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休み時間ー理奈の休日その一

「お姉ぇちゃんーーーー!!」

「……」

声量という恐ろしい暴力が、耳元で炸裂する。スピーカーと耳が壊れるかと思いながら、理奈はもしもし?と逆の耳に当てながら電話をかけてきた主、櫻子に返事をする。

「耳が痛いからもう少し声おとして」

「ごめんごめん!隣に華波いるー?」

「夜中の0時に華波が隣にいる可能性がなんであるの?」

「え、ラブホとか」

プッ、ツーツー。トゥルルルル。

着信を無視する事に理奈は決め込む。枕の下にケータイをしまって消音する。5回くらい無視すると、着信がなくなる。

「……」

ため息をついてケータイを手にとると、ちょうどメールが来た。

『なんで切るのー!!』

うん、無視。

理奈はメールを無視して読んでいた小説を読み続ける。うん、この小説はやっぱり面白い。

その間も、櫻子からのメールは一応確認だけはしている。電話出てよー、等と無視決定の内容ばかりだ。

無視する事20分。脅迫状が届いた。

『私櫻子っていうの。今あなたの家の前にいるの』

今日は確か、櫻子はバイトのハズだ。22時まで働いた後地元に帰ってるハズ。この辺りにはいないハズだ。

「あれ?続きが」

櫻子のメールには大量の改行によるスクロールがあった。その一番下に

『電話5分以内にくれないとインターフォン鳴らし続けます』

バッ!カーテンをあけると櫻子が家の前にいた。カーテンが開いた部屋、理奈に気付くと、ニヤリと笑う。

「っていうか、こんな時間に何してるの!?」

思わず突っ込んでしまった。

そういえば、さっきの電話の時、声が二重に聞こえた気がする。

「……」

アホだ。馬鹿だ。あまりの馬鹿さ加減に辟易とする。本当、なんでこんな時間にいるの。

すると、警察が通りかかり、櫻子に声をかける。ぎょっとしてる。確かに制服着ている女子が表に居て良い時間ではない。

ため息をつくと、理奈は表に出る。可愛らしいパジャマなのがネックだった。

「こんな時間に何をしてるんだ」

「いや、そのー」

警察に当然ながら詰問されてた。盛大にもう一回ため息をつく。なに、この不幸体質。

「何してるの、櫻子。今日は帰らないんじゃなかったの」

理奈の登場に、櫻子の顔が綻ぶ。

「お姉ぇちゃんーーー!」

強烈なタックルを回避する。回避されると、櫻子は腰にガシッとしがみついてきた。

「……ウエスト、5」

パスッ!頭に一撃平手を入れて黙らす。

「すみません、この子帰って来ないっていうから家の鍵かけてしまったんです。確か、友達の家に泊じゃなかったの?」

「その友達が風邪でドタキャンしたのー」

警官は疑いの眼差しを向けていたが、面倒くささを感じたのか、それ以上の追及はなかった。馬鹿二号の櫻子にしては上出来な合わせではないだろうか。ちなみに、言うまでもなく一号は華波だ。

「……で?」

表においてても面倒と思った理奈は平穏な夜中を捨てて、櫻子を部屋にあげた。

「いやー、お姉ぇちゃん助かったよー、ありがとー」

櫻子はヘラヘラ笑いながら言う。

「それで?」

「本当にすみませんでした」

耐えきれず櫻子はそうそうに謝罪する。用件は?この間の彼氏事件は解決したばっかりだと安心感は出来ない。事件というのはいくらでも転がり込んでくるのだ。とくに櫻子は恋多き乙女なのだ。

