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第十八限ー理奈と夏樹

理奈と華波の家から程近いショッピングモール。祝日休日を問わず、そこは人で溢れる。多くのアパレルブランドの他にもカフェやファーストフード、レストラン、電化製品店まで入っている為に、往来から人が絶える事はない。

土日になるとそれはピークを迎え、家族連れからカップルまで、様々な人でごった返す。

ある日の昼下がり、そんなショッピングモールの入り口近くの一区画に、和乃はいた。目の前には青年が二人いて、和乃の顔には疲労の色が強い。

「だからさー、俺達と」

かれこれ20分に渡るしつこいナンパを受けていた。誰かもう一人いれば、それこそ理奈でも居れば凄く簡単に断ってくれそうなのに、と和乃はこの場にいない理奈に助けを請う。

段々とたまってきた疲労のために、頭が少しばかりぼんやりし始める。

「ね?そこのカフェでお茶するだけで良いからさ」

……お茶くらいなら、良いかな。と思ってしまったのは、疲れて頭が正しい判断を出来なかったからだろうか。

「……まぁ」

良いですよ、と答えようとした時、背後から引かれる。肩に置かれた手は傷が目立つが、優しく温かい。

「ウチの者に、何か用があるんですか?」

聞いた事のある声。振り向くと、けーを慕う暴走族の総長、夏樹が居た。その後ろには、5、6人の屈強な男達。ゾロゾロと二人組を囲む。

「和乃さん、大分困ってたようですねぇ?」

夏樹が白々しく言う。顔が笑ってるのに、目は笑っていない。周りの人達も、何事かと、ざわつき始める。

「確か姉さんの友達の方だよなー、この子」

「姉御の?……良いんかい?総長?姉御の友達に粗相した奴等なんか野放しにしちまってよぉ」

「やっぱり、そう思うよな?テメェ等?」

ああ、やっぱり危ないんだ、この人達。和乃は納得すると、少し二人組を不憫に思った。

「テメェ等?ちっと、コイツ等に」

「や!夏樹さん!わたし全然平気ですから!問題ないですから!」

さらに不憫な事態になりそうだったのを全力で止める。さすがにそれは不憫過ぎる。

「そうですか?……オイ、テメェ等、さっさとどっか消えな」

なんか、本当に夏樹さんって暴走族なんだなー、と和乃は思う。引き連れてるチームの面々は屈強なのに対して、夏樹は細い。あまりにもギャップがあった。

「和乃さん、大丈夫でしたか?」

ニッコリと爽やかなスマイル。チームの面々は、夏樹の指示で邪魔にならなさそうなところで大人しく控えていた。和乃の方を見て何やら話している。実に楽しそうだった。

「え、ええ。ありがとうございます」

「堅くならなくて良いですよ。けーさんのご友人ですから」

「そ、それ言ったら、夏樹さんは年上です」

「ん、そうか。……まぁ、良いや。何かあった時はすぐ呼んで下さいね」

「……わたし夏樹さんのアドレス知りません」

「ん、それもそうですね。では、交換しておきますか?」

夏樹の申し出により、和乃のケータイにアドレスが一件追加される。

「あ!夏樹くん が姉さんの友達ナンパした!?」

「ば、違ぇよ!?」

「姉御に連絡しねぇと……」

ゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッ!

夏樹が全員の頭に一発ずつ拳を落とすと、彼等は頭を抱えて黙る。和乃は苦笑いしか出来ない。

夏樹が盛大にため息をつくと、5人をおいて歩き始める。5人は慌ててその背中を追う。

「夏樹くん!」

「ちょ、待ってくれよ!?」

ショッピングモールは、何事もなかったかのように元通りになる。行き交う人達は道の真ん中で立ち止まっている和乃を邪魔そうに見ている。

「どうしたの、和乃」

背後から、聞き覚えのある声。振り返れば、理奈がいた。

「そんなとこで立ち止まってたら、往来の邪魔になるよ?」

理奈は首を傾げながら言う。なんだろう。心細かった訳じゃない。不安だった訳でもない。だが、理奈を見たら、妙な安心感を覚えた。

「理奈ー!」

和乃は理奈にひしっとしがみつく。

「うわっ、ちょ、和乃!見てる!人が見てる!」

理奈は顔を真っ赤にして和乃を引き剥がそうとするが、和乃は中々強敵であった。華波以上に離れない、強力なホールドだった。……サッカー部でホールドなんてするだろうか?ファール間違いなしだろう。

