雪の夜 別れ(お姫様とスケルトンから50年後)
『お姫様とスケルトン』から50年後のお話です。
「おばあちゃん、大丈夫?」
彼女はしわくちゃの手で孫の頭を撫でる。
「大丈夫。今日はもう遅いから寝てしまいなさい」
誰もいなくなった部屋で、彼女はそっと息をつく。
彼女の指から花の指輪がなくなって―夫が死んでもう3年。
ついに、自分も旅立つ時が来たのだ。
しゃくしゃくとこんな吹雪の中、窓の外から人が歩く音がする。その音は窓の前で止まる。
彼女は、ゆっくりとした動作で窓に手をかける。
「寒いから、窓を開けなくてもいいよ」
窓の外から懐かしい声が聞こえる。
「雪の中、大変だったでしょう。上がって」
彼は壁を抜けるようにして入ってきた。頭に雪が積もった“彼”の姿に彼女は苦笑する。
「あなたとの結婚を破棄して、王族としては愚かしいことをしたわ」
跡継ぎを失った彼の国は、彼女の生国に乗っ取られてしまった。そんなこと、何一つ望んでなかったのに。
「君は幸せだったのだろう」
「ええ、幸せだったわ」
「なら、いい」
本当に、息をするのがつらい。身体に余計に一枚布団がかぶさるような、気だるさが襲ってくる。
「さあ、私を連れて行って。シャムロック」
50年ぶりに呼んだ彼の名。しかし、彼は悲しげに首を振る。
「私は、死神ではないよ。君は一人で夫のもとへ行くんだ」
ゾンビはその夜、大切な従姉妹を見送った。
時間の流れとしてはこの後『ゾンビとアカツメクサ』になります。
次回から『エリエールの回顧録』がスタートします。
そちらもよろしくお願いします。