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第四限ー理奈と真相

予想はした。閃いた時は間違っていて欲しいとすら思った。だが、理奈の導きだした答えは無情にも当たっていた。

「……どうしよう。なんて櫻子に言おう」

「お姉ぇちゃん、大丈夫?そんかに、言いにくい理由だったの?」

喫茶店で待ってた華波が心配そうに言う。

言いにくい理由。確かにこの上なく言いにくい。本人のプライベートな理由だ。

個人的な理由ではあるのたが、それを責める事は出来ない上に、あまり人に言いふらして良い話しでもない。

故に、理奈は頭を抱えるハメになっている。

友人に真実を教えるかどうか。

ズーッ、華波はアイスコーヒーを音を立てて飲む。普段なら注意する理奈だが、今日は余裕がない。

「まぁ、さ」

華波が言い辛そうにしながら口を開く。

「彼には悪いけど、どんな理由でも言ってあげた方が櫻子のためになるんじゃないかな、あたしは難しい事解らないけどさ」

「そうなんだけどね」

「別に面白がって本人の秘密を言いふらす訳でもないんだしさ、それならいっても良いんじゃないかな」

「そうなんだけどね」

苦笑をしてしまう。華波は単純明快だ。華波ならばきっと躊躇いもなく話せるだろう。

だが、自分はそうでない。その単純明快さには時に羨ましいとも思いもした。

「お姉ぇちゃん」

櫻子が、ひょこりと顔を出して来た。バイトが終わったみたいだった。

「いやー、参った参った。暇過ぎて考え事ばっかりだし、シフト切られたんだもん。あ、お姉さん、コーヒー一つ」

疲れたー、と椅子に腰を下ろす。出された水を一気に飲み干すと、で?と乗り出す。

「清二の真意はどうだったの?」

「……」

理奈が思わず目を反らすと、櫻子の顔が曇る。

「……そう」

「あ」

櫻子の顔は、悲しみに満ちていた。恐らく、ただ単に捨てられたと思ったのだろう。

違う。そうじゃない。

言葉が出て来そうなのに、喉でどうしても突っかかってしまって、言葉が出て来ない。

「あのさ」

華波が、口を出す。なんて事はないといわんばかりの顔で、櫻子の事を真っ直ぐ見据えなぎら言う。

「櫻子の事あたし好きだけどさ、こういうのってどうかと思うよ」

「え」

驚きは櫻子と理奈から。何を言ってるの?二人は驚きを隠せず、困惑する。

「理奈に難度もお願いしてさ。理奈がそういうの苦手で断れずっと請け負っちゃうの知ってるでしょ?なのにそんな顔してさ。理奈の」

「華波落ち着いて」

理奈がそっと華波の肩を押さえる。

「落ち着いてるよ。友達として言ってるんだもん」

しれっと返してくる。何が原因かは解らないが、とりあえず華波の様子がおかしい。

「華波」

「……」

頬を膨らませてる華波を、理奈がなだめる。

「あ」

アヒル口になっていた。華波の寂しい時、拗ねてるの癖だ。

そういえば、今日はあまり華波に構ってなかった気がする。ようは、櫻子が頼んで来なければ遊べた、と思ってるのだろう。その不満に、自分の葛藤が火をつけた。

「……」

華波はまったく意図してないだろうが、その呆れるくらい単純な理由は理奈の胸の突っかかりを外すには充分過ぎた。

よしよし、と華波の頭を撫でてやる。櫻子はまだ驚いたままで、混乱覚めやまぬ感じだ。

「櫻子、ごめんね。華波少し拗ねてるから」

「え、あ、うん、ごめんね」

「ううん、華波がいきなりごめんね」

「……」

華波がそのまま立ち上がる。

「どこ行くの?」

「トイレ」

不貞腐れたまま行ってしまったようにも見えるが、気を使ったのだろう。

理奈は櫻子の方に向き直る。言わなくては、ならないだろう。でないと、華波の1日が、嫌な1日で終わってしまう。

「櫻子、私、これを言って良いのか凄く悩んだんだけど、言わせてもらうね」

「う、うん」

「進藤清二さんはね」

そこで、思わず言葉を切ってしまう。躊躇いがないわけではない。だが、そうも言ってられないだろう。

「進藤清二さんは、女の子なの」

沈黙。櫻子がえ?なに?と言わんばかりの顔をしている。

「ごめん、お姉ぇちゃんの言ってる意味が良く解らないんだけど?」

女の子?と首を傾げる。

「女の子っていうか、性同一性障害?心は女の子とでも言うのかな」

