エリエールの回顧録4 少年
すみません。話が逸れてしまいました。
王子様はお姫様と結婚するまで、毎年春に会うことを約束されました。
お姫様は春になると数日、王子様の城に滞在し、王子様に馬で連れ出されては、この国の美しい春を楽しんでおられました。
お姫様が14、王子様が20の秋、本来の滞在時期とは違う時期にお姫様が王子様の城に一人の少年を連れて現れました。
なんでも、お姫様が森で迷って狼に襲われかけたところを村の少年に助けられたそうです。
私は安堵し、王子様はお姫様をちらちら気にしながら、少年にいくつかの薬を作って渡しました。
今では、あんなことになるとわかっていればお姫様はあの時、狼に食べられてしまえばよかったと思っていますが。
☆
お姫様と少年が慌しく帰るのを見送って、私はニヤニヤしながら王子様に話しかけました。
「お姫様、お綺麗になられましたね」
半年前までは、美しさより可愛らしさが勝っておりましたが、その頃にはわずかながら逆転しておりました。
王子様はぼんやりしたまま「うん」と短く答えます。心ここにあらずといった感じです。
「襟ぐりの大きなドレスがお似合いになってきましたね」
「どこを見てるんだ。まあ、綺麗になったとは思うけれど」
わたしは、王子様と同じようにぼーっとお姫様を眺めていた少年のことをちらりと思い出しました。
姫様よりか一つか二つ上の少年・・・。
屋敷を抜け出して森に行けるほど馬を乗り回せようが基本は深窓のご令嬢ですから、余計な心配はないと思いますが、念のため釘は刺しておかなければなりません。
「ご主人様も気になさっていたくせに。ぼんやりしていたら、他の殿方に盗られてしまいますよ」
王子様は、お姫様しか目に入っていなかったようで、自分が手当てした少年のことをすっかり忘れられているようです。
「結婚決まっているのに、そんなことあるわけないだろう」
「危機感の足りないこと。さっさとご結婚なさったらよろしいのに」
私もそんなことは絶対ありえないと思っていましたから、くすくす笑いながらそう言いました。
「でも、求婚の言葉がなぁ」
「それこそ、結婚が決まっているのにいまさらのような気がしますが・・・。確かに求婚の言葉がないよりか、あるほうがよろしいですわね。わかりました。練習しましょう。私を姫様だと思って、告白してくださいな。ぼろぼろに振って差し上げますわ」
王子様のだから、「私と結婚したら毎日草の話をしてあげるよ」などと言いかねません。
「振るのか?」
「どんな答えにも即時対応できるようにするためですわ」
その後は王子様の求婚の言葉を一緒に考えるのに忙しく、私の心の中からも、あの少年のことは消えうせてしまいました。
求婚の練習は本当に猛特訓で――。
まあ、私も王子様もよくあんな恥ずかしい言葉を連発したなと思いますよ。
「具体例を聞きたい」ですって?絶対言いません!