たちが逸早く気付いて直ぐに駆けつけてくれた事で生徒に怪我人はいなかった。
燃えた教官も一命は取り留めたわ……一命はね……
後日になって事件の調査が行われたわ。
生徒たちの証言は一様に同じ物だった。
ある生徒が召歌を唄った直後に、教官は燃え出した……とね」
「それが……」
「ええ。そいつよ……」
女子生徒が見下すように冷たい眼差しをリーリアへと向けた。
「しかも、被害にあった教官ってのが、そいつの兄らしくてね。
私は詳しくは知らないけど、とても優秀な人で将来の大成を嘱望されていたそうよ。
それが、こいつに負わされた怪我の所為でその未来は閉ざされてしまった。
人伝に聞いた話だと、全身に大火傷、特に足の末端部分の火傷が酷くて歩のことが出来なくなったと聞くわ。
これを殺したと言って何が悪いの?
今は何処で何をしているのかは知らないけど、あの怪我では満足な生活は出来ないでしょうね……」
「っ……」
女子生徒の言葉を、リーリアは地面に座ったまま大人しく聞いていた。
あまりに静かだったため、レオンもちらりと様子を見たが反論する気もないのか、ただ黙ったまま項垂れているだけだった。
そこに普段の強気な姿勢のリーリアの姿は、何処にもなかった。
「でもね、そいつの罪はそれだけじゃないわ……
証言は全てそいつが犯人だと告げていた。でも、予科の教官たちが出した答えは違った。
原因不明……確固たる原因が分からない以上、事件ではなく事故として扱ったわ。そいつの処分も証拠不十分で不問……
そいつはねぇ、それだけの罪を犯しても、予科をのうのうと卒業して学園に悠々と入学できたの。
普通に考えたら、三等位すら与えられるはずのないそいつによっ!
家柄だけはいいから、裏で何かしたのでしょうけどね……まったく、私たちを馬鹿にするのにも程があるわ!」
本来なら、卒業も入学も無理なはずのリーリアが今ここに居るのは、金と権力にものを言わせた結果だ。と、真面目に卒業・入学を果たした自分たちを馬鹿にした行為だ。と、女子生徒は暗に糾弾していた。
それだけの事を言われているのにも関わらず、リーリアは相変わらず俯いて沈黙を保ったままだった。
(沈黙と肯定は同義とは言うが……)
女子生徒の話を聞いて、ここいにる連中とリーリアの関係性、そしてリーリア自身が言っていた言葉の意味が薄っすらと見えてきた。
ここにいる男子生徒、いや、騎士候補生は過去にリーリアと相棒を組まされた者たちなのだろう。
あんな話が広まっているとすれば、リーリアとの相棒が決定した時点で騎士候補生にしてみれば死の宣告に等しい。
辞退か棄権か放棄か……何にせよ、普通の奴なら怖くて試合会場に行けるわけもない。
不戦敗の確定だ。
この騒動はそれに対する意趣返し、と言ったものだろう。
たぶん女子生徒、唄巫女の候補生も何かしら似たような理由があるのだろうが、それはレオンにはもう興味のないことだった。
レオンは、初めてリーリアとあの丘で会ったときの彼女の言葉を思い出していた。
あれは、自分に関わることでこういった連中から絡まれる恐れがある、という事を暗に警告していたのだろう。
もしくは、リーリア自身の力によってレオンが傷つかないように遠ざけようとしていてくれていたのか……
何にしても、リーリアの不器用な優しさに、レオンの頬が若干緩んだ。
とは、言ったところでレオンの興味は最早そんなところには無かったのだが……
「……面白いな……いや、興味深いと言うべきだな」
「……は?」
一通りの話を聞いた後に、レオンが笑いながらポツリとこぼした言葉に女子生徒は我が耳を疑った。
いや、言葉自体は聞こえていたが、意味が理解出来なかった。
「聖霊の召還による人体発火現象……今までに聞いたことがないケースだな……
可能性としては魔力の反発現象が……いや、人間種に魔力はないから無理か……
唄巫女もしくは、騎士側に何か問題が……となると、その被害にあった騎士って奴に話を……いやいや、発火する前までは普通に霊装出来ていたことを考えればむしろ唄巫女側を調べる方が先か?
あっ、いや、だからこそ、騎士側に詳しい話を……」
レオンは目の前にいる女子生徒をすっかり無視して、顎に手を当て何やら考え事でもするようにブツブツと独り言を言い出した。
これに驚いたのは、男子生徒や女子生徒だけではなかった。
リーリアさえも、呆気に取られたような表情を浮かべて、レオンを見上げていた。
脅えるなり、糾弾するなり、とにかくもっと普通の反応が返ってくると思っていたのに……
「ちょっ、何言ってんの!? 怖くないの!? こいつの所為で人が一人燃えたのよ!