「な、何やってんだよ!」

後ろから現れた孝之が、和乃を引き離してようやく理奈は解放された。

「華波といい、姉ぇちゃんの周りは痴女揃いなのか!?」

「……すみません」

年下の孝之に怒られて、和乃はしょぼんとしている。さすがに我を忘れ過ぎた事を反省しているようだった。

「ところで、理奈、その子だれ?」

和乃は孝之をさす。そういえば初だったな、と理奈は思うと、孝之の背を押す。

「自己紹介しなさい」

「弟の森下孝之です。高校一年生です。姉がいつもお世話になってます」

「あ、関元和乃です。いつま理奈にお世話になってます。……で、理奈は弟君引き連れてどうしたの?」

「ちょっとね。この間孝之誕生日でプレゼントをクラスの女子から貰ったらしいんだけど、今度の月曜、その子の誕生日なんだって。何あげたら良いか解らなくて買い物手伝ってるの」

成る程。高校生と言えば彼女が欲しくなってもおかしくない年頃だな、と和乃は頷く。

しかし、なんだろう、孝之に対して和乃は妙な違和感を覚える。何か違う気がするという漠然とした違和感。

その答えはシスコンなのだが、和乃はそれをまだ知らない。

「和乃、この後どう?」

「ん?暇だよ。適当に買い物して返ろうかと」

「なら一緒に回らない?雑貨類になっちゃうけどさ」

「んー」

和乃は視線を孝之に移す。孝之は何を言う訳でもなく、ジッと和乃を見ていてた。

「孝之くん、わたし、一緒してもいい?」

「……まぁ、良いけど」

本当は断り対してけど、下手な断り方をして理奈の機嫌を損ねるのは得策じゃないな、と孝之は判断する。これで交友を弘めておくのも良いだろうと、打算的に考える。

「孝之、お願いしますでしょ」

「お願いします」

そう言って少し頭を下げる。理奈ははい、良く出来ました、と言い孝之の頭を撫でる。

「バッ、子供扱いするなよな!」

理奈の手を慌てて孝之は払う。照れた表情が可愛いなー、と羨ましく思う。和乃は自分の弟を思い出す。可愛げの欠片もない、生意気な弟だ。

しばらく三人で孝之のプレゼントを考える。最終的には、マグカップにした。これなら貰っても重くないし、毎日でも使えるだろうという事だ。

「あれ、理奈さん?それに和乃さん。先程振りですね」

すると、またしても夏樹と出くわした。先程までいたチームの面々も荷物もなく、大分身軽そうだ。

今日はよく会うな、と和乃は少し驚く。何せ、このショッピングモール、決して小さくない。むしろ立派にでかい。ただでさえ、人に会うのは難しい。それなのに、同じ日にまた会うのはかなり珍しい。

「夏樹さん、この間はお世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ楽しく過ごせました」

「それは、けーとだからですか?」

「……え、あ、いや。……そうだった、あのとき理奈さんも居ましたもんね。いや、参った」

アハハ、と笑いながら夏樹は頭をかく。その視線が、孝之に移る。

「そちらは?」

「あ、ごめんなさい。紹介が遅れました。……孝之、挨拶しなさい」

「え?ああ。……えっと、理奈の弟の孝之です。よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げる孝之を見て、夏樹は上機嫌そうだ。

