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テスト二日前の夜

作者: 桐谷 琳

コメディー、上手く書けているかどうか……。

 現在、午前0時近く。

 天気は晴れ。気温は十五℃前後。外にいるので、あたりは当然真っ暗。街灯が少ないから。道に十数メートルおきに、ポツポツあるだけだ。そして、そんなここはもちろん都会じゃない。

 都会が常に明るいのは、常に街灯がついていて常に電気をつけている建物があるからだ。一つの建物の電気が消えたと思ったら違う建物の電気がつく。マンションとかの集合住宅の廊下の電灯なんかは、一晩中ついてるし。

 何が言いたいかって言うと、それらが一切ないここはものすごく田舎だって事だ。

 付け加えると、山の中。田舎+山の中=ド田舎という方程式が成り立つ為、ぶっちゃけて言ってしまえばここはド田舎。

 空を見上げる。綺麗で目には優しいはずの星の光が、痛い。多分、というか確実に精神的なアレから来るものだが。

 天体観測をするにはもってこいの場所だろうけど、今俺がいるべき場所ではないはずだ。少なくとも、定期テストを明後日に控え、成績赤点の危機に瀕している高校生がいるべき場所ではないはず。

 では何故、俺がこんな所で息を潜める羽目になっているかというと―――。

(しげる)、あんまりがさごそ動かないでよ」


 『原因』が俺の方を振り向く。

 奴は俺―時原(ときはら) (しげる)の幼馴染である倉沢(くらさわ) 慎司(しんじ)

 テスト二日前にこんな所に来ようと言い出したあいつはバカ。

「……動いてねえよ」

「嘘つけ、音聞こえたもんね。バレたらやばいんだから、音出すな」

 そしてあいつに乗せられ騙され脅されてこんな所に来てしまった俺はもっとバカ。

 ……どうしてこうなった。

 いや、元はといえば慎司が悪い!

 金曜日、昨日の事だ。

「茂ー、明日暇?」

 腐れ縁で幼・小・中・高と同じ学校に進んだものの、クラスは違う慎司が、放課後に俺のいる教室を訪ねてきた。

「暇なわけねえだろ。来週テストなんだぞ」

 当然のようにこう返した。前回のテストでやらかしてしまった為、今回点を取らないと親や教師が黙っていないだろうから相当焦っている。

「そうかー、暇じゃないのかー」

 慎司はニコニコと笑顔で頷いた。

 そう、笑顔で。

 何か嫌な予感がしたが、話を続ける。この時、予感に従ってさっさと逃げ出していれば、と今では後悔してもしきれない。

「ああ、暇じゃない。成績優秀なお前と違ってな」

「よし、じゃあ暇にしてあげるよ」

「は?」

 慎司はニコニコ笑顔のままピッと一枚の紙を出した。

「これ、茂の母さんに見せていい?」

「うわあああああ!?なんでお前がそれを持っている!?」

 紙は前回のテスト(数学)の解答用紙のコピーだった。……俺の。

 あまりにもヤバい点数だったので、とてもじゃないが親に見せられず封印処分となった代物だ。

「お前、物の管理甘いもんなー」

 慎司が楽しそうに言う。紙をヒラヒラさせられる度、思い出したくもない数字が紙と一緒に揺れる。

「返せよっ!!」

 ひったくると、慎司は何故かあっさり紙を手離した。

 続けて取り出したのはUSBメモリ。

「データならここにあるから別にその紙はやってもいいよ」

「こんのやろぉぉぉ……」

「ついでにこれもあるけど」

 慎司が録音機を取り出して渡してくる。

 受け取って再生すると、

『俺が好きなのは、』

「わあああああああああああああああああああああああっっ!?」

 俺の声が再生され、大慌てで止める。何でこいつこんなもん……!?

「これ、ご本人に聞かせてきてもいいかな?」

「……オイ待て、これいつ録ったんだ?」

「さあ?企業秘密。それよりご本人に聞かせてきていい?」

 こいつに殺意湧いたのは俺だけか?

「駄目に決まってんだろぉぉぉ!!」

「あ、そうなの残念」

 そんじゃもう一回聞いてみるけど、と慎司は笑顔のまま再び質問してきた。

「明日暇?」

「…………どっかのバカのおかげで暇にならざるを得なくなった」

「良かったー、じゃあ明日ちょっと付き合ってね」

 ……こいつには皮肉が通じないらしい。

「ところで、どっかのバカって俺のこと?俺なんかしたっけ?」

 録音機をいじりながら慎司があくまで笑顔を保って聞いてきた。

「いや別に何も!!」

 ……前言撤回。やっぱり皮肉は通じていたかもしれない。

 



