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スケルトンとゾンビ

 夜、部屋に訪れたシャムロックに私は身を強張らせた。


 シャムロックは無言で私の手を取ると固まって動けないでいる私を無理やり立たせた。

 一応、女性に対する最低限の気遣いか私の肩にショールをかけるが、その後は引き摺るように外に連れ出す。


 夜の庭には、早咲きのバラが、ちらほら咲き始めていた。


「姫、頭を冷やされましたか?」


 彼の問いかけに答えず、私は拳を握りこんだ。ルビーの指輪が冷たく感じる。私は道を間違えていないはずだ。


「姫、いつになったら私の愛を受け入れてくれるのですか?」


 言葉には、祈るような、すがるような響きが混じっていたが、私はそれを無視した。

 自分は道を誤っておいて、私には正しい道に戻れと言うのか?


 今まで、吐き出しても吐き出しても心の奥に残っていた黒いものがシャムロックに向けられる。


「私には愛している人がいます。それはあなたではありません」


「あの青年は・・・いつまで経っても現れない」


 そう告げる王子様の顔は優しく冷たい笑みが浮かんでいた。

 青年の名を思わず口走った時も、シャムロックは青年のことを知っているようだったが、子どもだった青年と一緒に行ったときに一度会ったきりの青年の顔と名前を覚えていたとは思えない。


「なぜ、あなたがあの青年のことを知っているのです。あの青年に何かしたのですか?」


 こわばった、だが丁寧な口調で、シャムロックに詰め寄る。

 いつもなら、シャムロックと話すときにこんな丁寧な、どこかの姫君のような話し方はしない。

 年齢を重ねただけではない、心の距離が自然と言葉使いに表れていた。


 彼に詰め寄ったその時、信じられない存在ものが、庭に入り込んできた。肉が全部削げ落ちた骸骨がかたかた動いてゆっくり私に近づく。 私は悲鳴をあげて一歩後退あとじさり、がたがた震えた。


 スケルトンは歩みを止め、カチカチと歯を打ち鳴らす。


 シャムロックが守るように私の前に立つ。 

 私はシャムロックの背後からスケルトンを覗って、スケルトンの指にそれ・・が嵌っているのを発見した。


「あの指輪は……」


 私が贈った不揃いなシロツメクサの指輪!


 私はシャムロックが呪文を唱える横をすり抜け、スケルトンに走り寄って、骨の手を握った。


「姫!」


 その時にはシャムロックの手に紅蓮の炎が現れていたが、呪文が私に当たることを怖れてか、シャムロックは急いで炎をかき消す。


「あなたは……?」


 私の問いかけにも、スケルトンはやはりあごをカタカタ打ち鳴らすだけ。

 だけれど、先ほどは恐ろしかったその音も、今はなぜか悲しげに聞こえる。


 近くで、確認してみるとやはりシロツメクサの指輪は私が青年に贈ったものに間違いなかった。

 私が青年に贈った指輪を嵌めているだけでは、このスケルトンが青年だという決定的な証拠にはならない。違っていたら、この恐ろしいバケモノに食べられてしまうかもしれない。でも……


 私は意を決して、指輪に口付けた。


 その瞬間、シロツメクサの花弁が砕け、庭園に生えているシロツメクサの花弁も巻き込んで、スケルトンを包んだ。その花びらの包みを裂くように真っ黒な獣が数匹苦しそうに飛び出ていく。


 すべての花びらが散った後にはスケルトンから人間に戻った青年が立っていた。

 ぼろぼろと涙を流しながら青年と抱きしめあった私は、王子のほうを振り返ってしまった。 


「いやっぁああ――」


 青年が、私の悲鳴を途中でさえぎる。

 獣がシャムロックに襲い掛かり、彼の身体の肉を一片一片剥いでいく光景を目の当たりにして、駆け寄るどころか一歩も動けない。


 獣はシャムロックを噛み散らかした後、夜闇に溶けた。


 起き上がったシャムロックは腐って肉がぐずぐずぼたぼた落ちている自分の両腕をじっと見つめ……


「これが、私の姿……」


 そう呟き、私と目が合った途端、悲鳴をあげて、庭から逃げていった。

 私は森に走り去る彼を呆然と見つめることしかできなかった。


 私が彼をあんな姿にしてしまったんだ。

 どうすればよかったのかわからない。どれが偽りでどれが真実だったのかも。


 泣き崩れる私を青年が強く抱き寄せる。


「あなたからもらった大事な指輪を失くしてしまったわ」


 そしてこの指輪を嵌める資格もない。私はルビーの指輪をはずした。


「俺もなくしてしまった。でも、何度でも君に指輪を贈る。君の気持ちに区切りが付いたときに、また俺に指輪を作ってくれたらうれしい」


 ☆


「うわっ!」

 誰かの悲鳴が聞こえる。


「王子の服を着たバケモノが!」

「そんなものがいるはずないだろう!」

「念のため王子の所在を確認しろ!」


 城の衛兵が、王子のあの姿を目撃したのだろう。カンテラの光がちらちらと見える。


「ここからすぐ離れないと」


 青年の声に私は涙を拭いて立ち上がった。


「あっちに厩があるわ」


 この人生を選んだなら、この人生を精一杯生きなければならない。

 いつか罰が下ろうとも、その時までこの道を歩き続けるしかないのだから……





 夜明け前に青年と共に村に到着した私は、髪をばっさり切り落とした。

 三日後、村の村長宅に私の国の衛兵が訪れたようだが、金髪の長い髪の女性はいるか尋ねただけだったそうだ。


 そして、それっきり捜索の手が伸びることはなかった。 

『お姫様とスケルトン』と口調等が一部変わっていますが、内容は変わっていない……はずです。

 


もう一話続きます。

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