「これはご丁寧に。夏樹です。けーさんと理奈さんには、いつもお世話になってます」

「けーの?」

孝之がけーという名前に反応する。真面目な孝之にとっては、けーはただの不良だ。あまり快く思ってない。

「……『けー』?」

理奈とけーは友達。だから夏樹は何も言わないが、年下の孝之がけーと呼び捨てにした事が堪に触ったようだった。拳が不穏にも握られている。

「夏樹さん、すみません。この子けーと昔よく遊んだから、友達みたいな感覚なんです」

「……」

夏樹の視線が、険しい表情はそのままに理奈にずれる。思わず恐怖を覚えてしまう眼力だった。だが、それもつかの間で、夏樹の表情が崩れ、ため息をつく。

「そうです、か。俺も大人気なかったですね」

「いえ、こちらこそ、不躾な真似をすみません。……こら、孝之。お世話になってるって言ってるんだから、呼び捨てにしないの」

「だって、けー、なんだろ?」

釈然としないようだった。

「孝之くん、確かにけーさんや俺等は、いわゆる不良です。喧嘩はするし、道路で好き勝手暴れる。器物破損もします」

夏樹は、先程とは異なり、諭すような顔で言う。

「社会から軽蔑されるような人間かもしれません。ですが、それは俺等のほんの一面に過ぎません。俺は暴走族である事を除けば、君とそう変わらないただの若造です。

特にけーさんは、誰かの為に、あるいは自衛の為くらいでしか暴力を振るったりはしない。

俺の事は良い。けど、けーさんの認識だけは改めて欲しい」

「……結局、あんたはただの暴走族なんじゃないか」

夏樹の言葉に、孝之は拗ねたように言う。夏樹はそんな孝之を見て微笑む。

「ええ、俺は、暴走族です」

俺は、という所にアクセントをおく。

「……」

孝之は不服そうにして何も返そうとしない。夏樹は満足そうに頷くと、理奈に向き直る。

「改めて、奇遇ですね、理奈さん」

ニッコリと爽やかな笑顔。本当、つくずく暴走族であるのが不思議だ。理奈も丁寧な会釈で返す。

「いつも家のけーがお世話になってます」

「とんでもない。けーさんには散々お世話になってますよ」

「今日はどうかしたのですか?」

「いえ、普通に買い物です。服を何着か買っただけです。チームの連中は、先に帰りました」

「……」

理奈の目の色が少し変わり、見透かしたような笑いを浮かべる。夏樹はそれを見て、一瞬目を開きかけて、すぐに元通りの笑顔を作る。

「どうでしょう、夏樹さん。立ち話もなんですから、静かなカフェにでも入りませんか?」

「良いですねー。……問題ありませんか、お二方?」

夏樹と理奈の一瞬のアイコンタクトに二人は気付いていない。孝之と和乃は、何かを言う事なく頷く。

理奈が喫茶店を見繕う。人気の多い、賑やかな喫茶店だった。夏樹がいぶかしむが、理奈は全く気にしてないようだった。

「木を隠すなら、森ですよ、夏樹さん」

「成程」

ふたりのやり取りに、ようやく和乃と孝之は何かあるのだと気付く。

そうして、角の人気が比較的少ない場所を陣取る。メニューをオーダーすると、理奈が目の色を変える。

「で、何でしょうか、夏樹さん」

「全く、手間の省ける人ですね、理奈さんは。本題の前に、何故俺が何か話をしようとしていると気付いたのですか?」

「まず、和乃に先程振り、と言いましたね。つまり、この大きくて、知り合いに遭遇しにくいショッピングモールで二人はどれだけ前かはしりませんが、会っているという事が解ります。