そう、進藤清二は一度も櫻子がダメだったとは、言わなかった。彼女がダメだと言っていた。彼女は櫻子をさすものではなく、「彼女」という存在を示すものだったのだ。

フェミニズムなのも、憧れのような感情を処々に感じさせるものがあった。

そして、理奈が最後に聞いた問。

「あなたは、女性と付き合う気がないのですね」

その問に対して、彼は、

「驚いた。森下さんの予想は合ってるよ。昔からどうも、女の子には仲間意識しか覚えなかったんだ」

仲間意識。彼のその一言が理奈の答えを結論つけるものになった。

結論として性同一性障害という結論に至った。

最後の問にしろ、なんにしろ、少し強引な事だったが、彼の真意を図る事は出来た。

話しを聞いてた櫻子は少しポカーンとした顔をしている。そのまま自分のアイスコーヒーでなく、隣に座ってた華波のアイスコーヒーを口にする。動揺しているようだった。

まぁ、私も混乱したけどね。

本当に話すべきか悩む事になった。話して肩の荷は下りたが、代わりに人の隠して来た事を暴露した事に罪悪感を覚える。

「成程ねぇ」

華波がうんうん、と首を縦に振っていた。

「え、いつ帰って来てたの?」

「今。けど話しは少し聞こえてた。っていうか、あたしのアイスコーヒーはどっち?」

「左」

華波は自分の席に腰をかけるとアイスコーヒーを飲む。

そういえば、トイレはすぐ後ろにある上に、正直言ってボロい。話しが聞こえても無理はないだろう。おまけに華波は凄く耳が良い。

「まぁ、そういう事なら、大人しく身を退いたら?」

「華波」

皮肉るような口調を宥める。まだアヒル口は直ってなかった。

「うん、まぁ、そうなるよね」

櫻子は動揺が隠せないのか、そのままそそくさと帰ってしまった。理奈はそのまま華波の相手をする。

「でさー」

「でねー!」

「本当にー」

華波の話しはころころ話題が変わる。理奈はそれに相槌を打ち続ける。

「ふー」

話したい事を話しきったのか、華波はダラリと姿勢を崩す。はしたない、と理奈が注意すると、華波は笑いながら少しだけ姿勢を直すが、未だにだらしない。

「お姉ぇちゃんはさー」

「んー?」

「告白されたらどうするの?」

「え、考えた事なかったかなー。相手にもよるんじゃないかな」

「ふーん。お姉ぇちゃんって尽くしながらも自分の時間は確保しそうだよね」

「そうかな?そうみえる?」

「うん。付き合ったら、あんまりこうして過ごせないのかなーって」

まだ少し拗ねてるようだった。寂しいんだけど、という声が聞こえそうだ。

「んー、けど、私の時間って、華波とか櫻子とこうやって過ごす事だからなー」

そっぽを向いて言う。目線だけチラリと向けるとキラキラ、という形容詞がよく似合う笑顔をしていた。

「本当?」

嬉しそうな声には思わず苦笑してしまう。本当に素直な子だ。

「ならあたしはもう彼氏なんていらないかなー。男って面倒くさいし」

「こらこら」

「あ、お姉ぇちゃん、あたしのお嫁さんになってよっ!」

いきなりすっとんきょうな事を言い出す。しかし理奈はこの手には慣れてる。

「はいはい」

「またそうやって流すー」

華波が、口を尖らせてそっぽを向く。

「なに、華波は同性愛者なの?」

「むしろ、あたしが同性愛者だったらどうする?」

ニヤニヤしながら華波が面白がって聞いてくる。うーん、理奈が困り顔を浮かべる。

「華波は華波だからどうもしないかな」

「そう?なんだかつまらない答えー」

「じゃあ、付き合い方考えるかな」

「ひどいひどい!」

華波が笑う。それにつられて、理奈もまた笑う。

やがて二人は帰路につく。地元の駅までは同じだ。電車に揺られながら華波は睡魔に負けて寝てしまう。

遊ぶのと寝るのが大好きとは、本当に子供じみてる。自分の肩に身を預ける華波を見て、理奈は思わず笑ってしまう。

「……お姉ぇちゃん……」

寝言。夢の中でも私?もはや呆れ返る。

彼氏。彼女。同性愛。

「どうでも、良いかな」

帰ったらコーヒーを飲もう。今の気分ではかなりビターなコーヒーが良い。ビターで、さっぱりして、後に引かないコーヒーに砂糖とミルクを少し入れるのが良い。

今日1日の締めくくりには、ちょうど、そんなコーヒーが良い。

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