表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「山の上の博物館」

作者: 夢野彼方

 えっちら、おっちら山を登っていくと、林の向こうにレンガ色をした大きな建物が見えてきた。

「あれが山ノ上博物館か」わたしは、独りつぶやく。世界でただ1頭しか見つかっていない、プラチナサウルスの骨格標本を見に、はるばるとやって来たのだ。


 近年、白樺湖の湖畔で発掘されたこの恐竜の骨は、まるで白金でできているかのように光り輝いていたという。

 その後、近辺から次々と他の部位が見つかり、完全な形で復元されるに至った。

 鼻先から尾まで、全長17メートル。アパトサウルスに似た、大型の草食恐竜である。


 自動販売機で入場券を買い、入り口のスタッフに手渡す。

 入ってすぐの広場には、チープな作りのステゴサウルスやT・レックスのレプリカが置かれ、わたしを出迎えてくれていた。

 なんだか、安っぽいテーマ・パークにでも来たような気がしてくる。


 館内に入ると、学芸員がイスから立ちあがり、会釈をした。

「まずは、特設会場のほうからご覧下さい」

「そこは何を展示しているんですか?」わたしは尋ねる。

「はい。昭和時代、この辺りで実際に走っていた乗り物や、使われていた家電製品など、いわゆるレトロを主題に置いた会場となっております」

「ちょっと面白そうですね」わたしは興味を覚えた。

 恐竜はとりあえず後回しにして、まずは特設会場から観ることにする。


 乗り物を展示するだけあって、かなりスペースを広く取ってある。トロリー・バスというのだろうか、屋根からパンタグラフが突き出てたバスが置いてあった。

 「ご自由に中をご覧下さい」と案内が掲げられている。後ろの扉が入りやすそうだったので、そちらのステップに足を乗せたところ、運転席から注意する声がした。

「前のめり、後ろ蹴りだよ」

「えっ、なんですか?」びっくりして聞き返すと、少し照れたような口調で、こう言い直す。

「前乗り、後ろ降りです……よ」


 わたしは前の扉から入り直した。運転席には、当時の運転手が剥製となって、座り続けている。

 言語能力は失っていないのだが、脳みその代わりにおがくずである。時々、とんちんかんな言葉が飛び出るらしい。

「剥製になっても、給料とか、ちゃんともらえるんですか?」失礼かと思ったが、聞いてみた。

「ええ、安いですけど。まあ、好きでやってるし、第一、金の使い道があるわけでなし」運転手は前を向いたまま、そう答える。


 家電のエリアには、電気タンスがあった。NHKアーカイブでは見たことがあるが、実物はやはり迫力がある。衣類の持つ電気的抵抗や容量を還元し、虚数宇宙との通信を可能にする……だったかな。当時は、どの家にも1台はあったそうだ。


 一通り見て歩き、ふと柱のガラス時計に目をやると、もう2時間も経っている。

 ガラス時計は、砂の代わりに粘性の比較的低いガラスが封じ込められている。それが、ゆっくり、ゆっくりしたたり落ち、時を正確に刻んでいるのだ。

「あ、そろそろプラチナサウルスを観に行かなくちゃ」わたしは特設会場脇の階段を上っていく。


 2階は太古の生物をテーマにしていた。

 原始的な生物や、巨大な昆虫、見慣れない奇妙な植物、恐竜、そんなもの達だ。

 当時はなんでも、とにかく巨大だったらしい。ワラジムシやゾウリムシの化石など、まるでスリッパにしか見えない。

 ゴキブリの仲間もすでに存在していたけれど、丸めた新聞紙で叩こうなどとはとても思いつかない。何しろ、背に人を乗せて歩けるほどなのだから。


 お目当てのプラチナサウルスは、堂々と中央にそびえていた。

「うわあ、さすがに大きい……」見上げるばかりでなく、目を細めなくてはならなかった。どこもかしこも磨き上げたような銀色をしている。天井からの照明が無数に反射し、とてもまぶしい。


「どうです、この染み1つない輝き。美しいでしょう?」プラチナサウルス専門の学芸員だろうか。まるで、自分のことのように誇らしげに話す。

「ええ、まるで、本物のプラチナのようですね」わたしが感嘆すると、

「いえいえ。仮に本物のプラチナでこれだけのものを作ったとしても、価値は遙かにおよびません」と、笑いながら首を振るのだった。「プラチナなら、世界中からかき集めることもできますが、なんてったって、あなた。このプラチナサウルスは、世界でこれ1頭きりなんですから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