第二十四限ー理奈と櫻子中編1
その後も櫻子は挙動不審だった。ため息をついたり物憂げな表情で、理奈達の気を揉む。ここのところ少し元気がないと思っていたが、今日は大分激しい。
「櫻子、どうしたの」
「なにが?」
「最近様子が変。なにか悩んでいるの?」
放課後、理奈はアルバイトのある櫻子を呼び止めて問い質す。櫻子は少しバツの悪そうな顔をする。
「やっぱり、変?」
「うん」
櫻子は表情を少し暗いものにする。やはり、何か悩みを抱えているようだった。
「私で良かったら相談のるからね?」
「ありがとう。……別に大した話しでもないんだけど、明日のお昼休みにいい?」
「解った」
「ん、ありがとう」
和乃は少し急ぎ足にバイトに向かった。理奈は料理部の活動に向かう。料理部をするようになったのは、華波のためだ。華波が父親のために平日の夜は料理を作ってあげたい、というものだからだ。個人的な理由で活動を再開させるのもどうかと思ったが、今のところそれで文句も出てないので活動は継続中だ。
たまに家にまで理奈が作りに行く事もある。そういう時、華波はいつになく真剣な顔で黙って見ている。理奈の手順を動画で撮影しながら、ポイントをメモして復習しているらしく、華波の腕はメキメキと成長して行った。カレーと肉じゃがはリクエストもあり、最初の頃徹底したお陰で完璧だった。華波曰く「肉じゃがとカレーが嫌いな男なんていないっ!」。だが、かなりの周期で肉じゃがとカレーが続いたお父さんは可哀想だな、と理奈はあのペースを思い出して笑ってしまう。週に少なくとも一回ずつは作ってた記憶がある。
その日も短時間活動を終えて、二人は帰宅する。
「華波、今日は何が良いの?」
「なんか、ニラとか使った奴作りたい。体力つくような!」
「ならレバニラとかで良いかな?」
「あたしお姉ぇちゃんのレバニラ好きだよ」
ニッコリと笑う華波につられて、理奈も笑顔を浮かべる。華波は恍惚とした表情をする。レバニラの味を思い出しているのだろう。よだれが少し垂れる。
「華波、よだれ」
「うおっとっと」
華波は慌てて口元を拭う。思い出しただけでよだれを足らずその様は作り手としては嬉しいリアクションだ。
理奈は会話の合間合間で華波を観察するが、華波には不自然な、気になるような点はなかった。
その日は華波の父親とも会ったが、何も問題は感じなかった。家庭を顧みなかった父親は、反省し、今は家庭に積極的に関わる父親になった。多分問題は起きないかな、と理奈は思う。
「……お姉ぇちゃんー」
華波が辟易とした顔を向ける。だが、理奈は気付かない振りをする。華波の前には、彼女の父親。そして、二人の間には一枚の紙。
それは、今日返却された小テスト。華波の点数は当然壊滅的。おまけに小テストの僅かな時間で寝たのだろう。プリントにはシワがついてた。それはもうバッチリと。
「華波、何点だったのか言ってみなさい」
「うぐぐぐっ、……な、七点」
「ほう、十点満点で七点か?凄いな」
「ぬぐぐぐぐっ!」
無論、満点は百点だ。お父さんも解って言ってるなー、と理奈は調理器具を洗いながら、華波の様を見て笑う。
「べ、別に勉強できなくても死なないもんっ」
華波は開き直り、そう言う。父親はそれを鼻で笑うと、
「それは他にずば抜けた何かを持っている者だけだ」
「お姉ぇちゃんー!」
「……」
ついには逃げ出し理奈の腰にしがみつく。
よしよし、と撫でてから、理奈はカフェオレを手に、父親に向かう。
「義光さん、口を挟ませて貰ってもよろしいですか?」
義光、華波の父親は頷く。理奈は答案にサラッと見る。科目は数学で問題は二問だけだ。
「途中式は出来てるね。ただ途中から崩れて行って、……後半はもうやる気なし、みたいね。途中で投げてるし。……発想力はあって基礎も出来る。後は発展と集中力の持続、過去問の解き方を見続ければこれくらいなら解けそうね」
「……お姉ぇちゃん?」
「華波、私前から思ってたの。華波は最近料理したりって立派に成長したなって。確かに、立派になってる。けどね、華波。私は料理の前にする事あると思うのよ。
華波、勉強しようね」
「……」
助け船だと思ってた理奈からの勉強しましょう発言。華波は撃沈、無気力状態のままに義光と勉強する約束をする。
「大丈夫。華波は本当は頭良いって私は信じてるから。すぐお父さんに誉められるよ」
「ううっ、あたし、机に向かうと眠くなるのー」
玄関まで理奈を見送る華波は、涙を目に溜めながら言う。予習復習だけでもするという程度の約束にも関わらず、華波はまるで世の終わりと言わんばかりだった。
理奈はその様を笑いながら、帰路につく。
さて、明日は櫻子の悩みを聞かなくてはならない。早めに寝て、しっかりと聞いてあげよう。
次は中編2です
勉強はしとかないと、後で後悔します、本当に




