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夢現な夢幻

作者: だみ

「2時27分41秒……」

 ここは蓮台野よ。秋めく真夜中は今にも妖しい何かが飛び出そうなくらいにまで暗くなっていたわ。

 私と蓮子は蓮台野にある入り口を探しに、彼岸花が沢山あるお墓の前で、結界暴きと言う名の墓荒し。

「蓮子? 貴女も少しは手伝ってよ」

 その墓荒しの真似をしているのは私だけ。蓮子は空に顔を向け、何やらブツブツと呟いている。

 蓮子は星の光を見て時間が分かって、月を見て今立っている場所が分かるらしい。気持ち悪い。

「だからこうやって、時間を教えてあげているのよ」

「意味が通じないわ」

 蓮子は私の目を気持ち悪いって言ったけど、蓮子の目も充分気持ち悪いわ。

「まあまあ。取り敢えず、合図したらよろしくね」

「う、うん……」

 卒塔婆を抜いたり、墓石を弄ったりする人って、ただの変人にしか思えないんだけど。

 それでも渋々とやっているんだけどね。

「2時30分ジャスト!」

 私はその合図と共に、誰のかも判らないこの墓石を4分の1ほど回したわ。

 何かが起きると予想していた事は現実となって現れたわ。

「す、凄く綺麗ね」

 季節は秋のはずなのに、辺りは一面桜の世界に替わった。

「秋なのに桜……どんなものか楽しみよ! 行きましょ」

 秘封倶楽部は春景色の冥界を歩き始めた。

 たまに身の毛が弥立ってきたのは幽霊のせいかしら? でも、幽霊って呪いをかけるくらいしかできないでしょ。

「そうそう、冥界の幽霊って怖くないみたいよ」

「何で?」

 桜の花弁舞う並木を2人きりで進んでいたのに、私の隣に誰かが寄り添っている気がしたわ。嗚呼、私のご先祖様がいるのね。

 私は親を置いて外国から留学してきて、ご先祖様も外国にいたんだけど、だったら、何でこのヘブンオブジャパン(冥界)にいるのかしら?

「だって冥界って怨む人間すらいないじゃない」

「だから何なのよ」

 それだけでは、何を言いたいのか解らないわよ。

 風が幽雅に吹き抜けて、桜吹雪が顔に当たる。

「だからね、冥界じゃ怨もうにも怨めないから、世界観に反映されるのよ」

「なるほどね」

 じゃあ、私のご先祖様は私を怨んでいるの? 考えるだけで鳥肌が立つわ。

 意識せず、見えない目標に向かっていたら、ゴールが見えてきたわ。

 幹が太く、空高く伸びている冥界桜。でも、枯れているわね。こんな大きな桜の木に花をつけたら美しいでしょうね。いつでもお花見ができそうね。

「これが西行妖か」

「何よそれ」

「知らないの?」

「初めて聞いたわよ。それで何なの? その西行妖っていうのは」

 この枯れ果てた冥界桜は西行妖っていうみたいよ。何処からの情報かは知らないけど、文字通り、妖しい雰囲気ね。

 暗闇の空には星と月が輝いていたわ。蓮子にはあれらがどう見えるのかしらね? やっぱり『ここは冥界です』って言って、時間を教えてくれるのかしら?