そして、服を買いに来たという割に、夏樹さんは手ぶらでした。袋がないのは不自然でしょう。持たせて帰らせた可能性もありますが、何故帰らす必要があるのでしょうか。恐らく帰ったのでなく、手分けして私を探してるのではないでしょうか。最初、私と和乃が合流したところはこのショッピングモールの入り口の近くでした。和乃は立ち尽くしていたので、その入り口で和乃を助けたのだと推測出来ます。入り口でしたから、散会する前だったのでしょう。そして、手分けして探し出し、あたかも偶然を装い私と接触した。今日私がここに来るのも、恐らくけーとやってるSNSで、けーのページから飛んで見たのでしょう。私は昨晩そう呟きましたから。

ですが、何故家今日来なかったのかが解りません。それは今日の話の内容と、絡んでいるのだとは思いますが」

「ご名答です。全く、なんでそんな事が解るのですかね」

夏樹が両手を開きながら言う。理奈はそんな夏樹を見ながら運ばれてきたコーヒーに砂糖を入れる。

「理奈さんの家には、いけないのです。あたりを周回してたりはしますがね」

「いけない?」

和乃がおうむ返しに問うと、夏樹は頷く。

「まだ、けーさんを快く思ってない連中がいましてね。けーさんの耳には入らないようにしてるんですが、理奈さんを拉致って人質にとろうと企んでるって噂がありましてね」

あまりの突拍子のない事態に、全員口を閉じる。

「な、なんだよ、それ」

少しの沈黙の後、口を開いたのは孝之だった。拉致られる、と言われた理奈当人は、砂糖をドバドバ入れたコーヒーを飲んで満足そうに頷いている。

「なんで、そんな事に姉ぇちゃんが!」

「孝之、夏樹さんに言っても仕方ないでしょ?……夏樹さんは、その警告をしに来た、と?」

「はい。家の外に出る時は気をつけて下さい。それは、華波さん然り、櫻子さん然り、和乃さん然り。けーさんのご友人というだけで、狙われる可能性があります。……このような事態に巻き込んで大変申し訳ない。俺達も、早々にその反発因子を潰すよう努めます。勿論、警備も」

夏樹の話が終わると、テーブルにしばし、沈黙が訪れた。

理奈と華波の家から程近いショッピングモール。祝日休日を問わず、そこは人で溢れる。多くのアパレルブランドの他にもカフェやファーストフード、レストラン、電化製品店まで入っている為に、往来から人が絶える事はない。

土日になるとそれはピークを迎え、家族連れからカップルまで、様々な人でごった返す。

ある日の昼下がり、そんなショッピングモールの入り口近くの一区画に、和乃はいた。目の前には青年が二人いて、和乃の顔には疲労の色が強い。

「だからさー、俺達と」

かれこれ20分に渡るしつこいナンパを受けていた。誰かもう一人いれば、それこそ理奈でも居れば凄く簡単に断ってくれそうなのに、と和乃はこの場にいない理奈に助けを請う。