 まぁ、そんな事があって、今日嫌々ながら奴についてくる事になったわけだ。まさかこんな所まで来ることになるとは思っていなかったが。

 てか、

「お前本当、何企んでるんだよ?」

「おっしえっませ~ん」

 楽しそうな声が返ってくる。……ったく、名前に慎むって字があるんだから、もう少し行動を慎めよお前は。

「教えませんじゃなくてだな、俺はこんな時間まで出かけるなんて聞いてないぞ」

「言ってないからね。言ったら来てくれたの?」

 しゃあしゃあとよく言うな。人の事脅してた奴の言うセリフか?来てくれたのって。

「……俺の成績を真っ赤に染めたいのか?」

「やだなぁ。血で染めるみたいな言い方しないでよ、学校の成績表を」

 ケラケラ笑う慎司。……こいつに対して、俺は何度殺意を抱けばいいんだろうか。

「血じゃねぇよ!赤点の事だよ赤点!俺の成績は赤点寸前なの!OK!?分かる!?Do you understand!?」

「会話にナチュラルに英語出せるんなら大丈夫なんじゃないの」

 中学英語を根拠に、実に頼りない保障をしてくれた。

「あのなぁ……!」

「はいはい黙る。そろそろ始めるよ」

 さらに噛み付こうとした俺を手を振って黙らせ、慎司は身を隠していた物陰からそっと辺りを窺った。

「よし、いないと」

 確認すると、慎司は俺の腕を引っ張って立ち上がった。

 引きずられるような形で立つと、慎司がすちゃっと道路に飛び出した。

「お、おい」

「行くよ、遅れないでねっ!」

 そのまま走り出したのを慌てて追いかける。

「って、だからどこ行く気なんだって!」

「ついてくれば分かるよ!」

 振り返りもせずに慎司が答える。その背中に、ふと目が留まった。

 ……こいつ、こんなパンパンにリュック膨れさせて、一体何持ってきたんだ?




「つーいた」

 慎司が足を止めたのは、暗闇でよく見えないが大きな広場のようだった。

「ちょっとここで待っててね」

「……は?何でだよ?」

「まぁまぁ、すぐに分かるからさっ」

 慎司は楽しそうに笑うと、リュックを背負ったまま、タッタッタッと軽い足音と一緒に暗闇の中に消えた。

 あいつ……ホントに何する気だ?まさかやらかす系の事じゃないだろうな……いや、奴の事だから犯罪以外のことなら多少ヤバい事でもやらかすかもしれない。そもそも、テスト二日前の深夜にこんな所に人を連れ出すなんて、普通ならありえない暴挙である。

 止めに行くべきかどうか真剣に悩んでいるうちに、またタッタッタッという軽い足音が戻ってきた。

 背中のリュックが、ぺしゃんこになっていた。

「…………お前、何やらかしてきた?」

「別に何もやらかしてないよ、失礼だなぁ」

 口をとがらせた慎司が、ニヤッといたずらっ子の笑顔になった。

「さーてと。ショータイムの始まりだよ、茂」

「絶対何か企んでる顔だろそれ!それと、」

 ショータイムって何だよ、と言おうとした瞬間。



ド―――――――――――――ンッッ!!!



 突然ものすごい音が背後でした。……さっき、慎司が帰ってきた方向だ。

「ほらっ!何か爆発音したぞっ!爆弾でもやらかしたのか!?」

「文句は後ろを見てから言ってよ」

 耳を塞いだ慎司に言われ、状況確認のつもりで後ろを振り返った。

 するとそこには――――


 綺麗な花火が、空一面に広がっていた。


「え……?」

 呆然としている俺に、慎司が背後から肩を叩いて言った。

「誕生日おめでとう、茂!」

「……えーと?」

 いまいち状況が飲み込めない。

 慎司がいたずらに成功した子どものような表情で楽しそうに種明かししてくれた。

「今日だろ、茂の誕生日。だから、0時ぴったりに花火打ち上げたの」

 誕生日……そうだ、今日誕生日だった!うわ、赤点の危機のせいですっかり忘れた……。

「どうせなら茂驚かそうと思って花火打つ事に決めたんだけどさ、けっこー大変だったわ。花火用意しなきゃいけないし場所も見つけなきゃいけないし」

 苦労した事をつらつらと述べる慎司の顔を花火が照らす。

「はーい、先生質問です」

 慎司の苦労話をぶった斬り、手を挙げた。

「どうして驚かす手段でもうすぐ冬なのに花火にしたんですか?」

「何となく?強いて言うなら季節外れって要素でも驚くかなと」

「もうひとつ!何であんなにコソコソしてたのにこんな大胆な事やらかしちゃったんですか?」

「コソコソしてたのは演出みたいな?だってそっちの方が面白いじゃん」

 楽しそうな笑顔で言う慎司に、いつもなら思いっきり文句を言ってやるところだが―――今日は、何故かそんな気は起きなかった。

 自然と、俺も笑顔になる。

「ありがとう。花火なんかやらかして、お咎めなしかどうか分かんないけど」

「一言多いな。バレなきゃいいの、バレなきゃ!」

 慎司がごろりと足元に寝転がる。

「……バレない自信あんだろな」

 俺も隣に寝転がる。

 ははっと隣から笑い声。

「俺のいたずら歴何年だと思ってんの?筋金入りだけど?」

「知ってるけど……誇るように言う事か、それ?」

 しばらくの沈黙。いつのまにか、花火は終わっていた。

「……で、」

 夜空を眺めながら沈黙を破る。

「帰りどうすんだ、これ」

「早くて始発の電車になるかなぁ……」

「だろうと思った」

 また、しばらくの沈黙。

 今度は、慎司が沈黙を破った。

「珍しいね、いつもならここで騒ぐのに」

「まぁ、確かにな」

 確かに珍しいけど。

「今日はいいかなと思ってさ、ここで朝まで寝っ転がってるのも。――誕生日だし」

「ふーん。じゃあ、ここで朝まで寝てる?」

「そーするか?始発で帰れば、昼には家に着けるだろ」

 綺麗な星空。家にいたら、絶対に見られない空。

 いつも振り回されてばかりの幼馴染がくれた誕生日の夜を、もう少し楽しみたいと思った。


                         <Fin>


                                       


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― 新着の感想 ―
[良い点] テスト二日前の出来事。いや、一日前になりましたね。誕生日、こういう風に祝ってもらえるなんて、最高の親友ですね!! [一言] 桐谷琳が書く作品は、とても心があったかくなる作品ばかりで、いいな…
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