「西行妖はね、鎌倉時代の歌人の西行法師の桜の事だよ」

「あー、あの花見を禁止した人ね」

「そうよ」

 蓮子は両手を広げても足りないくらいの幹を優しい手つきで触れた。

「でも、何でその桜が冥界に?」

「さあ……西行がここにいるんじゃない?」

「ふーん……」

 さっきまで美しさが交えた風が吹いていたのに、急に哀しみの突風が風立った。それに煽られた。

 瞬きを1度、1度だけしただけだったのに、冥界の姿は跡形も無く消えて、名も知れないお墓の目の前に佇んでいた。またそのお墓も私達をじっと見つめているようだったわ。

 彼岸花はまだ綺麗な赤だったわ。花弁が1枚1枚、繊細に染められていたわ。



 ━━━━



「メリー早くー。先に行っちゃうわよ」

「ちょっと、蓮子待って」

 私達は衛星トリフネの何処か。衛星トリフネは宇宙の何処か。蓮子はピョンピョン跳ねて、この空間を移動している。

 ジャングルとも言える衛星の中の木々は雑草の青よりも青々しく、やっぱりこっちも妖しい空間だわ。まあもともと私達は妖しい所にしか行かないけど。

 最近に行ったのは月面裏ね。海や入江も見たし、月の兎にも会ってきたのよ。

 ただ、月面では現実だったけど、ここは私の夢の中なのよ。でも私にとっては夢は現実なの。つまりはどっちも現実。

「ここが天鳥船神社の鳥居ね。メリー、ここでしょ?」

「そこよ」

 私は別の夢でここに来たことがあるの。今見ている風景と全く一緒の夢。でも、ここに来たときに目が覚めちゃったから、この鳥居の先は完全に未知。社殿があるかどうかも分からないのよ。完全に未知だからこそ、冒険心が湧いてくるものなのよ。

「蓮子、行きましょ。私のこのウズウズが消える前にね」

「ええ、勿論よ!」

 川の流れる音や何処から吹いてくるか分からない風。何処か神秘的なこの場所に神社となれば、より神秘的ね。

 鳥居を潜り、進んで行くと、枝分かれが激しい木々が生い茂っていたわ。

「何だか……何かがあるわ」

「何、その曖昧さ。もしかして社殿があるの?」

「あー……似てるわね。感覚的に」

 普段はピリッとする刺激は唐辛子よりかはまだ浅い方なんだけど、今の私にはそれ以上の刺激が伝わったわ。

「感覚的にって……まさか電波?」

「んー、そうなのかもしれないわね」

「あ、あっさり認めるのね」

「そんなことよりも。これ、除けない? 中に何があるか気になるのよ。多分、蓮子の言う通り、社殿なんだろうけど」

「ええ。メリー、本当に電波ね」

 聞いたような聞かなかったような素振りで、この鬱蒼と生える木々を折り始めた。細くてすぐに折れそうなのに、数年間宇宙空間にいたから進化しちゃったのね。凄く固いわ。体重を掛けてやっと折れたわ。

 固くて丈夫で余計なお世話な枝を数10本圧し折って漸く現れたわ、天鳥船神社の社殿が。

「社殿ね。間違いないわ」

「そうっぽいね」

 神々しい味気が漂っているのだもの。まだこの神社には神様がいるのかもしれないわ。

 もうちょっと枝を折って、中の様子を見たかったけど、第三者(邪魔者)が来てしまったわ。

 唸声が聞こえる。

 無意識に逃げたいと思ったんだけど、足が固定されたかのように凍りついて、動かすことすらできなかったわ。蓮子は私の腕を強く引っ張ったけど、それでも動かなかった。

 それで、結局……。



 ━━━━



「蓮子、守矢神社って知ってる?」

「勿論知ってるわよ。1番有名な『神社と湖ごと神隠し事件』の神社なんだから。そういえば守矢神社も信州だったわね」

「その通りよ! じゃあ早速行きましょう!」

 私は衛星トリフネで怪我を負い、謎の病が発症。地球上に存在ないウイルス性による体内の進入によるものと診断されたわ。そして、この事を予想していなかった社会は、信州で私を療養のようで遠隔治療である治療法を選んだ。そして今日治ったばかりなのよ。

 原因不明の病が治り、少し浮かれているのか、いつも以上に電波なのよ。さっき、善修寺に行ってきたんだけど、地獄の中とか、善修寺地震の様子とか。色々見えたのよ。

 この調子なら、守矢神社が消えた世界最大の謎が今にも暴けそうよ。

「着いた着いた。うわー……流石地震が起きて放置されっぱなしの神隠しスポットだけあって酷い風景ね」

 世間では昔、祟りで消え去ったのではないかと噂されていて、それもあり、祟り神の住みかと考えている人がいるけど、違うわ。ここは全くの無。神社なんてなければ、神もおらず。勿論のこと、祟り神もいない。

 当然、そんな無の地は忘れ去られ、今では地震の被害を受け、荒れ放題の神隠しスポットになったわ。

「どう、メリー?」

「まだまだ絶好調ね」

「へー……絵で見た通りで面白くないわね」

 蓮子は私の目に手を当てたわ。そうすると、いま私が見ているビジョンが共有することができるの。蓮子はそれを幻像だと思っているみたいだけど。

「誰かいるわね。目付きが怖いわ……蓮子、こっち」

「あ、うん」

 あんな目付きでこちらを見られたら一溜まりもないわ。

 私達は守矢神社の朱い鳥居のそばにある茂みに身を隠したわ。追ってこない。大丈夫ね。また病に掛かるのはごめんよ。

 神道を奥へと辿って見ると、2人が遠くを睨んでいるわ。手前に辿ればさっきの怖い目付きになっている巫女服みたいなのを着ている人がいるわね。

「蓮子……守矢神社が消えた理由、判らないかもしれないわ」

「何で?」

「……そんな気がするだけよ」

「うーん……それはそれで困るわね」

 何、この胸騒ぎ。何かがこっちに来てる?