段々とたまってきた疲労のために、頭が少しばかりぼんやりし始める。

「ね?そこのカフェでお茶するだけで良いからさ」

……お茶くらいなら、良いかな。と思ってしまったのは、疲れて頭が正しい判断を出来なかったからだろうか。

「……まぁ」

良いですよ、と答えようとした時、背後から引かれる。肩に置かれた手は傷が目立つが、優しく温かい。

「ウチの者に、何か用があるんですか?」

聞いた事のある声。振り向くと、けーを慕う暴走族の総長、夏樹が居た。その後ろには、5、6人の屈強な男達。ゾロゾロと二人組を囲む。

「和乃さん、大分困ってたようですねぇ?」

夏樹が白々しく言う。顔が笑ってるのに、目は笑っていない。周りの人達も、何事かと、ざわつき始める。

「確か姉さんの友達の方だよなー、この子」

「姉御の?……良いんかい?総長?姉御の友達に粗相した奴等なんか野放しにしちまってよぉ」

「やっぱり、そう思うよな?テメェ等?」

ああ、やっぱり危ないんだ、この人達。和乃は納得すると、少し二人組を不憫に思った。

「テメェ等?ちっと、コイツ等に」

「や!夏樹さん!わたし全然平気ですから!問題ないですから!」

さらに不憫な事態になりそうだったのを全力で止める。さすがにそれは不憫過ぎる。

「そうですか?……オイ、テメェ等、さっさとどっか消えな」

なんか、本当に夏樹さんって暴走族なんだなー、と和乃は思う。引き連れてるチームの面々は屈強なのに対して、夏樹は細い。あまりにもギャップがあった。

「和乃さん、大丈夫でしたか?」

ニッコリと爽やかなスマイル。チームの面々は、夏樹の指示で邪魔にならなさそうなところで大人しく控えていた。和乃の方を見て何やら話している。実に楽しそうだった。

「え、ええ。ありがとうございます」

「堅くならなくて良いですよ。けーさんのご友人ですから」

「そ、それ言ったら、夏樹さんは年上です」

「ん、そうか。……まぁ、良いや。何かあった時はすぐ呼んで下さいね」

「……わたし夏樹さんのアドレス知りません」

「ん、それもそうですね。では、交換しておきますか?」

夏樹の申し出により、和乃のケータイにアドレスが一件追加される。

「あ!夏樹くん が姉さんの友達ナンパした!?」

「ば、違ぇよ!?」

「姉御に連絡しねぇと……」

ゴンッゴンッゴンッゴンッゴンッ!

夏樹が全員の頭に一発ずつ拳を落とすと、彼等は頭を抱えて黙る。和乃は苦笑いしか出来ない。

夏樹が盛大にため息をつくと、5人をおいて歩き始める。5人は慌ててその背中を追う。

「夏樹くん!」

「ちょ、待ってくれよ!?」

ショッピングモールは、何事もなかったかのように元通りになる。行き交う人達は道の真ん中で立ち止まっている和乃を邪魔そうに見ている。

「どうしたの、和乃」

背後から、聞き覚えのある声。振り返れば、理奈がいた。

「そんなとこで立ち止まってたら、往来の邪魔になるよ?」

理奈は首を傾げながら言う。なんだろう。心細かった訳じゃない。不安だった訳でもない。だが、理奈を見たら、妙な安心感を覚えた。

「理奈ー!」

和乃は理奈にひしっとしがみつく。

「うわっ、ちょ、和乃!見てる!人が見てる!」

理奈は顔を真っ赤にして和乃を引き剥がそうとするが、和乃は中々強敵であった。華波以上に離れない、強力なホールドだった。……サッカー部でホールドなんてするだろうか?ファール間違いなしだろう。

「な、何やってんだよ!」

後ろから現れた孝之が、和乃を引き離してようやく理奈は解放された。

「華波といい、姉ぇちゃんの周りは痴女揃いなのか!?」

「……すみません」

年下の孝之に怒られて、和乃はしょぼんとしている。さすがに我を忘れ過ぎた事を反省しているようだった。

「ところで、理奈、その子だれ?」

和乃は孝之をさす。そういえば初だったな、と理奈は思うと、孝之の背を押す。

「自己紹介しなさい」

「弟の森下孝之です。高校一年生です。姉がいつもお世話になってます」

「あ、関元和乃です。いつま理奈にお世話になってます。……で、理奈は弟君引き連れてどうしたの?」

「ちょっとね。この間孝之誕生日でプレゼントをクラスの女子から貰ったらしいんだけど、今度の月曜、その子の誕生日なんだって。何あげたら良いか解らなくて買い物手伝ってるの」

