昔の面影
ワシもそろそろ終わりかもしれない。
今年で100歳になるじじぃじゃ。だからそろそろ死期も近いと思っている。
今思い返すと、少し悔いが残る人生だったかもしれないが、今さら考えても仕方がないので、もう色々と諦めることにした。
病院のベッドで横になって、腕には針を刺されて、点滴の管がつながっている。
ガンというわけではないが、きっと寿命なんだろう。
そう思っている。そう思うしかなかった。
死期が近いということは、こんなにも寂しいものなのか。
でも一つだけ心残りがある。
それは…
「田島さん。具合はどうですか?」
ワシはもう上手くしゃべることができないので、ゆっくりと首を縦に動かす。
優しく声をかけてきたのは、看護師の向井さん。今年20歳の新人看護師。
「じゃあ点滴外しますので、動かないでくださいねー」
そう言って腕から針を抜いていく。
その仕草を目線だけで見た。
若い頃の婆さんにそっくりだった。見た目はともかくとして、雰囲気が似てた。
しゃべるテンポとか笑うタイミングとか。
そーゆー面で似ていた。
ワシが唯一惚れた女性ということもあって、向井さんはとても惹かれる女性であった。
そんな彼女にワシは恋愛感情というものを持っているのかもしれない。
この時期になってから笑われるかもしれないが、ワシは彼女との時間をもう少し長く過ごしたい。もっと長い間見ていたい。
そう思うようになって、あと何年生きられるのかを考えるよりも、明日が待ち遠しくなっていた。
これがじじぃの病院生活の楽しみじゃ。