また何時同じような事が起こるか、分からないのよ!
それこそ、次に燃やされるのは君になるもしれないのに!?」
「……だから、なんだ?」
「えっ……?」
女子生徒のややヒステリックな、悲鳴にも近い言葉にレオンは平然とそう答えた。
「そんな事は当たり前のことなんだよ。知っていることで解決出来る事なんて、実はそう多くない。
遺跡調査は何時だって知らないことだらけだ。
知らない術式に、知らない魔導器、知らない技術……
確かにそう言った物に触れるのは、危険なことだ。何が起こるか分からないからな。
例えるなら、霧の中の崖を手探りで進むようなもんだ。
それでも、俺たちはその崖を進まなけりゃならない、“知らない”と言う事を知るためにだ。
だってそうだろ?
“誰も知らない”そこには、“誰も知らない新しい何か”があるって事だ。
“結果”がある。なら、必ず“原因”と“過程”もある。
それらを紐解き理解することで、“未知”を“既知”へと変えて行く……
そうすることで、世界は一つづつ広がって行く。
知らないから、怖いから……だからって全てを遠ざけちまったら、そこからは何も広がらない。何も生まれない。
狭く閉ざされた世界の何が面白い?
“知らない事”があるからこそ、世界ってのは面白いんだろ?」
レオンが周囲を見回すと、リーリアを含めて全員が呆けたような表情を浮かべて黙っていた。
理解……は、されてはいないだろう。
根本的な考え方が全然違うのだ。当たり前といえば当たり前の反応なのかもしれない。
“未知”と言うのはつまりは“恐怖”だ。
分からない物は、怖い。理解できない物は、怖い。
それは至って普通の感情なのだろう。
しかし、レオンは違った。
レオンは昔から、そう、ニドたちと共に生活するようになってからは発掘と研究と実験の日々だった。
それは誰かに進められた事ではなく、レオン自身が進んで行ったことだった。
レオンには、何故か膨大な魔導学に対する知識があった。
どうして知っているのか、何処で知ったのか……そんなことは本人だって知りはしない。
知っているのだから知っているのだ。
それは自分の名前を知っていて当然のように、レオンの中にあった。
だが、それら膨大な知識は同じくらい“知らない”という事をレオンに教えてた。
レオンの知識の中にない事が、レオンの周りには満ち満ちていたのだ。
レオンは貪る様に知識を求めた。知らない“何か”を求めて……
知らない事を一つ知るたびに、レオンはえも言われぬ充足感に陶酔した。
言ってしまえばそれは、一つ世界を支配すると言う事だ。
一つ、また一つとレオンは世界を克服して行った。
そして何時しか、レオンは世界の全ての理を知りたいと願うようになった。
こうして、レオンはニドたちの調査に積極的に協力するようになって行った。
レオンにとって“未知”とは、決して恐怖ではない。
理解すべき興味の対象なのだ。
だから、そんな話を聞いたところで、リーリアに恐怖など感じない。
むしろより一層の興味を掻き立てられたくらいだ。
「正直、話だけじゃイマイチ想像し難いな……
誰か実演でもしてくれると助かるんだが……」
レオンは、そう言って居並ぶ騎士候補生たちを順繰りと見渡し。
レオンの視線が向けられた生徒は皆、たじろいで数歩後ずさった。
その表情は例外なしに恐怖に引きつっていた。
「まぁ……それは俺自身でも別にいいんだがな……」
「っ!?」
つまらなさそうに、ため息混じりに呟いたレオンの言葉に、その場にいる全ての者が驚きの表情を浮かべていた。
「あんた……何言って……」
その中でも、一番驚いていたのはリーリアに違いなかった。
リーリアは、目をまん丸に見開いてレオンの事を見上げていた。
その瞳に宿す感情は、一言では言い表せない程様々な感情を孕んでいた。
「あなたたち! ここで何をしておりますのっ!」
突然、静まり返っていた林の中に、凛とした声が響き渡った。
レオンが声の方へと振り返れば、金髪の豊かな巻き毛を蓄えた見目麗しい少女がそこにいた。
「ここで私闘をしている、と言う報告を受けました。
私闘は規律の23項に抵触しますわっ! 直ちに武器をしまい、大人しくなさい!」
マリアベル・クライベルは数名の生徒を従えて、その豊かな胸を張りそこに仁王立ちしていた。