 私は察知した。ここに巫女がやってくるわ。

「蓮子、来るわ」

「な、何が来るって言うのよ」

「……来た」

 それは私の思っていた巫女ではなかったわ。地に足を付けていなくて、真剣な表情の巫女。その表情からは怒りしか読み取れなかったわ。

 目線を下にして、もう1人の巫女の方へ顔を向かせたら、一瞬、こちらを見られた気がする。

「メリー。私、色んな事調べてきたけど、空を飛ぶという非常識な巫女っていうのは見たことも聞いたこともないわ」

 蓮子の言葉を聞いて、明らかに空を飛ぶ巫女に釘付けのようね。たまには灯台の下を見ないと……。

 風が吹いた。私達を追い出すかのような風だったわ。その強さに怯み、気がつけば、巫女め神社も鳥居も消えたわ。最初から私達を追い出すような奇跡は断るように言っておけば良かったわ。

「あー……それでメリー。結論は?」

「最大の謎は一生……いえ、二度と判ることができないわね」

「そっか。ならどうする? これから」

「もう帰りましょ。久々に家の中の景色が見たいわ。もしかしたら結界の解れが沢山あったかもしれないわ」

 衛星トリフネ探索から少しの間が空いたわね。まだ色々と見えているけど、我が家の方が1番心配しなきゃいけない事だと、いま気づいたわ。家族とか、ゆったりする空間とかそういうのじゃなくて、もっと現実らしい事を心配してるの。



 ━━━━



「蓮子にしては珍しいわね。待ち合わせ時間ピッタリに来るのは」

 私達、秘封倶楽部は今日もカフェで待ち合わせ。私に遅刻魔と呼ばれるようになったサークルメンバーの1人、宇佐見蓮子は、もう1人のメンバーである私、マエリベリー・ハーンとの待ち合わせ時間丁度に着いた。

「そうなの? いつもと同じ時間に出たのにね」

「きっと誰かが時間を狂わせたのね」

「そうときたら倶楽部活動開始……といきたいところだったけど、まず最初にやらなきゃいけない事があったわね。昨日はどんな夢を見たの?」

 私は不思議で満ち溢れた夢を見る度に蓮子を呼び出して、このカフェで待ち合わせをする。昨日も少しだけだったけど、不思議で満ち溢れていた夢を見たから、蓮子を呼び出したのよ。

「鋭いわね。じゃあ話すわね」


 何処に通じるか分からない、長い石段。そこを上っていくのは私だったわ。永遠の階段っていうのもあるみたいだけど、この石段には終わりがちゃんと用意されていたわ。

 それでも息が切れるわね。最後の1段まであともう少しというところなのに、私の足がそれを上がることを許してくれない。まるで、その先に危険が潜んでいることを知っているかのように。

 そんな警告を無視し、最後の1段を上りきったわ。

 息を切らしながらも前を見ると、朱い鳥居があって、その先には何処かで見たことがある人がいたわ。そう、あのときに見た巫女よ。

 その巫女は私に気づき、庭箒を傍に置いてこっちに近づいてきたわ。私もそちらに向かおうとしたけど、胸騒ぎが邪魔して動けなかった。

 こっちに来た巫女は、私に挨拶をする間を与えずにこう言ったのよ。


「『貴女はこの鳥居の支えと支えの間を通ったら、どうなるか分かるかしら?』って」

「何、その投げ遣りな質問。通ってみなきゃ分からないじゃない」

 あの言い方だと、通らなければ一生分かることができない。通れば分かることはできるものの、一生戻ることのできないというような感じよね。

「それで? 通ったの?」

「通ってないわ。だって怖いんだもの」

 大切なものが消えそうで怖かったの。通ろうにも、通れない道だったはずだったのよ。

「そうなの。なら━━」

「いいえ、蓮子。私は通ったの、あの鳥居の先にある道を」

 私の発言は矛盾を引き起こしていた。


 そう、私は支えと支えの間を通ったのよ。巫女の言葉、『貴女はこの鳥居の支えと支えの間を通ったら、どうなるか分かるかしら?』。これを聞いてね。

 知りたかった。ただ、知りたかっただけなの。

 鳥居によって区切られていた境界を通り抜けると、私は戻れぬ人になっていた。この世界を現実だと思ってしまった。大切なものはこっちだったと、初めて思うようになってしまっていたの。


