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2.男の子は却下する

「あの方が優介さんの想い人ですか。可愛らしい女の子ですね」


「ええっと、まあ……うん……」


「あはは、優介さん、照れてます」


「か、からかわないでくれよ!」


「ふふふ、よっぽど好きなんですね」


「うう……」


 告白してフラれて、神様に出会うというハードな一日の翌日。

 僕はゆきと一緒に、放課後の体育館裏の窓からバレー部の練習を覗いていた。いや、決してやらしい目的ではないぞ、うん。断じて違う。こっちには神様だっているんだ。僕は悪くない。


「といっても、私の姿は優介さん以外には視えませんからね。誰かに見つかるとしたら、優介さんだけですよ?」


「うっ……確かに……。って、ゆきが栞菜を視たいって言ったんじゃないか!」


「そうですけど、見るだけならわざわざ練習を覗かなくても良かったんじゃないですか?」


「う……」


 確かに僕は彼女と幼馴染だし、仲も良かったから連絡先も家も知ってる。なので、ゆきを栞菜に会わせる方法なんて他にいくらでもあるのだが……その、なんだ……やっぱり、まだ気まずい。顔合わせられないっていうか……。

 僕がもごもごと口ごもっていると、ゆきがプッと吹き出した。


「優介さんの気持ちは、わかってますから大丈夫ですよ。念のために、優介さんの存在も周りに気づかれにくくしておきましたから」


「あ、ありがとう……」


 どういたしまして。と笑った彼女はやっぱりかわいくて、僕は思わず顔を背けた。まずいまずい、僕には栞菜がいるんだ。神様に惑わされてどうする。

 必死に他のことを考えようとして、はたと気付いた。


「……ねえ、ゆき」


「はい?」


「さっきからまるで僕の心が読めてるみたいに喋ってるけどもしかして……」


「はい、読心術です。とっても便利なんですよ?」


「ちょっと待って!」


「待ちませんよ~」


「いや、普通にプライバシーの侵害だから!」


「ぷらいばしー?」


「犯罪なの!」


「そ、そうなのですか!? わかりました、今後優介さんには使わないようにします」


「……」


 無知や純粋ほど、恐ろしいものはない。








 覗き――あくまで必要な類のものだ趣味じゃないぞ――を終えた僕らは、僕の家の僕の部屋でテーブルを挟んで顔を突き合わせていた。


「で、栞菜の確認は済んだわけだけど……」


「はい」


「願いって、どうやって叶えてくれるの?」


「それはですね……」


 ゆきは、懐から巻物を取り出した。濃い緑色で、縁には不思議な模様が刻まれていて、なかなか高級そうだ。真紅の紐を優雅に解き、ゆきは巻物を広げた。


「これは、人の体に作用する布陣です。もちろん神通力の類がなければ扱えませんが」


「へえー」


 巻物の中には、いかにもな文字の羅列と不可思議な図形がいくつか描かれていた。


「これを使って、栞菜さんを操ります」


 ん? なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。


「その上で、既成事実さえ作ってしまえば……」


「ストップ、ストップ!」


 僕は慌てて巻物を取り上げた。なんてことを言い出すんだこの神様は!

 だが、ゆきは何で僕が止めたのかわかっていないようだった。きょとんとしたまま、首をかしげる。


「なにか、問題があったでしょうか?」


「ありまくりだよ! ていうか意外と現実的な叶え方だよね!? それにその方法は主に女性がとるものだよ」


 それでも、普通はやらないけどね。お昼の奥様劇場か、もしくはそういう企画のちょっとエロい漫画とか小説くらいだろう。現実でうまくいくとは思えない。


「そうなのですか……少々勉強不足でした。これが一番手っ取り早いと思ったのですが」


「勉強不足というか、その考え方からまず間違ってると思うよ?」


「それでは、心の方をいじりましょう」


「だから無理矢理やるのはダメだってええええ!!」


 ダメだ。汚れてる、この神様、汚れてるよ!

 僕は溜め息を吐くと同時に、ゆきが取り出したもう一つの巻物も取り上げた。


「むー、優介さんはわがままです」


「わがままなんかじゃありません。第一、そんなことしても絶対に成功なんかしないよ」


「どうしてですか? その巻物を使えば、絶対に栞菜さんは頷きますよ? 優介さんの告白は必ず成功するはずです」


「……あれ?」


「どうしました?」


「いや、その……既成事実って、告白なの?」


「? それ以外に何があるのですか?」


「……」


 どうやら、汚れているのは僕の心のほうだったようだ。

 まあどっちにしても、ゆきの案は却下だけど……。





 その後、様々な案をゆきは出してくれたのだが、どれも強行策ばかりだったので漏れなく却下した。というか方法が違うだけで「告白を無理矢理OKさせる」という主軸が結局変わらなかったのだからしょうがない。

 ただ、ゆきは完全に不機嫌になってしまった。


「ふん。あれも駄目これも駄目。優介さんは願いを叶える気があるんですか?」


「だからさ、無理矢理告白を受け入れてもらうっていうのが駄目なんだって」


 さっきからこんな言い合いをずっと続けている。

 長い黒髪に大きな瞳、紅白の巫女装束はいかにも大和撫子然としているのに、この神様はなかなか強情で気が強い。おしとやかなのは言葉づかいだけだった。

 やがて、ゆきはバンとテーブルを叩いた。少し痛そうにしている。強情なだけじゃなくてちょっとドジなところもあるらしい。だけど、それにめげずに、ゆきは叫んだ。


「なら、あなたは、どうして欲しいんですか!」


「どうしてって?」


「さっきから聞いていれば、あなたは私の意見を否定してばっかりです。優介さんも、意見を出したらどうなんですか!」


「……うーん」


 意見、意見か……。といっても僕はゆきが何をできるのかとか知らないし、そもそも僕は願いを叶えてもらう側なんじゃ……あ、でもゆきは確か「一緒に頑張りましょう」って言ってたっけ。

 やっぱりテーブルを叩いた手が痛かったのか、手の平に息を吹きかけているゆきを見た。ゆきにできそうな、栞菜との関係を進展させる方法……。


「あ!」


「なにか思いついたんですか?」


「うん。ちょっと、願いからずれちゃうかもしれないけど」


 それは、ずっと疑問に思っていたことだった。あの告白の時からずっと。その疑問を解消することに、僕自身の好奇心が含まれていることは否定できない。

 その疑問とは


「……栞菜の好きな人って誰なんだろうって」


 ということだ。

 栞菜にフラれた時、彼女は確かに好きな人がいると言っていた。本当なら、是非とも知りたい。


「どうかな、ゆきの読心術を使えばわかると思うんだけど」


「なるほど……まずは敵を知るということですね」


 そんな大層なものではないけど、納得してくれそうだったので頷いておいた。

 少しの間ゆきは額に手を当てて考えこんでいた。昨日も同じ仕草をしていた気がする。癖なのだろうか。

 やがて、彼女が顔を上げる。その顔にはもう怒りの色はなく、目にはやる気の炎が灯っていた。


「わかりました。やってみましょう」


 ゆきが「よしっ」と意気込む。

 僕は思わず心の中でガッツポーズをした。


「やった!」


「……やった?」


「あ、なんでもない」


 とにかく、僕の願いを叶える第一歩は栞菜の好きな人を調べるという方向で可決したのだった。


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