成る程。高校生と言えば彼女が欲しくなってもおかしくない年頃だな、と和乃は頷く。

しかし、なんだろう、孝之に対して和乃は妙な違和感を覚える。何か違う気がするという漠然とした違和感。

その答えはシスコンなのだが、和乃はそれをまだ知らない。

「和乃、この後どう?」

「ん?暇だよ。適当に買い物して返ろうかと」

「なら一緒に回らない?雑貨類になっちゃうけどさ」

「んー」

和乃は視線を孝之に移す。孝之は何を言う訳でもなく、ジッと和乃を見ていてた。

「孝之くん、わたし、一緒してもいい?」

「……まぁ、良いけど」

本当は断り対してけど、下手な断り方をして理奈の機嫌を損ねるのは得策じゃないな、と孝之は判断する。これで交友を弘めておくのも良いだろうと、打算的に考える。

「孝之、お願いしますでしょ」

「お願いします」

そう言って少し頭を下げる。理奈ははい、良く出来ました、と言い孝之の頭を撫でる。

「バッ、子供扱いするなよな!」

理奈の手を慌てて孝之は払う。照れた表情が可愛いなー、と羨ましく思う。和乃は自分の弟を思い出す。可愛げの欠片もない、生意気な弟だ。

しばらく三人で孝之のプレゼントを考える。最終的には、マグカップにした。これなら貰っても重くないし、毎日でも使えるだろうという事だ。

「あれ、理奈さん?それに和乃さん。先程振りですね」

すると、またしても夏樹と出くわした。先程までいたチームの面々も荷物もなく、大分身軽そうだ。

今日はよく会うな、と和乃は少し驚く。何せ、このショッピングモール、決して小さくない。むしろ立派にでかい。ただでさえ、人に会うのは難しい。それなのに、同じ日にまた会うのはかなり珍しい。

「夏樹さん、この間はお世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ楽しく過ごせました」

「それは、けーとだからですか?」

「……え、あ、いや。……そうだった、あのとき理奈さんも居ましたもんね。いや、参った」

アハハ、と笑いながら夏樹は頭をかく。その視線が、孝之に移る。

「そちらは?」

「あ、ごめんなさい。紹介が遅れました。……孝之、挨拶しなさい」

「え?ああ。……えっと、理奈の弟の孝之です。よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げる孝之を見て、夏樹は上機嫌そうだ。