「事件があってさ」

「帰って」

「うわーん!嘘!嘘!!冗談だからっ!」

半分本気で追い出そうとする理奈を見て櫻子が慌てる。ここ二年で大分櫻子の対処とイジリ方が解って来た。

「明日暇?」

「暇人に付き合う程暇じゃないかな」

「お姉ぇちゃんーーー!」

「うわっ、他の家族寝てるんだから静かにしてよね!」

かくいう自分も結構大きな声を出してしまった。咳払いをして場をしきり直す。

「何で?急にさ」

「いやー、深夜に思い出す事でもないんだけど、明日なんの日だ!?」

「明日?」

明日は、何の日。つまりイベントか。だが、何か特別な、七夕やら何やらの日ではない。なんの日だったか。

「明日は華波の誕生日でぇーす!!」

「ああ、そういう事」

盲点を突かれた気分だった。

「ドライな切り返し!」

理奈にとっては17年間毎年訪れてた日だ。今更なんの日と聞かれてもパッとしない。

「だ!か!ら!!明日の朝から二人で買いに行こうって!」

「んー、折角の日曜日なんだけどな。煩わしい事件に巻き込まれたりしたくないし」

「……」

まさに至福の1日な訳である。それをトラブルを引き付けるような体質の櫻子と一緒なんて、働き詰めるのと同義だ。

櫻子もその自覚があるのか、少し目を反らす。

それでも、

「じゃぁ、行こうか」

「え?本当?」

「ゆっくりするのも良いけど、たまには櫻子ともね」

そう言って笑うと、櫻子が飛びつく。この至近距離から予備モーションなしの飛びつき。理奈は抗う事も出来ず押し倒される。

「お姉ぇちゃんーーー!大好きーーー!」

「ちょ、櫻子~」

「うわー、お姉ぇちゃんまた大きくなった?」

「ど、どこに顔埋めて」

「確認したげるよ!」

「ちょ、ば!」

「うるせぇ!!何時だと!」

バダンッ!部屋のドアが開け放たれ、理奈の弟が入って来た。

「……」

そして、ベッドの上でじゃれている姿勢のまま固まってる二人を見て、弟もまた固まる。

「た、孝之」

「お邪魔しました」

「ま、待って!孝之!これは誤解なの!決して孝之が思ってるような事じゃ!」

弟こと孝之を説得するのには、少しの時間を必要とした。

「……華波の、誕生日プレゼント……」

孝之は苦々しい顔をする。 昔は仲良く遊んでいた頃もあったのだがある時から孝之は華波を敵対視するように なっていた。櫻子は隅であっちゃー、という顔をする。対して理奈は普段通りだ。

「どしたの?」

「……なんでも、ねぇよ」

不機嫌そうな顔をして孝之は部屋を出て行く。理奈には聞こえなかったが、櫻子にはドアを閉める時の孝之の声が聞こえていた。

「……俺にはもうくれねぇのに」

敵対視する理由。それは、孝之の極度のシスコンからだ。華波の話題になるのすぐ機嫌が悪くなるのだ。

さらには、華波が理奈にベタベタしていると、引き剥がそうとする始末だった。

理奈はそれを思春期から来る華波への照れと勘違いしている始末だった。理奈は他人には酷く敏感なのに、自分が関わる事にはことごとく鈍感なのだ。

櫻子は知っているが、そこに一切突っ込みをいれない。理由は一つ。

トラブルは周りが持ってくると思っている理奈がトラブルの中心という画を楽しんでいるから。

理奈は何であんなに照れるのかな?と櫻子にふる。

「さぁ?華波が美人だからじゃない?」

見てみぬふりが一番楽しい。櫻子はすっとぼけた回答をする。

「だよねー。華波のスタイルは羨ましいよ」

「ねー」

「もう1時だね。寝ようか」

言うと理奈は枕だけ持つと床で横になる。あれ?あれ?

「お姉ぇちゃんー、ベッドで寝なよー」

「ベッドは櫻子が使って良いよ」

いやいや、何をおっしゃる。

「お姉ぇちゃんが床で寝てるのに、あたしがベッドでは寝れないよー」

「なら櫻子も床で寝る?」

「んー」

櫻子は考える素振りをすると、理奈を持ちあげる。お姫様だっこだ。理奈が驚く。それでも落ちる恐怖から櫻子の首に腕を回す。

「ちょ、ちょ!降ろして!」

「はいはーい」

櫻子は理奈をベッドに下ろすとそのまま理奈に布団をかける。頭のところに枕をおいて、自分も布団に入る始末。

「……。……櫻子」

「良いじゃん良いじゃん。女同士」

「……なんで私が二人でベッドで寝ようとしなかったか、教えてあげようか?」

「ん?」

「櫻子の寝相が恐ろしく悪いからだよ」

「……」

櫻子が目線を反らす。だがそれもつかの間。お姉ぇちゃんー、と言って理奈の身体にしがみつく。

「うわっ!本当に勘弁してよ!」

「良いではないか、良いではないか」

「悪代官!」

騒ぎながらも、櫻子は5分後には撃沈していた。普段からハイテンションな櫻子だが、学業にアルバイトにと、多忙な毎日を送っている。ハイテンションは疲れ隠しなのかもしれない。

よしよし、と櫻子の頭を撫でてやると、ニヘラ、と気持ち悪い笑みを浮かべて何かゴニョゴニョ言っている。

そした、理奈もまた、眠り落ちる。

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