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第七限ー理奈と和乃ー

日が暮れ部活をしていた生徒達も徐々に帰宅しはじめる。珍しく、放課後の家庭科室で理奈はコーヒーを挽いていた。その目の前には、ノックアウトしている華波がいる。

「……追試なんて、追試なんて」

中間テストが終わって半月経過した頃に、この学校では追試が行われる。華波は2教科連続追試という苦行を辛うじて乗り越えて今ここにいる。

「……勉強なんて、なんて」

うわ言のように繰り返しながら、華波はコーヒーを飲む。砂糖とミルクをドパドパ入れて頭の回復を図る。その様を見る理奈は笑う。

「こりてキチンと勉強すれば良いのに」

「ヤ。つまんないもん」

プイッと華波がそっぽを向く。

「しっかりやんないと」

そう言ってコーヒーを飲むのは追試の直前まで理奈と付きっきりで華波に勉強を教えていた和乃だ。店のシフト都合で入れない時はこうやって華波の勉強を手伝ってくれるようになった。その場で返される追試の答案を眺めてる。

「華波にしてはよく出来たんじゃない?教えたところとか全部出来てるし」

「あたし出来る子だもんー」

「「出来る子は追試なんかしません」」

理奈と和乃のダブルパンチを受けて、華波は再びダウンする。

「まぁ、実際華波は出来るけどやらない子なんだよねー」

「そのとおーり」

追試の成績はどれも90点以上。今日で全てーー全5教科ーーの追試は全て終わった。その全てが90以上なんて、大したものじゃない。和乃が言うと、理奈が全く、と否定する。

「華波はやろうと思えば普通のテストだって高得点とれるよ。全教科平均80くらいは」

ぎょっとするのは和乃だ。目の前の勉強嫌いの馬鹿が、そんな頭良いのか、という感じだ。

「私に勉強みてもらいたいだけなんでしょ?」

「なんのことか、さっぱりー」

華波がだってあたし馬鹿だよー、と笑う。

和乃には二人のどっちが正しいのかが、解らない。だが、なんとなく理奈の言う事のが正しい気がした。何故なら、追試は決して優しい問題ばかりではないからだ。

そのまま、華波がある程度復活したのを見て、理奈と和乃は荷物をまとめる。華波も自分のカップを洗い、二人の後をついていく。

「華波はもう少し頑張らないとだよー」

和乃が言うと、華波は耳に手を当てて頭を左右に振る。

「無理無理ー、これが限界ー」

「けど、そしたら理奈と同じ大学に行けないよ?」

「あー、うー。そしたらフリーターしてお姉ぇちゃんの家で家政婦する」

「いらないかな」

理奈は笑いながら、戸をあける。

くらい教室の中から、驚く気配が伝わる。

「はーい、動かないでー、サッカー部の皆さん」

華波が独り教室の中に入っていく。諦めたのか、抵抗する気配はない。

理奈が電気をつけると、そこには、練習着のままのサッカー部の部員がいた。

「驚くのも無理はないよね。見張りはいないかったのに、ジャストタイミングなんだから」

理奈はにこやかに笑いながら犯人を追い詰める。逃げ場なんてものはない。例え逃げたところで、確かな目撃者がいるのだ。言い逃れは出来まい。

華波が彼女らが持っているノートを取り上げる。そこには、華波のクラスと出席番号の書かれたノート。

「和乃の机に忘れていったあたしのノート、なんであんたらが持ってんのかな?」

「それは、あなたたちが和乃の荷物を盗み、捨ててたから。違う?近藤さん」

近藤は諦めたかのようにため息をつく。

「凄いね、森下さん。顧問の横領の件もそうだけど、なんで?」

「和乃はサッカーが上手い。レギュラーという事からもそれが伺える。どの程度上手いのかは解らないけれど、そんな彼女がアルバイトをするために辞めた、となれば、居残り練習をする程熱意のある部としては憤っても、不思議じゃない。戦力の低下、足りない備品。サッカー部には好ましくない状態も続いてる。とくに、こういう事を言うのはどうかと思うけど、あなたたちはそんなに強くない。部費が減る恐れさえある状態で、和乃の退部は痛手だし、加えて裏切られた、と考えても、不思議じゃない。

特に、居残り部員からしたら、上手いのにも関わらず辞めたとなれば、妬みも抱くでしょう」

「……そうだよ、和乃は、上手いのに、遊ぶ金欲しさにあたしらを裏切ったんだ。だから少し困らせてやろうって思ったんだ。一緒に頑張ろうって、言ってたのに」

キッと近藤が和乃を睨む。

「この裏切り者が」

「違」

「馬っ鹿みたい」

華波が、呆れ返った調子で言う。

「は?部外者が」

「和乃はあたしの友達だよ。勉強会教えてくれるし」

ベシッ、とノートで頭を軽く叩く。華波が、近藤を見下す。

「和乃の努力も苦悩も知らないでなにさ。そんなひん曲がった根性だからいつまでたっても上手くならないんだよ。勝てないんだよ。人のせいにしてさ。情けない」

「は!?努力する事を辞めて、自堕落な生活してる奴がいったい」

「華波、もう良いよ」

和乃が華波を制止する。諦めのニュアンスが伝わる。理奈も華波の肩に手をおいて止める。

「正直、ただのイタズラの可能性もあったんだけど、それにしては和乃の机が集中的に狙われるのは不自然だった。だから、試してみたの。あなたたちが、部活を終えてからここにくるのかを」

「で、見事にあたしらはひっかかったわけだ」

「そうね」

「で、あたしらをどうするの?」

視線が、和乃に集中する。

和乃は、疲れたような顔をしていた。

「もう、関わらないで。あなたには、何を話ても無駄みたいだから」

それだけ。そう言って、和乃が教室から出ていくのを見て、理奈も立ち去る。華波は何か言いたそうな顔をしながら二人の後を追う。

「本当に、理奈、よく解ったね」

「……今回の件に関しては、それくらいしか可能性がなかったの。サッカー部の評判よくないし」

確かに。和乃は苦笑いする。対戦相手を罵る応援をして追い出された事もあったのだ。

「だからほとんど勘かな」

「それにしても酷い話だよ」

華波はまだ釈然としないみたいだ。和乃がその頭を撫でる。

「ありがとう」

「いいよ、別に」

「あー、平和に過ごしたいなー」

理奈が言うと、二人が苦笑する。きっと、そんな日は訪れない、と思ったからだ。

「ならお姉ぇちゃん」

「平和な時間を、堪能しようよ」

理奈を両脇から抱え、二人でカフェに連行する。

「え!?ちょ、ちょっと、今日はまだ予習が」

「知ーらなーい」

「聞こえなーい」

中々良いコンビね。理奈は諦めて連行される事にした。

明日も、良い日である事を願いながら。

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