「これはご丁寧に。夏樹です。けーさんと理奈さんには、いつもお世話になってます」

「けーの?」

孝之がけーという名前に反応する。真面目な孝之にとっては、けーはただの不良だ。あまり快く思ってない。

「……『けー』?」

理奈とけーは友達。だから夏樹は何も言わないが、年下の孝之がけーと呼び捨てにした事が堪に触ったようだった。拳が不穏にも握られている。

「夏樹さん、すみません。この子けーと昔よく遊んだから、友達みたいな感覚なんです」

「……」

夏樹の視線が、険しい表情はそのままに理奈にずれる。思わず恐怖を覚えてしまう眼力だった。だが、それもつかの間で、夏樹の表情が崩れ、ため息をつく。

「そうです、か。俺も大人気なかったですね」

「いえ、こちらこそ、不躾な真似をすみません。……こら、孝之。お世話になってるって言ってるんだから、呼び捨てにしないの」

「だって、けー、なんだろ?」

釈然としないようだった。

「孝之くん、確かにけーさんや俺等は、いわゆる不良です。喧嘩はするし、道路で好き勝手暴れる。器物破損もします」

夏樹は、先程とは異なり、諭すような顔で言う。

「社会から軽蔑されるような人間かもしれません。ですが、それは俺等のほんの一面に過ぎません。俺は暴走族である事を除けば、君とそう変わらないただの若造です。

特にけーさんは、誰かの為に、あるいは自衛の為くらいでしか暴力を振るったりはしない。

俺の事は良い。けど、けーさんの認識だけは改めて欲しい」

「……結局、あんたはただの暴走族なんじゃないか」

夏樹の言葉に、孝之は拗ねたように言う。夏樹はそんな孝之を見て微笑む。

「ええ、俺は、暴走族です」

俺は、という所にアクセントをおく。

「……」

孝之は不服そうにして何も返そうとしない。夏樹は満足そうに頷くと、理奈に向き直る。

「改めて、奇遇ですね、理奈さん」

ニッコリと爽やかな笑顔。本当、つくずく暴走族であるのが不思議だ。理奈も丁寧な会釈で返す。

「いつも家のけーがお世話になってます」

「とんでもない。けーさんには散々お世話になってますよ」

「今日はどうかしたのですか?」

「いえ、普通に買い物です。服を何着か買っただけです。チームの連中は、先に帰りました」

「……」

理奈の目の色が少し変わり、見透かしたような笑いを浮かべる。夏樹はそれを見て、一瞬目を開きかけて、すぐに元通りの笑顔を作る。

「どうでしょう、夏樹さん。立ち話もなんですから、静かなカフェにでも入りませんか?」

「良いですねー。……問題ありませんか、お二方?」

夏樹と理奈の一瞬のアイコンタクトに二人は気付いていない。孝之と和乃は、何かを言う事なく頷く。

理奈が喫茶店を見繕う。人気の多い、賑やかな喫茶店だった。夏樹がいぶかしむが、理奈は全く気にしてないようだった。

「木を隠すなら、森ですよ、夏樹さん」

「成程」

ふたりのやり取りに、ようやく和乃と孝之は何かあるのだと気付く。

そうして、角の人気が比較的少ない場所を陣取る。メニューをオーダーすると、理奈が目の色を変える。

「で、何でしょうか、夏樹さん」

「全く、手間の省ける人ですね、理奈さんは。本題の前に、何故俺が何か話をしようとしていると気付いたのですか?」

「まず、和乃に先程振り、と言いましたね。つまり、この大きくて、知り合いに遭遇しにくいショッピングモールで二人はどれだけ前かはしりませんが、会っているという事が解ります。

そして、服を買いに来たという割に、夏樹さんは手ぶらでした。袋がないのは不自然でしょう。持たせて帰らせた可能性もありますが、何故帰らす必要があるのでしょうか。恐らく帰ったのでなく、手分けして私を探してるのではないでしょうか。最初、私と和乃が合流したところはこのショッピングモールの入り口の近くでした。和乃は立ち尽くしていたので、その入り口で和乃を助けたのだと推測出来ます。入り口でしたから、散会する前だったのでしょう。そして、手分けして探し出し、あたかも偶然を装い私と接触した。今日私がここに来るのも、恐らくけーとやってるSNSで、けーのページから飛んで見たのでしょう。私は昨晩そう呟きましたから。

ですが、何故家今日来なかったのかが解りません。それは今日の話の内容と、絡んでいるのだとは思いますが」

「ご名答です。全く、なんでそんな事が解るのですかね」

夏樹が両手を開きながら言う。理奈はそんな夏樹を見ながら運ばれてきたコーヒーに砂糖を入れる。

「理奈さんの家には、いけないのです。あたりを周回してたりはしますがね」

「いけない?」

和乃がおうむ返しに問うと、夏樹は頷く。

「まだ、けーさんを快く思ってない連中がいましてね。けーさんの耳には入らないようにしてるんですが、理奈さんを拉致って人質にとろうと企んでるって噂がありましてね」

あまりの突拍子のない事態に、全員口を閉じる。

「な、なんだよ、それ」

少しの沈黙の後、口を開いたのは孝之だった。拉致られる、と言われた理奈当人は、砂糖をドバドバ入れたコーヒーを飲んで満足そうに頷いている。

「なんで、そんな事に姉ぇちゃんが!」

「孝之、夏樹さんに言っても仕方ないでしょ?……夏樹さんは、その警告をしに来た、と?」

「はい。家の外に出る時は気をつけて下さい。それは、華波さん然り、櫻子さん然り、和乃さん然り。けーさんのご友人というだけで、狙われる可能性があります。……このような事態に巻き込んで大変申し訳ない。俺達も、早々にその反発因子を潰すよう努めます。勿論、警備も」

夏樹の話が終わると、テーブルにしばし、沈黙が訪れた。

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