「え、ちょっと、ちょっと待って。それだったら、何故貴女はここにいるの? それに、通っていないって、さっき言ってたじゃないの!」

 蓮子はいつも通り、鋭かった。でも気づくのに遅すぎたの。貴女は今日、遅刻したの。

「それは━━」



 ━━━━



「はっ!! はぁ……はぁ……」

 遠くで私を呼ぶ声が聞こえるわ。霊夢ね。

 でも、今は落ち着きましょう。こんな慌ただしい姿を見られたら馬鹿にされるわ。

 嫌な夢だったわ。今まで1番想いたくないものを、夢で思い出させるなんて。本当にムカムカするわ。

 もう……そう想うしかないのかしら……。

「紫ー。紫、出てきなさいよー」

 大切なものはこっちだということを。

「霊夢」

 私は自分の能力である『結界を操る』で霊夢のすぐ目の前にスキマを展開させ、顔を外に出し、身体を出す。

 霊夢が用もなく呼んでいることは知っていたわ。変ね、霊夢がそんな事をするなんて。

 私の鼓動が鳴り響いて体中が痛いわ。

「あ、やっぱり━━」

「私が貴女に用があるわ」

 貴女が振り返る前に、私がそれを止めた。

「貴女と初めて出会ったのはいつ? 何処で? 何をしているとき?」

 私の目には涙が溜まっていた。それは人間にしかつくれないはずの涙。人間の持つ感情の涙。

「は? 何言っているのよ、紫。頭、おかしくなった?」

 霊夢はキョトンとした顔をし、呆れて溜め息をついた。何も解ってない。なら、解らせるだけよ!

「いいえ。決しておかしくなってなんかないわ。これは本気な事なの」

 今の貴女の表情は、異変が起きたときとそっくりだったわ。

 その通りよ。これは異変なの。私が起こした異変なのよ。

「私は大切なものを置いて、大切なものを手に入れてしまったの。だから答えなさい。そして、私がすべきことを言いなさい」

 私が誤って起こしたこの異変。長かったわね。でも、まだ終わってないわ。貴女がこの異変を解決するの。それが、博麗の巫女の役目よ。私を倒しなさい、霊夢。

「……私の思っていることが正しいのならば……先に私が言わなきゃいけない事があるわ」

 霊夢はたった一つ、息を吐いた。

 そして、その巫女の口はすぐに開かれた。


 ━━やっと……会えたわね。メリー……。


 言葉は私を満身創痍させた。

冥界桜は心踊らせ

幽霊は不安を抱かせる


紅い屋敷は何処か自然で

竹林は迷いを生ませる


偽の富士は壮大であり

真の富士はそれ以上遥かに壮大である


宇宙の暗さは美しくても

この世界の冥さは汚れている


未知の花は未来を見せ

魅知の旅は希望を表す


消えた宇宙ステーションは迷子

木々は進化を遂げる


地獄は一番近く

天国は程遠い


色んな事があっても満ち足りず

私は貴女から消えた



はい。そんなに計画的ではない詩を読んでくださってありがとうございます。


一応確認ですが、蓮子=霊夢、メリー=紫のお話です。

最初は普通だったのに、急に二人が離ればなれになるきっかけができてしまいましたね。蓮子可哀想。

離ればなれになった後の蓮子の行動は最後の場面で分かりますね。なので書きません。


言葉の解釈も結構練りました。たまに意味が分かりそうで分からない言葉があるかもしれないですね。特に守矢神社場面の最後とかですね。あれ、分かりましたか?

メリーが一番心配していたのは空き巣ですw

本当に現実的な事ですね。

後の解釈は皆さんの想像破壊防止のため、こちらも書きません。


しかし、本当にこんな短編でいいのですか……?

あ、ただの自己満足っていう事を忘れてました。

あと、秘封倶楽部流行らせるためでもあります。

秘封倶楽部流行れ!

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